「カゼ薬の副作用で死亡」の原因が遺伝子分析で分かった | FRIDAYデジタル

「カゼ薬の副作用で死亡」の原因が遺伝子分析で分かった

中村祐輔医師の免疫治療&ゲノム解析最前線レポート    取材・文:青木直美(医療ジャーナリスト)

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遺伝子情報がより正確に解析できるようになり、発症しやすい病気やクスリの副作用も徐々に解明され始めた

本誌はこれまで、「がん研究会がんプレシジョン医療研究センター」所長・中村祐輔医師(65)によるがん治療の最前線を紹介してきた。だが、中村医師の研究は、がん治療だけに限られているわけではない。実は、同医師の研究によって、これまで「原因不明」、あるいは「体質」と考えられてきた薬剤による難病も、患者が「ある遺伝子」を持っていることが原因で起こることが分かってきた。

そのひとつが、「スティーブンス・ジョンソン症候群」。別名「皮膚粘膜眼症候群」と呼ばれ、発症すれば高熱や全身の倦怠感とともに唇や眼、鼻などのやわらかい皮膚粘膜がただれ、全身に赤い斑点や水ぶくれが多発する――。十数年前までは原因が分からず、まったく予防する手立てがなかった病気だ。

「スティーブンス・ジョンソン症候群は、乳幼児から高齢者まで年齢や性別に関係なく発症します。急激に悪化する場合があり、水泡はすぐに破れてただれた状態になり、出血や激痛を伴います。多くの場合はステロイド薬の点滴治療などで回復しますが、皮膚のケロイドや呼吸器の炎症が長引き、閉塞性細気管支炎などが後遺症として残ることも。重症となれば、尿道や肛門の周辺、上気道粘膜や消化管の粘膜まで炎症が広がってしまう。その結果、失明したり、場合によっては、呼吸不全や多臓器不全から死に至ることもある難病です」(中村医師=以下、「 」内はすべて本人)

中村医師によれば、冒頭のように、この病気は「ある遺伝子」を持った人が特定の成分が入った薬を服用することで発症するというのだ。そしてその成分は、誰でも買うことができる市販薬にも入っている。詳しくは後述するが、読者にとって馴染(なじ)み深い「ロキソプロフェン」を含有した市販薬も「ある遺伝子」を持った人が使用すれば、スティーブンス・ジョンソン症候群をひき起こしてしまう可能性がある。

これまでスティーブンス・ジョンソン症候群を発症した患者への調査から、抗生物質や解熱鎮痛消炎剤、てんかん治療薬、カゼ薬、痛風治療薬などの処方薬や市販薬を服用した後に異変が起きたことが厚生労働省に報告されていた。だが、根本的な原因が分からず、「薬剤の副作用」として表記されるだけだった。

ところが21世紀に入って、大きな動きがあった。’03年、「特定の遺伝子(HLA‐B1502)を持つ人がてんかん治療薬『カルバマゼピン』を服用すれば、スティーブンス・ジョンソン症候群の症状がほぼ100%の確率で起こる」と台湾の研究者から『Nature』誌に報告され、世界中に衝撃を与えたのだ。

「時代的にはちょうどヒトの全ゲノム解析が終了したころでした。しかし、台湾で発表された遺伝子だけでは、日本人の患者さんでは説明できなかったんです。そこで、理化学研究所・ゲノム医科学研究センター(当時、中村医師がセンター長)で、日本人には、どの型の遺伝子を持った人がこのてんかん治療薬を服用すると副作用が表れるのか調査した。すると、台湾で報じられた遺伝子とは別の遺伝子(HLA―A3101)が強く関係することが分かりました。そして、世界的な痛風治療薬「アロプリノール」による発症も、『HLA』に関係することが報告されています。いち早く遺伝子を特定した台湾では、てんかんや痛風の治療をする際に、この2つの薬剤(「カルバマゼピン」と「アロプリノール」)を使用する患者は、保険適用であらかじめ遺伝子検査を受けてから投与する体制が整っています。ところが日本では、この治療薬2剤に関しても、臨床研究として細々と調べられているだけで、いまだに何の対策も取られていません。遺伝子診断を利用する場合に絶対必要な、就職や結婚にかかる『遺伝子差別』を防ぐための法整備もされていない」

てんかんや痛風薬だけではない。前述したように、現在、専門家の間では、処方薬はもちろん、市販のカゼ薬に含まれている「ロキソプロフェン」や「アセトアミノフェン」、「ジクロフェナク」による副作用もHLA遺伝子が関係している可能性が限りなく高いとみられている。そして、薬剤の肝臓への副作用もHLAが関係していると報告されているのだ。

本誌は「ロキソプロフェン」を含有する市販薬を製造する製薬会社(下表)にもアンケートを行ったが、回答があった社からは副作用と特定の遺伝子の関係について、「認識している」、「発症リスクが高いと理解している」と返ってきた。製造元がスティーブンス・ジョンソン症候群発症の可能性があることを認識し、商品の添付文書に注記しているにもかかわらず、厚生労働省は遺伝子解析の整備を進めようとはしないのだ。

市販薬を飲んで死んでしまう――。そんな最悪のケースは、遺伝子解析で避けられる。国民は一刻も早くその事実を知り、国は現実的な対策を講じるべきだ。

「中村ラボ」では遺伝子解析の他にも血液からがんを発見する「リキッドバイオプシー」研究も進む

研究室のメンバーと談笑する中村医師。この場所で最先端の遺伝子研究が進められている

頭痛やカゼ、筋肉痛などの症状緩和にドラッグストアやインターネットで手軽に購入できるものばかり

撮影:浜村菜月(1、2枚目写真)

 

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