”密売革命”が起き…”Mr.マトリ”が語る大麻汚染のヤバい実態 | FRIDAYデジタル

”密売革命”が起き…”Mr.マトリ”が語る大麻汚染のヤバい実態

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スマホで仲間を募って栽培、保管、販売を分担…ポイント制も

「野菜」(=大麻)や「手押し」(=手渡し)といった隠語に、「サービス品、プレゼントします」の宣伝文句。TwitterなどのSNSには今、こうした薬物販売の投稿が溢れている。

《いまの日本は、大学生や高校生はおろか、中学生でもその気になれば薬物を購入できる環境が整っている》

厚生労働省の麻薬取締部、通称「マトリ」元トップの瀬戸晴海氏は、新著『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)でこう指摘する。

日本では近年、違法薬物に手を染めて検挙される「大学生や高校生、中学生を含む〝子どもたち〟」が増加の一途を辿っているという。実態を瀬戸氏に聞いた。

「薬物使用者の年齢層は、思春期の後半から40代までが最も多いんです。大麻使用者に関しては、30代未満が7割を占めています」(瀬戸氏、以下同)

国立精神・神経医療研究センターが実施した「薬物使用に関する全国住民調査(2021年)」の報告では、違法薬物の生涯経験者数は362万人と推計されている。そのうち大麻が約128万人と最も多く、過去1年間の経験者数は2019年(前回調査)の約9万人から2021年は約13万人に増加している。

「若者を中心に薬物に対する危機意識が低下していることが一因と考えています。特に大麻は、それほど危険ではないと思われている。 

その背景には、カナダやアメリカの一部の州で大麻が合法化されたことがあるでしょうね。子どもたちはネットニュースなどの見出しから『海外では合法化が進んでいる』と解釈し、大麻に関する記述を見て『タバコやアルコールより害がない』『大麻は悪いものじゃない』と、間違った認識を持ってしまっているわけです」

1960年代後半にアメリカのヒッピー文化が世界に波及し、日本でもマリファナを吸う行為が若者の間に広がった。その時代を知る世代の大人たちも、大麻をそれほど危険視していないかもしれない。

「今の大麻は、その時代のものとはまったく違います。たとえば昔の大麻をビールとするならば、今の大麻はウイスキーです。ヒッピー文化の時代に比べて10倍くらい強度が上がっています。さらに、大麻ワックスや大麻リキッドと呼ばれる濃縮された大麻製品も出てきている。大麻はどんどん高濃度化し、今や危険ドラッグに近いくらいの代物になっているものもあるんです。 

依存性は覚醒剤などに比べると確かに弱いとされていますが、大麻には間違いなく精神依存も身体依存もある。依存症から慢性中毒化、そして慢性中毒から大麻精神病に至るおそれさえあります。 

福岡で昨年、大麻を常習していた20歳の男が家族を切りつける事件が起きました。大麻等の薬物を乱用し続けると、本人が薬物の被害者になります。行きすぎれば、被害者から加害者に転じる場合もあるんです。 

子どもたちには、薬物事件の被害者になどならないでほしい。そして、加害者にもなるなと伝えたいですね」 

「日本で売買される大麻のほとんどは、国内で栽培したもの」と瀬戸晴海氏。「若者を中心に薬物に対する危機意識が低下していることが一因」と指摘する(写真:アフロ)
「日本で売買される大麻のほとんどは、国内で栽培したもの」と瀬戸晴海氏。「若者を中心に薬物に対する危機意識が低下していることが一因」と指摘する(写真:アフロ)

乱用だけに留まらない。密売にまで手を染める若年層

だが、スマホで薬物を買う子どもたちの実態は、乱用のみに留まらない。若年層は密売にまで手を染めているのだ。

「ネットやSNSが怖いのは、一般の人を密売人にしてしまうことです。薬物の密売といえば従来は犯罪組織かその周辺の連中がやることでしたが、今は素人にもできます。ネットで多めに安く買って、それをいろんなキャッチコピーをつけて高く売る。こんなことは以前はありませんでした」

その一方で、素人の「密売人」が10代や20代の「買い手」から危害を受けるなんてことも起きている。

「密売を始めた子が、注文してきた相手に指定された場所に出向き、タタキ(強盗)に遭う事件が発生しています。大麻1、2グラムの取引で、10代や20代の子に被害者と加害者が出ている。大麻がSNSで販売されるようになったことで、このような事態が起きているんです」

SNS上での薬物の密売を取り締まることはできないのだろうか。

「麻薬取締部も警察も、監視や取り締まりに力を入れています。ところが一向になくならない。密売に手を染めた連中は、すり抜ける方法を知っているんです。まずいと思ったらすぐにアカウントを閉鎖し、別のアカウント名に変えて密売を続けます。 

