”妻に雇われた殺し屋”に刺された夫が暴露した「莫大な借金問題」
ツイッターに存在する「恨み晴らし代行」のおそろしさ
≪昨年8月、東京都足立区のアパートで住人の40代男性・Aさんを刃物で刺したとして殺人未遂に問われた小西昴太被告(22)の裁判員裁判が7月に東京地裁(坂田威一郎裁判長)で開かれた。小西被告に対して同14日に懲役8年の判決が言い渡されたものの、それに先立つ7月4日の初公判で、胸を刺されながらも一命をとりとめたAさんが明かした内容は小西被告とは大きく食い違うものだった。前編「妻が50万円で夫の殺害依頼…無罪を訴える被告の『酷すぎる理由』」に引き続き、お送りする≫
初公判で事件当時のことを聞かれた小西被告は「腕っぷしの強い」仲間として誘った酒井亮太被告が1人で犯行に及んだ、ということを繰り返し主張した。
「酒井と寝室を覗き込んでいたら、彼が僕を追い越して寝室に入り、寝ているAさんにまたがって、すぐ刺してました。そのあと『押さえろ』と言われたので、押さえようとしました。ですが押さえる前にもうAさんが起き上がってきました。逃げようとしたらAさんに捕まって……抵抗はしてないです。ふいにAさんの力が弱まって、手を離されたので逃げました」
一方、証人として出廷したAさんは、当時の様子をこう説明した。
「寝てて、口を塞がれたような感覚があって起きました。声を出すな、みたいな感じで塞がれたので、強盗が入ったのかとまず感じた。家族がいたので、まず、抵抗しましたね。起きて中腰ぐらいの感じでもみ合いになりました。そこで僕の方が首元を締め上げるような体勢を取りました。玄関を見たら、もう1人男が立っていて、ナイフのようなものを持っていたので、まずいと思って解放した」
刺されたことに気づいたのはその後だった。Aさんは法廷で淡々と語り続ける。
「妻から『血がたれてるよ』と言われて、そこで気が動転してリビングでおろおろしました。左胸に痛みは感じなかったですね。いやーもう……思いっきり気が動転してて、アドレナリンが出てたと思うんですけど、そういう感覚だったと思います」
Aさんは最初に口を塞がれたことで強盗に入られたと思っていたが、その”強盗”がいなくなって初めて、自分が胸を刺されたことに気づいたという。

そもそも、小西被告は、滝田被告から“旦那の言葉の暴力がひどい”、“旦那の子どもへの態度がひどい”といった話を聞き、それを信じて“恨み晴らし代行”である殺人の依頼を受けたというが、それが事実かは確認することなく、滝田被告の言い分を信じていた。これについてAさんは、全く違う実態を明かした。
「事件前に、借金問題がありました。僕と、僕の親戚たちの名前で勝手に借金をしていました。トータル1000万以上です。妻名義の借金もありました。消費者金融と闇金で100万円いかない程度……分かったのは昨年2月くらいですね。それまでは家計の管理は妻が全部やっていたんですが、それが分かってからは僕が全部管理するようになった。妻の不満は多少はあったと思う」
検察側冒頭陳述でも「滝田被告がAさんに秘密で総額1000万円の借金があったことが発覚した。以後、Aさんが家計を管理し、滝田被告の収支を確認するようになったことで、滝田被告はAさんへの不満を募らせた」と述べられている。滝田被告が“恨み晴らし代行”に頼んだのは、まさに自業自得の出来事に対して抱いた自分本位な不満解消だったようだ。
滝田被告の不満解消のための嘘を疑うことなく信じ、50万円の報酬欲しさに見ず知らずの男性を殺害しようとした小西被告には、懲役8年の判決が言い渡されている(求刑懲役9年)。滝田被告、酒井被告との共謀は認定されており、事件当時にAさんの口元を塞いだかどうかについても「酒井がAさんを刺してその後すぐに口を押さえる可能性を排斥」し、小西被告がAさんの口元を塞いだと認定されていた。
小西被告の判決は既に確定している。酒井被告と、Aさんの殺害を依頼した滝田被告の公判は今後行われる見通しである。
取材・文:高橋ユキ
傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。6月1日に「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館)が新たに出版された