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鍵をかけているはずの自分の家で就寝中、突然刃物で襲われる。その恐怖はいかばかりか。しかも、襲ってきたのは、あろうことか自分の妻が雇った、ふたりの“殺し屋”だった。
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2021年8月、東京都足立区のアパートで住人の40代男性・Aさんを刃物で刺したとして殺人未遂に問われた小西昴太被告（22）の裁判員裁判が7月に東京地裁（坂田威一郎裁判長）で開かれていた。7月14日には懲役8年の判決が言い渡されている。
「殺人未遂だとは思わない。自分のやったことを考えると、殺人未遂まではいかないかなと」
7月4日の初公判罪状認否で小西被告は無罪を主張した。弁護人によれば「事前に払ってもらうと約束していた報酬を受け取っていないので殺人未遂にはあたらない」という言い分だ。当日、現場には小西被告のほかにもう1人、友人である酒井亮太被告（22・同罪で起訴）がおり、Aさんを刃物で刺したのは、酒井被告だった。
小西被告も酒井被告も、Aさんとは面識がなかった。ゆえに恨みも持っていない。彼らはAさんの妻・滝田深雪被告（44・同罪で起訴）からSNS経由で“恨み晴らし代行”としてAさんの殺害を依頼され、提示された50万円の報酬目的で犯行に及んだ。
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経緯は双方の冒頭陳述から明らかになった。それによると、小西被告は昨年、ツイッター上の“恨み晴らし代行”の仕事募集ツイートを見て、コンタクトを取った。そのアカウントから紹介されたのが、滝田被告だ。滝田被告からは報酬50万円で、彼女の夫であるAさんの殺害を依頼され、小西被告はこれを承諾した。
さらに小西被告は「腕っ節の強い友人」（検察側冒頭陳述より）である酒井被告に声をかけ、彼も誘いに乗った。2021年7月以降、小西被告は準備のため、Amazonでサバイバルナイフや斧、マスクなど購入。そして同年8月6日の夜、滝田被告から次のような連絡を受け、現場に向かった。
「今日の夜中、旦那が疲れてるからできる。そのまま実行できたらしてください」
日付が変わった7日の深夜2時半ごろ、小西被告と酒井被告はそれぞれ斧とサバイバルナイフを手に持ち、Aさんが就寝しているアパートに到着。滝田被告に玄関から招き入れられ、中に入った。すると、腕っ節の強い酒井被告がAさんの部屋に入り、持っているナイフでそのまま胸を突き刺した。この直後、小西被告は「押さえて！」と酒井被告に言われAさんの口元を塞ぎ、Aさんが目を覚まし抵抗を始めたため、ふたりは家から立ち去ったのだという。報酬は受け取っていない。
弁護側冒頭陳述で弁護人は「事件の日は、自宅に行ったが、50万円を受け取る前に酒井被告がAさんを刺した」として、共謀が成立していないと主張する。「事前に報酬を受け取ることは、犯行を犯す上で欠かせない重要な約束だった。報酬を受け取ることなく刺した行為は、事前共謀の重大な逸脱行為だ」とも述べた。
<div data-friday-nextpage-lead="小西被告と交際していた女性が明かした衝撃事実"></div>
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SNSで見かけた“恨み晴らし代行”募集ツイートを見て応募し、50万欲しさに殺人を請け負った小西被告は、当然ながら、プロの殺し屋でもなんでもない。準備は杜撰で、自身の犯行の痕跡も残していた。小西被告は事件数ヶ月前にスカウトの仕事を辞め、交際している女性のもとに転がり込んでおり、殺しのための道具は、その女性のAmazonアカウントで購入したものだった。また犯行後に女性宅に戻り、酒井被告と事件について話をしている様子も、女性に見られていた。女性は調書に次のように語っている。
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「彼は去年6月ごろから女の人と連絡を取り合うようになった。スマホから聞こえてくる『もしもし』という声が女性だった。相手の人と会ったとも聞かされた。彼は『仕事の話をした』と言うので聞くと、その女の人は『旦那の、子供に対する態度がひどく、旦那をどうにかしてほしい』という話だった。どうにかしてほしい、という言葉が気になったので、何をするのかと聞くと『拉致とか』と言うので、私は不安になって『殺したりしないよね』と言った。この頃から、私のAmazonアカウントを使い斧などを買っていた」
「8月に突然、黒い服を着て斧を持って『キャンプに出かける』と言って出て行き、数時間後、酒井君と帰ってきた。酒井君は『刺したけど刺しきれなかった。思い切り刺した気がするけど全然血が出ない』と言っていて、彼は『話が違う。先に渡すって言っていたのに後からと言ってきた。俺も斧でやっちゃえばよかった』と少し落ち込んでいたような様子で話していた」
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女性はこの時の2人の様子を写真に撮影している。ナイフを持つ小西・酒井被告が写っていた。ところが小西被告は被告人質問でこの写真について「覚えてない」と言う。
弁護人「事件後に酒井と、ナイフを持ってピースしてる写真がありますが、そのこと覚えてます？」
小西被告「覚えてないです」
弁護人「上半身が裸、なぜか、とも覚えてませんか？」
小西被告「はい」
さらに、事件当時のことについても“酒井が1人で犯行に及んだ”といった話を繰り返した。
「酒井と寝室を覗き込んでいたら、彼が僕を追い越して寝室に入り、寝ているAさんにまたがって、すぐ刺してました。そのあと『押さえろ』と言われたので、押さえようとしました。ですが押さえる前にもうAさんが起き上がってきました。逃げようとしたらAさんに捕まって……抵抗はしてないです。ふいにAさんの力が弱まって、手を離されたので逃げました」
つまり小西被告は“現場で何もしていない”という言い分だ。だが被害を受けたAさんの言い分は異なる。寝ている間に気が付いたら会ったこともない、見知らぬ男に胸を刺されていたAさんは、法廷でどんなことを話したのだろうか。
≪<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/259127">【後編】”妻に雇われた殺し屋”に刺された夫が暴露した「莫大な借金問題」</a>に続く≫

傍聴人。フリーライター。『つけびの村　噂が5人を殺したのか？』（晶文社）、『暴走老人・犯罪劇場』（洋泉社新書）、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』（徳間書店）、『木嶋佳苗劇場』（宝島社）、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』（新潮社）など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。6月1日に「逃げるが勝ち　脱走犯たちの告白」（小学館）が新たに出版された

高橋ユキ

夫は眠っている間に見知らぬ男に襲われ、胸を刺された。しかもその男は、妻からﾂｲｯﾀｰを通して50万円で雇われた”殺し屋”だった。嘘のような本当の話の公判で、衝撃事実が次々と明らかになった。

妻が50万円で夫の殺害依頼…無罪を訴える被告の「酷すぎる理由」

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