密売人はSNSで客を吊り上げると、足がつかないように、通信記録を消去できる秘匿アプリのWickrやTelegramに誘導します。スマホとSNSの普及は、言うなれば“密売革命”をもたらしたわけです」 

アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州など18の州と1つの特別区、そしてカナダでは、医療用と娯楽用の大麻が合法的に販売されている。日本の若者に及ぼす影響は小さくない
アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州など18の州と1つの特別区、そしてカナダでは、医療用と娯楽用の大麻が合法的に販売されている。日本の若者に及ぼす影響は小さくない

日本で売買される大麻のほとんどは「国内産」…仲間を募って栽培、保管、販売を分担

さらに、瀬戸氏は著書で、大麻事犯の最近の特徴として「栽培事犯の増加」を挙げている。乱用、密売……なんと、栽培にまで手を出しているとは。

「日本で売買される大麻のほとんどは、国内で栽培したものです。室内栽培が定着していて、押し入れやクローゼットを改造し、太陽光の代わりにナトリウムランプを使って四季をつくり、1年に3回から4回収穫できるようにする。やり方はYouTubeでも紹介されています。大麻の栽培も野菜を育てるのと同じですし、摘んで乾燥させたらおしまいです。大した技術は必要ありません。 

個人で使用するために栽培する者もいますが、収穫量が増えれば売ってみようという気が起きてきます。友人や仲間がほしいと言えば売るでしょう。大麻の栽培と販売は、手っ取り早く儲ける手段にもなっているんです」

大麻を栽培して売るだけの人もいるのだろうか。

それはいないと思いますよ。乱用を続けるうちに大麻への興味が高まり、よりいいものをという気持ちから栽培を始めるんでしょう。 

ただ、商売を目的に手を染める人たちも増加しています。ネットで仲間を募ってグループをつくり、栽培と保管、販売を分担する。連絡は秘匿アプリのネット通話を使って取り合う。 

中には、取引に現金ではなく仮想通貨を使うグループもあります。関わっているのはある程度の知識を持った大学生以上の人間ですが。 

ポイント制にしている連中もいます。買った客にポイントを与え、何ポイントまでいくと何グラムつけるとか。売買しているものが大麻でなければ、これはもうビジネスですよ」

賃金が一向に上がっていかない今の日本に、大麻ビジネスを副業にする若者が表れる可能性は、もしかするとゼロではないのではないか。

「大麻が金になることがわかって、最近は暴力団組織の末端の連中が、自分たちがシノグために関与し始めています。一般の若い子たちに部屋代や栽培費用を提供して大麻を栽培させ、SNSで売らせるケースが増えてきました。大麻というマーケットが、食えなくなった暴力団の新たな資金源、シノギになってきたわけです」

その世界の言い方をすれば「ヤクザがカタギの商売に手を出すようになった」ということか。

薬物を買うのも売るのもいわゆる普通の子という恐ろしすぎる現実

薬物事件はもはや、暴力団や芸能人に限った話ではない。スマホで薬物を買ったり売ったりしているのは、いわゆる普通の若者たちだ。

「彼らが薬物に手を出すのも、友人や先輩に誘われたとか好奇心とか、ごくありふれた動機からです。 

あるいは、不安やストレスを感じたり孤独感に襲われたりして心が弱っている時に、ふとネットやSNSで『薬物をやれば楽になる』といった書き込みを見て手を出してしまう子たちもいます」

そのようなケースはコロナ禍でますます増えているのではないかと想像するが……。

「コロナの感染拡大が影響を及ぼしているのは間違いないでしょうね。行動制限や経済の悪化などによって多くの人が不安や焦燥感に駆られる中で、薬物乱用者の使用頻度や摂取量が増加傾向にあるのは事実です。 

一方で、退屈という理由で薬物に手を出すケースも見られます。ある大学の運動部で大麻使用が発覚した時に、『コロナで暇だったから』と動機を述べた学生もいたようです」

最近の大麻事情や薬物問題も、日本の劣化ぶりを物語っていると言えるかもしれない。

「薬物犯罪は一つの社会問題で、時代を反映しています。しかし、メディアは著名人が逮捕されると騒ぎ、国民も薬物問題に関心を持つのはその時だけです。我々もメディアも、実態と問題の本質をもっと積極的に伝えていかなければいけないでしょうね」

瀬戸晴海(せと・はるうみ)日本薬物問題研究所理事、国際麻薬情報フォーラム副代表理事。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒業後、厚生省麻薬取締官事務所に採用され、薬物犯罪捜査の一線で活躍。九州部長、関東信越厚生局麻薬取締部長などを歴任し、人事院総裁賞を2度受賞。2018年に退官。著書に『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新著)。7月に『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)を上梓した。

 

  • 取材・文斉藤さゆり写真アフロ

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