背中の激痛に排泄障害…所持金数十円「車上生活者」の過酷な現実 | FRIDAYデジタル

背中の激痛に排泄障害…所持金数十円「車上生活者」の過酷な現実

ノンフィクション作家・石井光太が家を無くした若者「ヤング・ホームレス」の実態に迫る!

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車内で自炊し寝泊まりするため内部がゴミ屋敷になるケースも多い(画像はイメージです。共同通信社)

車の中で生活をする人々を「車上生活者」と呼ぶ。車を住居の代わりとして、そこで寝起きしながら暮らしている人たちだ。

特に地方では、車が大きな移動手段になっているため、都会に比べて車の所有者の割合が高い。そうした人たちは、生活に困っても車を持ちつづけるので、住居を手放した後に、車に寝泊まりすることがある。そういう意味では、地方に暮らす生活困窮者の方が車上生活者になりやすい。

ただし、その生活は決して楽なものではない。九州で生活困窮者支援を行っている自治体の関係者は次のように述べる。

「彼らが暮らす車の中は、ゴミ屋敷みたいになっていることが多いです。汚れた弁当の容器なんかはもちろん、車内でカップ麺やお米を炊いたりするため、支援につながった時には車内が虫と悪臭だらけで、本人もいくつかの病気を併発していたということが何度かありました。いったん車上生活になると、なかなか支援につながりにくいので、閉ざされた中で生活環境がどんどん悪化することがあるようです」

車上生活者には大きく2つの種類がある。

1・家はあるものの「節約」「生きやすさ」を求めて車で生活する人。

2・生活に困窮して住居を失い、やむをえず車で暮らしている人。

生活困窮者の意外な車両保有率

前者は、人の生き方に起因する車上生活者だ。

地方を配達や営業の仕事で回る仕事(多くは自営業)をしている人の中には、車で過ごすことになれている人もいる。そうなると、地方での仕事が終わってから一々帰るのが時間的にも金銭的にもムダだと考え、車上生活をする人がいるのだ。

また、他者とのかかわりを苦手とする人が車上生活をするケースもある。彼らは、会社の雑居型の寮にいるのが息苦しいとか、社宅での人間関係に辟易したとかいった理由で、車で過ごす。

今回のシリーズ「ヤング・ホームレス」で見ていくのは、今紹介した1ではなく、主にこれから述べる2のケースである。つまり、生活に困窮して家を失ったものの、たまたま車があったことから、そこで寝泊まりすることになった人たちだ。

生活困窮者の支援事業を行うNPO法人「POPOLO」の鈴木和樹事務局長は次のように述べる。

「うちの団体では年間に100~120人を保護していますが、そのうち車両を保有している人の率は約10%ほどです。つまり、支援対象者の1割くらいが車上生活の経験があるということです。ただ、路上生活者やネットカフェ難民に比べると、車上生活者は支援につながりにくいので、実数はもっと多いといえると思います」

では、若い人たちはどのようなプロセスで、車上生活をするようになるのか。取材に応じてくれた人たちの経験を紹介したい。

道の駅も「生活の場」として人気だという(画像は一部加工しています)

・生活困窮~男性(車上生活当時27歳)

和歌山県の海辺の街で、岸崎太陽(仮名)は育った。ひとり親家庭で母親には軽い知的障害があったという。

太陽は引っ込み思案な性格だったこともあって、小学校から高校まではいじめられてばかりで、友達と呼べる友達はいなかった。部活にも入らず、いつも1人で過ごし、家ではゲームばかりしていたという。

高校卒業後、太陽の母親が脳出血になり、一命はとりとめたものの身体に麻痺が残った。知的障害もあって一人暮らしが困難とされ、彼女は叔父の家に引き取られることになった。

叔父は太陽にこう言った。

「俺が保証人になってアパートを借りてあげるから、太陽君は自立して生きていきなさい」

叔父にしてみれば、太陽の面倒までみる余裕はなかったのだろう。

糸が切れたように突然……

太陽はアパートで暮らしながら、叔父に紹介してもらった水道関係の仕事についたが、半年ももたず「仕事が合わない」と言って辞めてしまった。次は配送関係の仕事、その次は倉庫の整備の仕事についたが、いずれも同じように数ヵ月で突然辞めてしまった。

