<figure id="attachment_260594" aria-describedby="caption-attachment-260594" style="width: 480px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4f0c5403"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/img480x800_kimishi001.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260594" class="wp-caption-text">普段着に身をまとう日本選手権で陸上女子100ｍ女王の君嶋愛梨沙（写真提供：土木管理総合試験所）</figcaption></figure>
<h3>中学時代に新記録を樹立も、高校時代はけがに泣いた</h3>
<p>スパンコールの帽子に黒いブーツを履き、白い歯を見せる。一瞬、歌手を思わせるこの女性を見て、陸上短距離女王であるとわかる人はいるだろうか。女性の名前は君嶋愛梨沙。そう、6月の日本選手権女子100mで初優勝を果たし、7月のアメリカ・オレゴン州ユージーンで開催された世界陸上には4×100mリレーのメンバーとして出場、リレーの日本記録を更新に貢献した超トップアスリートなのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「やっとここまで来られたな、と。ずっとトップでいられることは理想ですけど、自分はそうじゃない。でもほかの人と違うストーリーが多いことが自分のいいところだと思います。</span><br>
<span class="strongInContent">　日本記録を自分が突破できたら、自分が世界の舞台に立てたら、日本代表になったら決勝で戦えるかもと多くの女の子が思ってくれるのではないか。たくさんの後に続く選手たちに、可能性を示したいという気持ちがある」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>シニアで念願の「日本一」の称号を手にしたのは、26歳になった今年が初めてだった。陸上界でこの年齢で初めて日本一になるのは、遅咲きの部類だ。今、日本のスポーツ界では連日、メジャーリーグで二刀流で活躍する大谷翔平の話題に注目が集まっているが、君嶋の場合は、大谷を超える三つの道を歩んだ末、栄冠をつかみとっていた。</p>
<p>君嶋選手はアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、3歳から山口県岩国市で育った。中学から陸上を始め、初めて出た県大会で3位となり、1年生の中国大会では優勝。中学2年生の時は、200mで全中（全日本中学校陸上競技選手権大会）に出場し、中学記録（当時）を更新する24秒36をマークした。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「正直、まったく狙ってもいなかったので、中学新記録の意味もわからないぐらいでした。ただただびっくりでしたね」</span></p>
<p>陸上の強豪・埼玉栄高校に進学したが、左脚の痛みを感じながらの競技。1年生のシーズンを終え、診察を受けると舟状骨の疲労骨折が判明した。結局高校3年の夏までリハビリは続いた。</p>
<p><span class="strongInContent">「競技成績を出したいと思って地元を離れて来ているのに、競技自体ができない。『行った意味があったのかな？』と思ってしまい、気持ち的に一番しんどかった時期ですね」</span>と振り返る。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="日体大時代に訪れた転機"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<figure id="attachment_260610" aria-describedby="caption-attachment-260610" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="14dd90b4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/2022072908494.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260610" class="wp-caption-text">7月、米国・オレゴンで行われた世界陸上女子４００メートルリレー予選後。左から御家瀬緑、児玉芽生、君嶋愛梨沙、青木益未（代表撮影・共同通信）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_260706" aria-describedby="caption-attachment-260706" style="width: 1440px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d82d9899"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/image2.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260706" class="wp-caption-text">6月、シニアで初の100ｍ女王に輝いた瞬間。鍛えられた筋肉が美しく浮かび上がった</figcaption></figure>
<h3>人生の転機となった「ポスター」</h3>
<p>日体大に進み、1年から関東インカレにも出場したが、思うような成績を残せず。大学3年の夏に思わぬ転機が訪れた。大学のスポーツセンターに貼ってあった「ボブスレー選手発掘プロジェクト」。陸上部の水野増彦総監督（当時）から「パワーもスピードもあるから、受けてみたらどうか」と勧められた。冬季競技とは全く縁がなく、やるつもりもなかったが、<span class="strongInContent">「やってみないと自分の可能性を引き出せないのかなと。自分に引き出しをたくさん作る方がいいんじゃないかな」</span>という思いでトライアウトを受けてみることにした。結果は合格。そこから即、日本代表の合宿が行われているドイツへと向かうことになった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>初めてみたボブスレーのスピードは想像を超えていた。恐怖を克服しつつ練習に取り組み迎えた初戦のヨーロッパカップでいきなり優勝。世界選手権でも7位となり、日本男女通して初の入賞という快挙を成し遂げた。大学４年生のシーズンには平昌オリンピック出場を目指したが、出場に必要なポイントを得られず、出場はかなわなかった。</p>
<p>進路を考えた時に、昔から思い描いていた「指導者の道に進みたい」という思いと、「まだ陸上競技でも結果を残したい」という思いを両立させるために、大学院に進みコーチング、コンディショニングを学んだ。この時に冬季競技のボブスレーの経験を活かし、スケルトンにも挑戦している。陸上の競技成績はふるわなかったが、大学院卒業後に「競技に区切りをつけよう」という気持ちにはならなかった。</p>
