安価なアパートより割高…若者が不便な「ドミトリー」に定住のワケ | FRIDAYデジタル

安価なアパートより割高…若者が不便な「ドミトリー」に定住のワケ

ノンフィクション作家・石井光太が家を無くした若者「ヤング・ホームレス」の実態に迫る!

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
若者の利用も多い簡易宿泊所(画像はイメージで一部加工しています。共同通信社)

その簡易宿泊施設の看板には「カプセルホテル」と記されている。だが、中は世間一般で認識されているカプセルホテルではない。

窓のない10畳ほどの部屋に、4台もの2段ベッドが並べられている。各ベッドは薄いカーテンで仕切られているが、隣のベッドとの隙間は50センチくらいしかないので、小さな音はすべて筒抜けだ。

このドミトリー型の宿泊施設には、最大110名が泊まることができるが、ベッドを1ヵ月単位で借りて何年も暮らしている「定住者」も少なくない。おおよそ2割が数ヵ月以上暮らす者たちだ。

東京や名古屋や大阪といった都市の繁華街には、こうしたドミトリー形式の簡易宿泊施設が複数ある。地域や施設によって異なるが、価格は一晩2000~3500円、1ヵ月の契約だと5万~9万円くらいだ。

こうした簡易宿泊施設の呼び名は定まっておらず、各々が「ゲストハウス」「シェアハウス」「カプセルホテル」「ホテル」「宿泊所」などの看板を出している。

シリーズ「ヤング・ホームレス」では、若い男女の漂流生活を記しているが、こうしたドミトリー形式の簡易宿泊施設もまた、彼らの定住先の一つになっている。

安価なアパートだと、都内でも家賃は4万円台で済むのに、なぜそれより不便で高いドミトリー形式に定住するのだろう。その背景には、都会の深い闇が広がっている――。

1日ごとでなく月額が便利なワケ

東京・新宿の繁華街にあった「A」というドミトリーには、常に30人前後の定住者がいた。多くが後で述べるように、最初はホームレス同然でやってきて、やがてそこに住み着いてしまった者たちだ。

宿泊費は、一泊2500円、月額8万円。単純計算すれば、日払いの方が安く済む。

ただし、日払いだと1日ごとに荷物を抱えてベッドを空けなければならないが、月額の場合は同じベッドが使用できる上にロッカーに荷物を置くことができる。定住するには、月額の方が便利なのだ。

定住者は、ほぼすべて男性だ。ほぼ、と記したのは、町で働く「ニューハーフ・バー」のホステスや、「ウリ専」の男性が泊まっていることがあるからだ。

一般的な水商売や風俗では、店が寮を備えているケースが少なくない。だが、ニューハーフ系の店や、特殊な売春をあっせんする店の中には寮がないところもあり、そういうところで働く人たちが宿泊先として利用することがあるのだ。

簡易宿泊所は時に自治体の立ち入り検査を受けることも。神奈川県川崎市(画像はイメージです。時事通信社)

都会にはネットカフェなど、いくつかの簡易宿泊施設がある。それでもドミトリーを選ぶのはなぜか。

10年以上ドミトリー生活をしてきた綾部伸(仮名、以下同)は次のように語る。

「ネットカフェは、売春をしている若い女の子向けのイメージなんです。彼女たちはネットでいろいろとつながるから、密室で何時間も過ごしても平気ですよね。

対して、ドミトリータイプの宿にいるのは20代後半以上の男性で、基本は昼間働いている人なんです。アナログの人も多い。そうなると、休憩室とか、浴室とかで、他の人の顔が見える暮らしをしていた方が、孤独感が紛れます。お互いに仲良くすることはありませんけど、休憩室であいさつを交わすくらいはします」

ドミトリーを選ぶのは、主に次のようなメリットがあるからだという。

1,大浴場がある。

2,住民登録ができる。

3、汚れていても目立たない。

順番に見ていこう。

まず、大浴場についてだ。ネットカフェにはシャワールームはあるが、バスタブのようなものはない。その点、ドミトリーの中には大浴場を備えているところがあるので、お湯につかりたいという人はこちらを好むのだ。

2つ目は、住所を置けるという点だ。それなりの仕事に就くには、住所は不可欠だ。

最近はネットカフェでも住民登録ができるようになりつつある。しかし、検索されれば、ネットカフェに住んでいることが明らかになり、それが採用の足枷になることもある。

その点、ドミトリーであれば、住所を置ける上に、検索されても「ゲストハウス」「シェアハウス」などとして出てくるので、ネットカフェほどには問題になりにくい。

定住者の職業とは……

3は、肉体労働者にとっての住みやすさだ。彼らは汚れた作業着で出入りしなければならず、ネットカフェでは嫌な顔をされやすい。その点、ドミトリーは男性が多いし、肉体労働者も少なくないので、気をつかう必要がない。

ドミトリーに暮らす人たちは、どういう仕事についているのだろう。先の綾部はこう話す。

「やっぱり不安定な仕事についている人が多いですね。土木関係の労働者、パチンコの打ち子、レストランや店のアルバイト、清掃業、並び屋なんかです。月に8万円の宿泊費を払わなければならないので、それなりに稼げる仕事に就きながら、寮がない会社で働いているとか、訳あって住居を転々としなければならないとかいった理由がある人たちです。だから、仲良くなっても深い話はタブーですね。お互いに暗い過去があるとわかっているから突っ込まないのが礼儀なのです」

ドミトリーに暮らす人の中には、仕事を掛け持ちしている人も多いという。これはドミトリーの営業時間によるものだ。

ドミトリーはネットカフェの個室とは異なり、毎日清掃やベッドメイクが入る。Aであれば、10時半~17時までが清掃の時間となっていて、その間はロッカーに入れた荷物はそのままにしていてもいいが、宿泊者は外に出ていなければならない。

問題は、休みの日だ。繁華街で7時間以上も暇つぶしをしようとすれば、それなりに金がかかってしまう。そこで定住者の多くは、その間簡単なアルバイトをして時間を潰す。たとえば、普段は肉体労働をしている人が、休日の清掃時間の間はティッシュ配りや水商売の宣伝カーの運転のバイトをするなどだ。

だが、それだけ働いていれば、月の収入は30万円以上にはなるだろう。それなのに、なぜアパートを借りず、ドミトリー生活をつづけるのか。

実はそこに彼らが抱える大きな闇がある。彼らはある事情を抱え、そして歓楽街という特別な誘惑と欲望の沼地に沈んでしまっているがゆえに、そこから脱することができなくなっているのだ。

後編【若者たちの告白 「ドミトリー」で住む特殊事情】では、彼らがドミトリー生活をするに至った特殊な事情と、歓楽街に沈んだ罪深き欲望について紹介したい。

後編【若者たちの告白 「ドミトリー」で住む特殊事情

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

  • 写真時事通信社

Photo Gallery2

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事