2019年の東宝を占う『マスカレード・ホテル』『七つの会議』

木村拓哉&長澤まさみ共演作、野村萬斎主演作で反攻!(18年の東宝は興収10億円未満の作品が続出)&乱立する都内シネコン事情も解説〔映画ジャーナリスト・大高宏雄に聞く「日本映画界総決算&展望」03〕

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2018年、あなたは映画を何本ご覧になったでしょうか? その中に心を揺さぶった作品はありましたか? 

日本映画界の2018年の総括と19年の展望を、映画ジャーナリストの大高宏雄氏へのインタビューでお届けする。
氏は、「毎日新聞」「日刊ゲンダイ」「キネマ旬報」「ぴあ」などで映画に関する連載を執筆し、1992年から「日本映画プロフェッショナル大賞」を主宰している。氏のモットーは「映画は試写室ではなく劇場で観客と一緒に鑑賞すること」。いわく「試写室では起こらないことが劇場では起き、試写室ではわからないことが劇場ではわかる」からだという。

「マスカレード・ホテル」 監督:鈴木雅之 出演:木村拓哉 / 長澤まさみ  長澤(写真中央)は超真面目なホテルマン(フロントクラーク)を演じる。木村拓哉は捜査一課刑事だが潜入捜査のためフロントクラークに扮することに。エリート刑事と一流ホテルマンは事あるごとに衝突する……(C)2019映画「マスカレード・ホテル」製作委員会

――日本映画界全体の興行収入は2017年で約2285億円でした。そのうち東宝は約620億円(松竹:約156億円、東映:約109億円)と突出し、日本映画界全体の屋台骨を支える「王者」です。ところが2018年は、以前なら興収10億円を超えても不思議ではない東宝配給作品が、なかなかその壁を突破できなかった。公開日順に――、
・『嘘を愛する女』(長澤まさみ 高橋一生 監督:中江和仁)
・『坂道のアポロン』(知念侑李 中川大志 小松菜奈 監督:三木孝浩)
・『いぬやしき』(木梨憲武 佐藤健 監督:佐藤信介)
・『となりの怪物くん』(菅田将暉 土屋太鳳 監督:月川翔)
・『のみとり侍』(阿部寛 監督:鶴橋康夫)
・『恋は雨上がりのように』(小松菜奈 大泉洋 監督:永井聡)
・『OVER DRIVE オーバードライブ』(東出昌大 新田真剣佑 監督:羽住英一郎)
・『羊と鋼の森』(山崎賢人 監督:橋本光二郎)
・『センセイ君主』(竹内涼真 浜辺美波 監督:月川翔)
・『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(篠原涼子 広瀬すず 監督:大根仁)
・『累-かさね-』(土屋太鳳 芳根京子 監督:佐藤祐市)
・『響 -HIBIKI-』(平手友梨奈 監督:月川翔)
・『億男』(佐藤健 高橋一生 監督:大友啓史)
などがそれにあてはまると思います。
さすがの東宝も苦戦した印象を受けますが、これはどういう現象なのでしょうか?

「私は、それらの作品はすべて映画館で観ている。どれも、それなりのマーケティング手法を持ち、有名原作を使って、人気があり実力派の俳優を起用し、中身も破綻せず、それなりの出来栄えを目指し……という、これまでの成功体験を活かした手法で製作された映画といえるかもしれない。ただ、結果として、全体を見渡すと、題材やテーマ、物語は全く違うのに、中身に妙な均質性を見て取ることができ、金太郎飴のような印象も受ける。そういった作品でも、かつては興行収入が10億円を超えたりしていたのだが、今は厳しい状況に置かれている。
『カメラを止めるな!』を観たときに生まれた驚きや感動からは、かなり遠い感じがある。私は、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(8月31日公開)と『響 -HIBIKI-』(9月14日公開)はおもしろく観た。しかし、一般の人の関心を強く引きつけるまでには至らなかった。

現在は、新しい作品の志向性が求められていると感じる。均質性を超えてゆくもの。その一つは、破綻的な要素かもしれない。クオリティそのものが破綻するのではなく、均質的なドラマの破綻性だったり、定番俳優の破綻だったりがあると話題を呼び、一般の人もより強く関心を持つようになるのではないか。そういう破綻性はおもしろさに繋がるが、2018年の東宝の作品は、ドラマの面でも俳優の面でもアベレージ近辺でまとまってしまったのかもしれない」

――アベレージに到達しても、今は厳しいということですか?