仕事をコロコロと変えてしまう原因は、彼の特性によるものだったらしい。新しい仕事につくと、最初の1、2ヵ月は別人になったようにシャキシャキと働くのだが、どこかで無理がたたって限界が来る。すると、糸が切れたように突然、会社に行かなくなり、そのままフェードアウトするのである。

彼は次のように述べる。

「たぶん、性格なんだと思います。仕事だけでなく、いろんなことがつづかないんです……。昔からそうでした。習い事とかも、勉強とかも、初めはやる気になるんですけど、途中からなんかがんばることに疲れちゃって……。(会社に理由を告げずに)行かなくなるのは悪いと思ってるんですけど、でもこればっかりは仕方がないって感じです」

生まれ育った環境もあるのだろうが、厳しい言い方をすれば、彼には1つの職場に身を置いて周りとうまく関係を築き、仕事に取り組む力が乏しいのだろう。だから、何をしても途中でドロップアウトしてしまうのだ。

そうこうしているうちに、彼はだんだんと経済的に困窮するようになった。そして家賃を数ヵ月滞納し、ついにはアパートを追い出される。滞納分は叔父が負担してくれたようだが、それきり関係は切れてしまった。

猛暑での車上生活は困難が多い

住居を失った太陽は、数枚の着替えや食器を車につみ込んで車上生活をはじめた。車で寝起きしながら、1~2週間くらいの短期のバイトをして食いつないだ。彼もそれまでの経験から短期集中型のバイトなら何とかできるという自覚があったようだ。

当時の生活を彼は次のように語る。

「車を置いていたのは、24時間営業のフィットネスジムの駐車場でした。入会すると、ジムだけじゃなく、Wi-Fiとか、ドリンクとか、シャワーとか、トイレとか自由に使えるんです。無料モーニングサービスでパンやスープなんかも食べられました」

彼の話では、24時間フィットネスジムに入会しておけば、寝る場所と洗濯と昼夕食以外は何とかなるのだという。逆に言えば、寝場所となる車さえあれば、生活は何とでもなってしまうのだ。

太陽は言う。

「こう言ったら怒られるのかもしれないけど、僕にとっては楽な生活でした。車で寝るのはぜんぜん苦じゃないし、むしろアパートの家賃を払うために一つの場所でずっと働くことの方がつらなかった。だから、ああいう暮らしが自分に合っているって思っていたんです」

8年もの車上生活で蝕まれた体

彼の場合は、短期のバイトで月に6、7万円稼げば、生活を維持できたそうだ。履歴書の住所欄には、かつて住んでいたアパートの住所を書いていたという。

彼は8年ほど車上生活をつづけたが、その生活は確実に体を蝕んだ。背中に痛みが走るようになり、ついには歩くこともできない状況になる。

仕方なく、困窮者支援の民間団体に泣きついて、病院へ連れて行ってもらったところ、重度の椎間板ヘルニアだと診断された。排尿障害まで出ており、手術が必要だった。彼は車を手放し、生活保護を受けた上で、治療をすることになった。

太陽の体験を見てみると、車上生活へのハードルが意外に低いのがわかるのではないか。

現在は、ネットカフェだけでなく、24時間ジムなど客を集めるために様々なサービスを提供している店がある。それが車上生活を可能にさせているのだ。

だが、本人が語るほど、その生活は楽なものではない。太陽が福祉につながった時、彼の所持金は数十円で、車内はゴミ屋敷化してアンモニア臭に満ちていたそうだ。背中の痛みでトイレへ行くことさえままならなくなっていたのだろう。

ただ、車上生活者はかならずしも男性だけとは限らない。20歳そこそこの若い女性が車上生活をするケースも少なからずあるのだ。

なぜ若い女性がリスクを冒して車で暮らすことになるのか。その生々しい肉声については、後編【軽自動車内で生活した20代女性の告白】をお読みいただきたい。

後編【軽自動車内で生活した20代女性の告白

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

  • 写真共同通信社

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