期待作『NOPE』公開直前でも「異常なほど情報が出ない」ワケ | FRIDAYデジタル

期待作『NOPE』公開直前でも「異常なほど情報が出ない」ワケ

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『NOPE/ノープ』8月26日(金)より全国公開 配給:東宝東和 ©2021 UNIVERSAL STUDIOS
『NOPE/ノープ』8月26日(金)より全国公開 配給:東宝東和 ©2021 UNIVERSAL STUDIOS

※ネタバレなし

『トップガン マーヴェリック』が国内興行収入109億円を突破し、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』が92億円、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』が公開3週間で40億円を記録と、国内外の大作映画のヒットが目立つ2022年。直近では『ONE PIECE FILM RED』が10日間で70億円を突破(シリーズ歴代最高成績を更新)し、驚異的な強さを見せつけている。

ミニシアター系作品では、『わたしは最悪。』の観客動員数が公開翌週に前週対比100%を超える劇場が多数出たという。もちろん、全体的なベースアップというわけではなく、物足りない数字の作品もあるし、新型コロナウイルスや動画配信サービスの台頭による影響はいまだ色濃い。とはいえ、興行面で映画界に明るいニュースが増えた、という側面は間違いなくあるのではないか。

となると気になるのは次のヒット作、話題作が何になるのかだが、ここで奇妙な動きをしている映画に注目したい。8月26日公開のアメリカ映画『NOPE/ノープ』である。

映画ファンを中心にカルト的な人気を博し、2018年の第90回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネート(脚本賞を受賞)された『ゲット・アウト』の監督・主演コンビの最新作ということで、本作の観賞を心待ちにしている方も多いだろう。しかし、その割に国内の業界周りが不気味な沈黙を保っているように感じられないだろうか。盛り上がるに違いない映画の話題が、異常に出ていないという事実……。

実はこれ、作品が不評だからということでは全くなく、徹底した情報統制が行われているから。映画好きには知られた話だが、話題作のレビューには解禁日時が設けられていることが多く、機密保持契約書(同意書)にサインしたうえで試写に参加する場合もしばしば。

しかし『NOPE/ノープ』においては、その“警戒レベル”が非常に高い。レビュー解禁は公開1週間前に設定され、日本公開前に事前の観賞が許された人数も一握り(当然ながら、観たことも解禁タイミングまでは口外禁止)。既に本国で公開済みの作品であれば多少規制がゆるくなるパターンもあるが、こと本作においては厳戒態勢が続いている。

つまり、『NOPE/ノープ』の静けさは“意図されたもの”。それだけの衝撃性が作品に盛り込まれているという証明であり、そのことが逆説的にコアな映画ファンの期待をあおる効果も生み出している。「日本公開がもうすぐなのに異常なほど情報が出ていない」というのは、かえって「絶対に言えない何かがある」と観賞欲に火をつけるのだ。

『アベンジャーズ』等の超ビッグバジェット作品は別として、通常はマスコミや観客を試写会に招待し、ある程度の“見せ込み”を行って話題づくりを図るもの。その機会を設けないということは、作品に対する自信の表れともいえる。

こうした動きについては、『シックス・センス』や『サイン』等、一時期のM・ナイト・シャマラン監督作品にも近い「結末を絶対に口にしないでください」系の作品や、直近であれば徹底的に“情報出し”がコントロールされた『シン・ウルトラマン』や、公式はおろかファンやマスコミが結託してネタバレ回避策を講じた『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を思い出させる。

話題作であればこそ、隠せば隠すほどに盛り上がるという逆転の発想。そして『NOPE/ノープ』は、いま挙げたタイトルに連なる起爆剤的な作品でもある。

では、何が『NOPE/ノープ』のスゴさなのか? 上記の理由から本作の詳細は明かさないものの、観賞の醍醐味を損なわない範囲で紹介していこう。

©2021 UNIVERSAL STUDIOS
©2021 UNIVERSAL STUDIOS

まず、映画ファンが本作を心待ちにしている理由は、ジョーダン・ピール監督の最新作であること。前述した『ゲット・アウト』は、黒人の青年が白人の恋人の実家に挨拶に行ったらとんでもない目に遭った……。という物語でありながら、予想を飛び越えてくる展開に人種差別的なテーマが絡み、衝撃性と作品強度が両立したスリラー。「観ると話したくなる」「考察や深掘りがはかどる」といったような“欲”を誘発する作品でもあり、ユーザーの口コミも多数見られた。