「アベレージでは、人の心を揺さぶらない。昔は50点、60点の作品でもヒットすることはあった。今は、80点以上のクオリティがないと、既成の大メディアからも、SNSからも情報が発信されにくい。逆に足を引っ張られることすらある。

2018年でいえば、松竹配給、池井戸潤原作の『空飛ぶタイヤ』(6月3日公開)はとてもよくできた作品だ。中小企業、下請け業者をめぐる問題提起には現代性があり、俳優たちの演技もすばらしい。“よくぞこれだけの俳優の逸材を集めたな”と感動したほどだ。業界のタブーの部分にも切り込んでおり、それでいて、しっかりとエンターテインメントとして作品を完成させている。映画の題材のひとつとして企業ドラマは必要だ。映画賞の時期に入っているが、『空飛ぶタイヤ』には大きな映画賞で作品賞が与えられるべきではないかと感じている」

映画「マスカレード・ホテル」の舞台となる「ホテル・コルテシア東京」のロビー(写真)などが1ヵ月以上かけて日本最大級のスタジオ内に作られた。直径約3mの2つの豪華絢爛なシャンデリアは海外に特注したもの(C)2019映画「マスカレード・ホテル」製作委員会

――2019年の東宝の実写映画にどんな期待が持てますか?

「2019年初頭(2018年度内)には、東野圭吾原作の『マスカレード・ホテル』(2019年1月18日公開)と池井戸潤原作の『七つの会議』(2019年2月1日公開)がある。主演は『マスカレード〜』は木村拓哉、『七つの会議』では野村萬斎を起用した。共演者たちもオールスターで、金太郎飴ではなく、“パッケージ”としても、ワンランクもツーランクも上のプロジェクトだ。

正月第1弾の『来る』(12月7日公開)は、やや苦戦をしているが、私は“好き”な作品だ。金太郎飴的な均質性は一切なく、ドラマ的にも演技的にも突出したものがある。妻夫木聡を“主演男優賞”候補に挙げたいくらいだ。今後の2本も作品の出来栄え次第で、どう転ぶか分からないところはあるが、特に、『マスカレード・ホテル』は豪華共演者たちが、ひとつのホテルの中で起こる事件に関わっていくところにおもしろさを感じている。今後の東宝実写映画の動向を占う意味では、『マスカレード・ホテル』、『七つの会議』に期待だ」

シネコン「グランドシネマサンシャイン」(12スクリーン/約2,500席)が入るビル「キュープラザ池袋」。2019年7月に開業予定

――個別の作品から転じて、映画館というハード面に目を向けると、2019年以降も東京に限っただけでも続々とシネコンがオープンしますね。

「シネコンはこれまで、新宿の3館、TOHOシネマズ新宿(12スクリーン/約2,350席)、新宿ピカデリー(10スクリーン/約2,250席)、新宿バルト9(9スクリーン/約1,825席)の観客動員が全国的に見ても圧倒的に強かった。ただ日比谷・有楽町エリアに TOHOシネマズ日比谷(13スクリーン/約2,800席)が2018年3月29日にオープンした。2019年の全国1位は、新宿と競り合うことになるだろう。

そんな状況の中、池袋には、2019年7月にグランドシネマサンシャイン(12スクリーン/約2,500席)が、2020年夏にTOHOシネマズ池袋(仮称、10スクリーン/約1,700席)が完成する予定だ。池袋は埼玉県や東京西部の人たちが利用するので、2つの大型シネコンが誕生すれば大きな収益をあげるだろう。

渋谷にはシネコンがTOHOシネマズ渋谷(6スクリーン/約1,200席)ひとつで、スクリーン数が少ない。それもあって東京の映画観客動員は新宿が中心になっている。その新宿には4つめのシネコンとして新宿ミラノ座(歌舞伎町)の跡地に109シネマズ新宿(仮称、2022年予定、8スクリーン)ができる。2019年以降は、池袋のシネコンも充実するので埼玉県や東京西部の人たちが映画を観るために新宿に足を延ばす必要が減る。池袋と観客の奪い合いになり新宿の地盤が下がる可能性はある」

