'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

暴力団に身を売り…紅白歌手の娘「弔問客なく遺骨も行方不明の母」

10歳以上も若年化し４割が失踪…車上生活者の「生々しい実態」

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_258866" aria-describedby="caption-attachment-258866" style="width: 1366px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3a382d70"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/wam.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258866" class="wp-caption-text">駐車場の車を夜回りしてチェックする支援団体（写真は一部加工しています。画像：ＮＯＰ法人「ＰＯＰＯＬＯ」提供）</figcaption></figure>
生活に行き詰まり、車で暮らすようになる人のことを「車上生活者」と呼ぶ。地方においては路上生活者より多いとされる隠れた存在だ。
本シリーズ「ヤング・ホームレス」で見てきたように、今の日本には、中高年だけでなく、20代の若者、時には20歳そこそこの女性さえも容易に住居を失い、車上生活者になるという現実がある。
だが、驚くことに、この車上生活に未成年の小さな子供が巻き込まれることもある。現代の日本で何が起きているのか。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
子供が車上生活をすることになった経緯を紹介したい。
愛知県の町工場で、山辺寛一（仮名）は高校を卒業してから知人の紹介で工員として働いていた。父親が暴力をふるう人で、家を出てからは絶縁同然だった。
寛一は20代の前半に離婚歴があったが、29歳の時に19歳の女性と再婚した。地元のキャバクラで知り合った元キャストの女性だった。ほどなくして男の子が生まれたものの、妻は育児ノイローゼのようになり、そのまま家事もしなくなった。
寛一は、妻の負担を軽くするため息子を保育園に入れた。だが、妻には、保育園の送り迎えが面倒だと言ってしないとか、子供のおむつをまったく変えないといった問題行動が目立った。寛一がそれをとがめると、八つ当たりのように息子を虐待するようになった。
<h2>「おまえの妻は400万円の借金をしている」</h2>
<figure id="attachment_258272" aria-describedby="caption-attachment-258272" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="79c97e0a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/2020072806546.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258272" class="wp-caption-text">車内がゴミ屋敷化することも</figcaption></figure>
だんだんと夫婦の関係が悪くなり、顔を合わせれば罵り合うようになった。ある日の夫婦喧嘩の際、妻は刃物を取り出して言った。
「この子を殺して、私も一緒に死ぬ！」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
寛一は刃物を奪って止めたものの、彼女は結婚前からリストカットをしていたこともあって、母子２人にするのは危険だと思った。そして工場を辞め、配送関係の仕事に就いて、日中は幼い息子を車に同乗させた。家で妻と２人きりにしないようにしたのである。保育園は退園させた。
そんなある日、家に見知らぬ男性数名がやってきた。彼らは言った。
「おまえの妻は俺らに400万円の借金をしている。全額すぐに返せ」
妻は、寛一が知らないうちに闇金に手を出していたのだ。
もうこれ以上かかわれない。寛一はそう決心し、離婚をすることにした。ただ、妻は病気である上に、実家とは縁が切れていた。寛一は親権をもらう代わりに、妻にアパートを残して出ていくことにした。
寛一は貯金のほとんどを闇金業者に払ってしまっていたため、持っていたワゴン車で子供と寝起きする生活をはじめた。もともと配送の仕事の間は子供を車に乗せていたこともあって、心理的なハードルは低かったそうだ。日中もずっと息子と車に乗っているので、夜そのまま寝るか、アパートに帰るかの違いだったのだ。
<div data-friday-nextpage-lead="車上生活を余儀なくされたワケ"></div>
<figure id="attachment_258856" aria-describedby="caption-attachment-258856" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e7d12e5b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/20220725_142527-2.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258856" class="wp-caption-text">「生活の場」として車上生活者が利用するのが道の駅などの駐車場だ</figcaption></figure>
寛一は言う。
「当初の予定では、適当に金がたまったら、アパートを借りる予定でした。ただ車での暮らしの中で体調を崩しちゃったんです。子供は昼に寝るので夜起きちゃうでしょ。それで眠れなかったり、座りすぎなのかお尻に膿がたまって簡単な手術をしなければならなくなったりしたんです。配送の仕事は歩合制だったんで収入は減っちゃいましたし、子連れで入れる会社の寮も見つからず、車での生活が長引いちゃったんです」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