続く『アス』は、ドッペルゲンガーが自分たちを襲って来るという物語。本作もまた、ホラー調のスリラーとしての面白さに加え、アメリカの歴史や都市伝説に根差した内容や、往年の名作・カルト映画の引用があり、レイヤーこそ違えどライト層が観てもコア層が観ても盛り上がることのできる映画であった。

このように、ジョーダン・ピール監督の作品は2作連続で独自性や満足度が高く、「ハズレがない」「見たことのないものを見せてくれる」という期待が映画好きの間に浸透しているため、「次回作を早く観たい」と熱望されていた。そのうえでの『NOPE/ノープ』である。本作もまた、断片的にしか内容が明かされていないものの――観賞欲を掻き立てるには十分な材料がそろっている。

『NOPE/ノープ』はざっくりいうと、UFO映画だ。アメリカの片田舎で牧場を経営する一家。父親が空から降り注いだ異物によって死亡してしまい、家業を継いだ長男OJ(ダニエル・カルーヤ)は、ある日巨大な飛行物体を目撃する。あれは一体、何なのか……。妹エメラルド(キキ・パーマー)の提案で、飛行物体を撮影してバズらせ、一獲千金を狙うことにした兄妹だったが、撮影は困難の連続で――。

©2021 UNIVERSAL STUDIOS
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このあらすじだけでも面白そうではあるのだが、ジョーダン・ピール作品は事前の知識が要らないとっつきやすさで観る者を引き込みつつ、「確実にそこでは終わらない」のがミソ(だからこそ、執拗なネタバレ禁止令が出ている)。

『ゲット・アウト』『アス』がそうだったように、本作もまた「UFOに遭遇した男の物語」という王道のシチュエーションで観る者を油断させ、そこからどんどんスイッチしていく構造になっている。まさに「NOPE(ありえない)」というタイトル通りの衝撃的な展開になっていくのだ。

筆者自身、「ジョーダン・ピールがUFO映画を撮ったら何かやってくるに違いない」と身構えて観賞に臨んだのだが、度肝を抜かれてしまったのが正直なところ。いわば『NOPE/ノープ』は、従来のUFO映画を逆手に取った「UFO映画の常識を覆す」作品になっている。いままさに「言いたくてしょうがない」気持ちを押さえつけてこの記事を書いているように、映画を観終えた後に「語りたくなる」魔力も健在だ。

しかも、飛び道具的なアイデア一発勝負で終わらないのが、ピール作品の強み。先に挙げたサプライズは間違いなく「劇場で観てぶっ飛ぶ」仕掛けといえるが、シニカルでシリアスなテーマ性やメッセージ性、兄妹が父の死を乗り越えていく人間ドラマといった作品の“深み”にちゃんとつながっている。

『ゲット・アウト』が優れた肉体や遺伝子を求める人間の狂気まで踏み込んで描き、『アス』が“地下”を一つのメタファーとして描き出したように、『NOPE/ノープ』にも寓話的な要素が多分に込められている。冒頭が何のシーンで始まるか、そしてそれが作品全体でどのような役割を果たしていくのかにも、ぜひ注目いただきたい。

ライトもコアも引き付け、観賞後に「あれはそういう意味だったのかも」と能動的に思考する喜びも内包している映画『NOPE/ノープ』は、次なる“台風の目”になるはずだ。

『NOPE/ノープ』
公開表記:8月26日(金)より全国公開
配給:東宝東和
©2021 UNIVERSAL STUDIOS

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  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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