事実は恥ずかしくて…軽自動車内で生活した若い女性困窮者の告白 | FRIDAYデジタル

事実は恥ずかしくて…軽自動車内で生活した若い女性困窮者の告白

ノンフィクション作家・石井光太が家を無くした若者「ヤング・ホームレス」の実態に迫る!

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道の駅も「生活の場」として人気だという(画像は一部加工しています)

前編【背中の激痛に排泄障害…過酷な現実】につづいて、若い女性が車上生活に至るプロセスを見てみたい。

・暴力被害~女性(車上生活当時22歳)

岡崎知愛(仮名、以下同)は、小学2年生の頃に親の離婚がきっかけで、茨城県の祖父母の家に預けられた。両親はそれぞれ再婚し、新しい家庭を築いたことから、連絡を取ることもなくなったそうだ。

高校1年の時に祖父が病死したことで、彼女は高校を中退して工場で働きはじめる。祖母は夫の死によってうつ病になり、知愛は仕事や家事などあらゆることをしなければならなくなった。

19歳のある日、知愛は知人の紹介で知り合った修斗という男性と恋仲になる。心を病んだ祖母との生活に疲れていたことから、彼女は修斗のアパートに入り浸るようになった。すると、祖母はそんな知愛に怒りをむき出しにした。

「なんで私を放って、変な男のところへ行くのか」

「私の好きにさせて!」

それが祖母の言い分だった。顔を合わせる度に、口論がくり返される。知愛はついに我慢ならなくなり、叫んだ。

「私の人生なんだから好きにさせて!」

そして家出同然に飛び出し、修斗のアパートで同棲をはじめた。

1年ほどして2人の生活に、暗雲が垂れ込めるようになる。まず修斗が200万円ほどの借金をしているのが明らかになったのだ。知愛は結婚したかったので、一緒に少しずつ返そうと約束した。

だが、修斗が職場でトラブルを起こして正社員の仕事を辞めてしまう。間もなくアルバイトを見つけたものの、そこでも上司との関係がうまくいかず、半年も経たずに失業してしまった。

修斗は自暴自棄になり、プログラマーになるとか、資格を取ると言いだし、仕事をしなくなった。その間も、生活や借金の返済があるので、必然的に知愛が1人で家計を支えることになる。だが、工場の仕事では限界があった。

2人の関係がぎくしゃくするにつれ、修斗は酒を飲んでは知愛に手をあげるようになった。生活苦、借金、家庭内暴力……。知愛は我慢の限界に達し、ある日DVを受けた直後に、アパートに私物を残し、自分の軽自動車で逃げ出した。

車内で自炊し寝泊まりするため内部がゴミ屋敷になるケースも多い(画像はイメージです。共同通信社)

連日のように修斗からの怒りのメッセージが何百通と届いた。〈帰ってこないと殺すぞ〉〈せめて生活費だけでももってこい〉〈誰が面倒を見てやったと思ってるんだ〉。

昼夜の区別なく届くメッセージを読んでいるうちに、知愛は見つかったら殺されると考えるようになり、勤めていた工場を辞めた。不運だったのは、彼女には頼る先がなかったことだ。実家からは家出同然で飛び出していたし、両親とも10年以上連絡を取っていない。友達はすべて修斗に把握されている。

やむをえず、彼女は車で2時間ほど離れた別の町へ行き、ホテルの清掃のアルバイトをはじめた。スーパーやレストランでは修斗に見つかる可能性があるので裏方の業務を選んだのだ。最初はお金がたまるまでと考えて軽自動車で寝起きしていたが、新型コロナのせいもあって、思うようにシフトに入れず、ずるずると長引いていく。

彼女は当時の心境を次のように語る。

「夜は大きめのコンビニの駐車場で寝泊まりしていました。女1人なので誰もいないところは怖かったので、24時間人がいて安全そうな場所ってコンビニしかないんです。ただ、寝ている最中に車を蹴られるとか、店員さんに注意されて追い出されるなんてこともありました。夜は常にビクビクして30分おきに目が覚めていました。

支援につながらなかったのは、自分が対象者じゃないと思っていたからです。家はなかったけど、寝泊まりするところも、仕事もあったので、誰も助けてはくれないだろうなって。だから車で暮らしながらお金をためてどうにかするしかないって考えていました」

11ヵ月の車上生活の末に……

車を売ってアパートを借りるという選択肢もあったが、車がなければ仕事に行くことができない上に、修斗に発見された時に逃げる術がない。そうしたことも車上生活が長引いた要因だった。

知愛の車上生活は11ヵ月に及んだ。ある日、体調を崩した際にバイト先の同僚に相談したところ、相談窓口を紹介されたのだ。そこに連絡をしたところ、DV被害者ということでシェルターに入り、そこから生活を立て直す道筋を示してくれた。それで彼女はシェルターに身を置いて、支援を得ながら再び自立の道へと進んだのである。

このように見ていくと、20代であっても、意外なほどあっけなく住居を失って車上生活に落ちていくことがわかるだろう。

ただし女性の車上生活には、暴行や強盗など多くのリスクが伴う。それを避けて生きていくという点では、男性の車上生活よりはるかに大変なのだが、なまじっか仕事と車という財産があることで、支援につながりにくい。だからこそ、体を壊すなど何かしらのトラブルが起きるまで、車上生活がつづいてしまう傾向にある。

知愛は次のように語っていた。

「車で暮らしていた時、コンビニの店員さんや警察の方に『大丈夫ですか』と声をかけられたことがありますが、恥ずかしくてちゃんとした事実を話せませんでした。若い女性が車で暮らしていますとは言いづらい。だから、どうしても隠れながら生きていくことになるんです」

これが車上生活をする若い女性の本音だろう。もし支援につなげるなら、そのハードルをいかに乗りこえるかが問われるのである。

【募集】

シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10~40代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮で暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。

石井光太(作家)

ツイッター @kotaism

メール postmaster@kotaism.com

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

  • 写真共同通信社

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