<p><span class="strongInContent">「自分は高校の時を棒に振っていて、他の人と比べて競技をしている時間がまだ短かったし、なんの根拠もないですが、やれる！　と思っていたんです」</span></p>
<p>JOCのアスリート就職支援制度「アスナビ」を利用し、土木管理総合試験所にアスリート社員として入社。陸上、ボブスレー、スケルトンの「三刀流」を志したが、コロナ禍もあって２つの冬季競技の競技会や海外遠征がほぼなくなったこともあり、まずは陸上競技に集中することになった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>2020年の社会人1年目には100mで日本選手権準決勝敗退。2年目、21年4月の織田幹雄記念では11秒64と4年ぶりの自己ベストで優勝。6月の日本選手権では予選で11秒51の自己ベストを更新したものの、決勝では5位に終わった。</p>
<p><span class="strongInContent">「やっと走れる体になってきたけどエンジンがすかすかな感じで、自分の体と感覚がついてこない状態でした」</span></p>
<p>そして社会人3年目の今年。冬からけがなく順調に練習を積み、日本選手権100mの決勝で11秒36、日本歴代4位のタイムで優勝をつかんだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「ゴールした瞬間は無の状態だったので、勝ったのかどうかわかっていませんでした。スクリーンに自分が映っているのをみて、『よっしゃー！』って」</span></p>
<p>そして世界陸上の代表にも選ばれ、陸上競技では初めて日本代表のユニフォームを着た。</p>
<p><span class="strongInContent">「やっとここまで来られたな！　と思いました。新しいステージに行くには日本一になることが必要だし、日本代表になることも必要だと思っていました。長い時間はかかりましたが、ようやく達成できたなと思いました」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="初の世界陸上にも緊張しなかった理由"></div>
<figure id="attachment_260711" aria-describedby="caption-attachment-260711" style="width: 463px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b8e9c6de"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/a879b74da6cb36e53c17a1aa41f1cea6.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260711" class="wp-caption-text">ボブスレーをはじめたときの君嶋</figcaption></figure>
<h3>遅咲きの女王が大事にしてきた「夢」</h3>
<p>世界陸上の4×100mリレーでは2走を務めた。隣のレーンのイギリスの選手は「次元が違う」と感じられたが、他の選手とのラップタイムは0.1秒程度の差。「戦えるぐらいの実力がついてきたかな」という手応えは感じられた。</p>
<p>陸上においては初めて世界の舞台に立ったが、緊張はなかった。それはボブスレーや世界選手権、海外遠征を経験していたことが生きた。だからこそ、「個人種目でも世界の舞台に立ちたい」という強い欲も沸き上がってきた。そのためには日本記録11秒21の更新、さらなる記録が必要になる。ちなみに今回の世界陸上100メートル決勝の８人中７人が10秒台をマークした。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「（世界陸上の参加標準である）11秒08を切って、10秒台を何回も出せる選手にならないとファイナリストにはなれないと思っています」</span></p>
<p>人生の目標は、「人に何かをしてあげられる人になりたい」だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「世界には貧困層出身の選手も多くいます。困っている人に対して、支援や活動ができる人でありたいなと。陸上を通してそれを見出せたらと思っています。自分も迷った時に、コーチや周りの人にたくさん助けられてきました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">　高校のときは親元を離れて一人暮らしをしていたのですが、同級生の親御さんがご飯を作ってくれたり、『泊りにきてもいいよ』と言ってくれて、娘のようにかわいがってくれました。当時私はすごく助けられてきましたので、今度は自分が同じように誰かを助けてあげたい、という気持ちです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">　誰かに何かをしてあげる、いうところは日本のスポーツ選手はまだ足りないのかなと思うので、その先駆けになれたらいいなと思います」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>日本で競技ができることはとても恵まれている。記録を出す喜びや楽しみとは別のところでも、何か自分にしてあげられることがあるんだよと伝えたい。そうすればスポーツの価値ももっと広がっていくのではと考えている。</p>
<p>紆余曲折を経てトップにのぼりつめた君嶋は、冒頭で示した通り、自らストーリーが多い人物だと自覚している。</p>
<p><span class="strongInContent">「だからこそこうして注目してもらえるというのもあると思います。いろんな引き出しをたくさん持っている方がいい。いま、いろんな引き出しを作れるような環境をもらっているので、何かがあったらいつでも生かせるようにしたいなと思っています」</span></p>
<figure id="attachment_260705" aria-describedby="caption-attachment-260705" style="width: 512px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3e9324bf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/image1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-260705" class="wp-caption-text">20日のレースでも優勝した君嶋。夢はパリ五輪へと続いている</figcaption></figure>


藤井みさ

普段着に身をまとう日本選手権で陸上女子100ｍ女王の君嶋愛梨沙（写真提供：土木管理総合試験所） 中学時代に新記録を樹立も、高校時代はけがに泣いた スパンコールの帽子に黒いブーツを履き、白い歯を見せる。

26歳でシニア初の日本一　三刀流で再生した短距離女王の紆余曲折

あなたへのオススメ

関連記事