若者たちの告白…不便で家賃の高い「ドミトリー」で住む特殊事情 | FRIDAYデジタル

若者たちの告白…不便で家賃の高い「ドミトリー」で住む特殊事情

ノンフィクション作家・石井光太が家を無くした若者「ヤング・ホームレス」の実態に迫る!

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簡易宿泊所は時に自治体の立ち入り検査を受けることも。神奈川県川崎市(画像はイメージです。時事通信社)

歓楽街にあるドミトリー型の簡易宿泊施設。なぜ、彼らはアパートの家賃以上に高い宿泊費を払い、そこで暮らすのか。前編【若者が不便な「ドミトリー」に定住のワケ】に続き、都会の深い闇につながる背景を紹介したい。

まず、新宿でドミトリー生活をした2人のいきさつについて紹介したい。

〇打ち子

速水駿介(仮名、以下同)は四国の田舎で問題を起こしていられなくなり、東京へやってきた。最初はキャバクラや風俗店の寮に暮らしながら黒服として働いていたが、行く先々で金銭トラブルを起こした。

ある日、駿介は仕事上のトラブルがきっかけで店を辞めて寮を出なければならなくなった。そんな時、パチンコ店で知り合った業者の人間から、「打ち子」として働かないかと誘われた。打ち子とは、業者に言われたパチンコ店へ行ってパチンコをすることで、パチプロあるいはサクラとして報酬を受け取る仕事だ。

彼は打ち子として生きることにしたが、キャバクラや風俗店と違って寮があるわけではなかった。また、保証人になってくれる人もいない。

7年もドミトリーで暮らした特殊事情

そのことを業者に相談したところ、良いドミトリーがあると教えられた。そこには同じ業者の下で働く打ち子が他に数人いるので相談に乗ってもらえるし、朝が苦手なら起こしてももらえる、と。

実際に同じ業者の下で働く打ち子が3人暮らしていた。話し相手にもなるし、困った時は助け合うこともできる。

それで駿介は水商売を辞めてドミトリーに引っ越し、打ち子となった。月の収入は35~40万円。それだけあったにもかかわらず、彼は仲間がいるという安心感から、7年ほどドミトリーで暮らしていたという。

〇料理人

柴崎忠司は、調理専門学校を経てプロの料理人になった。だが、ギャンブル好きが高じて借金が800万円ほどに膨れ上がり、取り立てに追われた。彼は返済をあきらめ、夜逃げをして東京に出てきた。

無一文だった彼は新宿でホームレス生活をはじめることにした。段ボールを敷いて横になったが、4月の夜は寒く一睡もできなかった。明け方になると、怪しい手配師がやってきて、ホームレスたちに次々と声をかけ「良い仕事があるぞ。やらないか」と誘ってくる。

忠司は怖くなり、自分はホームレスは向いていないと考えた。そして、求人募集をしていた個人経営のラーメン店へ面接に行った。履歴書には知人の住所を書いたが、個人経営の店だったので詮索されず、即採用となった。

若者の利用も多い簡易宿泊所(画像はイメージで一部加工しています。共同通信社)

最初の1ヵ月ほど、ラーメン店では日払いで給料をもらい、ドミトリーの宿泊費に当てた。お金がたまると、今度は月払いで宿泊費を支払った。

元料理人だったことから評価が高く、数年後には雇われ店長にまで上りつめた。また、休日には別のレストランで皿洗いの仕事をしていたため、月収は30万円ほどあったという。

だが、彼はその中から借金を返すわけでもなかった。800万円を返すより、逃げつづけて借金が時効になるのを待つことにしたのだ。そのため、彼は5年ほど、ドミトリーに身を潜めて暮らした。

このように見てみると、それぞれ特殊な事情でドミトリーに住むようになったのがわかるだろう。

水商売、パチンコ店、警備会社などは、生活に困っている人を雇い入れるために寮を備えていることが多い。だが、事情があってそうした仕事につけない場合や、どこかに身を隠す必要がある場合は、ドミトリーのようなところに暮らすことがあるのだ。