気がつけば、車上生活は１年近くに及んでいた。だが、このままでは身が持たないし、何より子供の成長に支障が出ると考え、恥を忍んで幼馴染の友人に相談したところ、自立するまで一室を貸してもらえることになった。そこで彼は半年ほど過ごし、アパートを借りられるようになったという。
このケースを見てみると、まったく予想もしなかった原因によって車上生活になることがわかるだろう。
寛一からすれば、妻の育児ノイローゼ、虐待、借金といった問題が降りかかり、気がついたら車上生活になっていたという感覚ではないか。しかも、体調不良が重なって思いがけずそれがずるずるとのびてしまった。
<h2>支援を受ける人10%が……</h2>
<figure id="attachment_258293" aria-describedby="caption-attachment-258293" style="width: 4128px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a2df6847"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/20220725_142815.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258293" class="wp-caption-text">車上生活は精神面だけでなく肉体への負担も大きい</figcaption></figure>
静岡県で生活困窮者の支援を行うＮＰＯ法人「ＰＯＰＯＬＯ」は、2010年の設立当初から長らくこうした車上生活者の支援を行ってきた。現在も、車上生活者を対象とした夜回りなどを行っている。
静岡の富士市に拠点を置いているのだが、同地域の生活困窮者と車上生活の関係は切っても切り離せないものだそうだ。後に述べるように、車上生活者は支援につながりにくいにもかかわらず、現在同団体が支援している人のおおよそ10％が車上生活の経験がある人々だという。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
ＰＯＰＯＬＯの鈴木和樹事務局長は地方には車上生活が長引いてしまう様々な要素があるという。鈴木の言葉である。
「地方は公共交通が弱いので、車がライフラインの１つになっているのです。たとえバスや電車が走っていても、仕事の時間帯に合うように動いていない場合が多い。だから、人々の中に、車がなければ仕事が見つからないという感覚があるのです。生活に困っても、最後の最後まで車を手放さない人がいるのは、そのためですね。それで住居を失った時に車で生活をするということになるのだと思います」
地方在住の人にとって車は、できる限り手元に置いておくべきものであり、それを失うことはすなわち社会との断絶を意味するのだ。
鈴木はつづける。
「路上生活者の人たちが車を止めるのにつかうのは、道の駅、24時間スーパー、24時間コインランドリー、コンビニなどが多いです。トイレがつかえるということと、車を止めていても比較的安全ということが大きいのでしょう。また、道の駅なんかは大きな多目的トイレがあったり、温泉がついていたりすることもあるので生活が成り立ちやすいのです」
車中泊で不可欠なのが、「安全」と「トイレ」だ。目立ちたくはないが、近くに人がいるところといえば、24時間営業の店となるのだろう。道の駅に関しては、24時間利用できるドライバーの休憩所としての役割もあるので、店鋪の営業時間終了後もトイレや駐車場が開放されており、一定の人が集まるのだ。
では、車上生活者は、車の中でどのような暮らしをしており、彼らはなぜ支援につながりにくい不可視な存在となってしまっているのか。そこには、日本社会のゆがんだ構造がある。
後編【車上生活者の「生々しい実態」】では、それを詳しく見てみたい。
<figure id="attachment_258867" aria-describedby="caption-attachment-258867" style="width: 595px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4d7cbd70"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/chirashi.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-258867" class="wp-caption-text">生活に困ったら一人で悩まず支援団体に相談することが大切だ（画像：ＮＰＯ法人「ＰＯＰＯＬＯ」提供）</figcaption></figure>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-start"></div>
後編【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/258860">４割が失踪…車上生活者の「生々しい実態」</a>】
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-end"></div>

77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

ＮＯＰ法人「ＰＯＰＯＬＯ」提供　ロイター／アフロ

生活に困窮し車の中で生活する若者が増えている。連日、不自然な姿勢で寝起きし背中を痛め歩行困難になる人も。背景にはそれぞれの事情が。ノンフィクション作家の石井光太氏が「車上生活者」の実態に迫る！

尻に膿が…妻の虐待や闇金でやむなく「子供との過酷な車上生活」

あなたへのオススメ

関連記事