――シネコンは飽和状態かと思ったのですが、今後も続々と増えるのですね。

「私は、数年来、映画人口に対するスクリーン数のキャパが超えており、ただでさえシネコンが多すぎると指摘してきた。しかし、まだまだ増える。

2017年には調布にイオンシネマ シアタス調布(11スクリーン/約1,650席)がオープンした。現在、シネマシティ(「シネマ・ツー」「シネマ・ワン」の合計で11スクリーン/約2,250席)がある立川にも、さらに複数形態のミニシアターやシネコンができる。キノシネマ立川(2019年5月、3~4スクリーン)と、ららぽーと立川立飛(2020年2月以降予定)だ。

調布も立川も都内有数のターミナル駅ではあるが、映画館に観に行く映画人口自体は増えていない。シネコンが増えれば、新しい場所に人が集まるものの、近隣の既存のシネコンは集客率を落とす。近年はこの繰り返しだ。既存のシネコンだけでなくミニシアターを含めて周辺の映画館は大きな影響を受けるだろう」

――シネコンがミニシアター系の作品も上映するようになってくれば、観客からすると、どのシネコンに行っても金太郎飴のような上映作品だったのが、多様性が出て良い傾向にも思えますが、どのような影響が出るとお考えですか?

「新宿ピカデリーは開業当初から単館系の作品を上映して来た。最近は、他のシネコンでも単館系を増やし、ミニシアターでちょっとでもヒットした作品をすぐに上映するケースが増えている。地方に目を向ければ、これまでミニシアターで封切りされていた作品が、近隣の大型シネコンで最初に上映されるという現象が起きている。その結果、ミニシアターがシネコンに作品を取られて2番館、3番館的存在になってしまうこともあり、100%の興収見通しで計画を立てていても50%に減ってしまうという現象も生じている」

――日本に巨大ショッピングモールが登場したときも、周辺の小売店や商店街が大きな影響を受けました。さらにモール同士の競争に敗れたショッピングモールが撤退したとき、既に元々の商店街は潰れている、いう現象も生じました。映画において、シネコンとミニシアターはどうあるべきですか?

「これまでのシネコンは大手作品を中心に上映してきた。それが、生き残りのためにシネコンでもミニシアター系の作品が少しでもヒットしたら自分たちのネットワークに取り込むという傾向が強くなってきた。ODS(=other digital stuff。劇団のステージ、アーティストのコンサートの上映やスポーツの中継、アニメのイベント上映など)も、当然そこに入ってくる。

配給サイドからすると、大手シネコンで上映されれば興行収入の数字が上がるので良いという側面があるのだろうが、とにかく今は、少しでもヒットした作品はすぐにシネコンで上映され、さらに、いくつかの都内シネコンのように、最初から単館系の作品にも目配りをし、どんどん取り込んでいくという時代にもなっている。

今後ミニシアターはさらに大きな影響を受けるが、その背景には編成だけでなく、多くの問題があるので、簡単に論ずることはできない。ただ、なんでもかんでも大手シネコンが吸い込んでしまうというのではなく、東京の単館系でヒットした作品くらいは地方のミニシアターでもちゃんと上映されてほしい」

シネコン「TOHOシネマズ池袋」(仮称、10スクリーン/約1,700席)が入るビル「ハレザ池袋(仮称:豊島プロジェクト)」。こちらは2020年夏に開業予定。「グランドシネマサンシャイン」とは200m弱しか離れていない

大高氏が指摘するように、これまでの成功体験に乗っかった映画は、結果として、中身が均質で金太郎飴のような印象を受ける。そして80点以上のクオリティがないとヒットに繋げることは難しいという。

さて、2019年は、東宝だけに限っても『来る』を皮切りに、『マスカレード・ホテル』、『七つの会議』と、ひと回り、ふた回りも仕掛けの大きい力作、話題作が公開される。私たちが映画を観る映画館が、今後どうなって行くのかも含めて大いに関心があるところだ。

  • 解説大高宏雄

    (映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」、日刊ゲンダイ「「日本映画界」最前線」、ぴあ「映画なぜなぜ産業学」などを連載。著書は『興行価値―商品としての映画論』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(同)、『映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年』(愛育社)、『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか」(同)など多数。

  • 取材・構成竹内みちまろ

Photo Gallary4

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