ちなみに、少し前は、大阪のあいりん地区(釜ヶ崎)や東京の山谷に代表されるようなドヤ街の簡易宿泊所がその役割を果たしていた。

楽なアパートよりドミトリーが選ばれる背景

だが、近年ここの住民たちは高齢化し、生活保護や介護を必要とするようになった。そのため、多くのNPOが入ってきて、生活支援やケアを行うようになり、現在は高齢者福祉の最前線となりつつある。

こうしたことから、若者~中年の層の、勤労意欲のある人たちにとって、ドヤ街は近づきがたいものとなっている。それでドミトリーのような簡易宿泊施設へ流れている側面があるのだ。

ただ、一つ疑問なのは、たとえ事情があったとしても、月に8万円もの金を払ってドミトリーに住むくらいなら、ある程度金が集まった時点でアパートを借りた方が心身ともに楽ではないかということだ。

先の速水駿介であれば、月収35万~40万円あれば、保証人がいなくても、それなりの物件を見つけることは可能だろう。柴崎忠司にしても、アパートを借りた方がむしろ借金取りに見つかりにくいはずだ。

にもかかわらず、なぜ彼らは高い宿泊費を払い、不自由な思いまでしてドミトリーに暮らすのか。実は、ここにドミトリーの恐ろしい「沼」がある。

柴崎忠司は語る。

「ドミトリー暮らしから出られなくなるのは、場所のせいもあるんです。歓楽街にあるので、誘惑がすごく多い。ガールズバーに、パチンコ店に、風俗店に、居酒屋……。

僕の場合であれば、ドミトリー代は月8万円ですが、水道代や光熱費は無料で、食事は勤め先の店の〝まかない〟で済みます。携帯代などを除けば、20万円くらい自由につかえるのです。そうなると、ドミトリー暮らしの寂しさを、歓楽街での遊びで埋められる。

月20万円を遊びにつかえるってすごいですよね。それを一度覚えてしまったら、生活も遊びも切り詰めて、アパートで寂しい生活をしようとは思わなくなってしまう。多少不自由はあっても、ドミトリーでの生活の方が楽しくなってしまうのです」

ドミトリー暮らしをする人たちは、そもそも自分を律する力に乏しいところがある。そんな人たちが歓楽街で暮らし、それなりに遊ぶ金を手に入れてしまえば、欲望の沼にはまり込むのは自然だろう。

同じことは、ネットカフェで暮らすホスト依存の売春婦にも、当てはまる。

ネットカフェの宿泊費は、その利便性に照らし合わせれば決してコストパフォーマンスがいいとは言えない。それでも彼女たちがそうした生活に甘んじるのはなぜか。

年齢の問題でアパートを借りられないとか、寮のある風俗店で働けないといった者を除けば、彼女たちもまた歓楽街の欲望の沼にはまり込んでしまっているのだ。

彼女たちは心の隙間をホストで埋めたいがために、そこに多額のお金を投じる。それが生きがいになってしまっているので、ネットカフェ暮らしの不自由さを受け入れてしまう。だから、ネットカフェから脱することができない。

こうして考えてみると、歓楽街の中での漂流生活は、その町が持つ欲望によって成り立っているといえるかもしれない。

男にせよ、女にせよ、漂流する人たちは何かしらの問題を抱えて歓楽街にやってくる。根底にあるのは孤独だ。だからこそ、彼らはそれなりの収入を得たとしても、安定した生活を志すより、孤独を埋めるために欲望の世界にのめり込んでいく。

この点において、歓楽街は弱い人間からあらゆるものを吸い上げる力を持っているといえるだろう。

【募集】

シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10~40代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮で暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。

石井光太(作家)

ツイッター @kotaism

メール postmaster@kotaism.com

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

  • 写真共同通信社 時事通信社

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