見逃された0歳~5歳「無園児」182万人に必要な“公育て”意識
《ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』》
《ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』》
厚生労働省は今年2月に保育所や幼稚園、認定こども園に通っていない0歳児~5歳児、いわゆる“無園児”が全国で約182万人に上るとの推計を公表した。
来年4月に創設される『こども家庭庁』の大きな課題の一つであり、育児で困難を抱える家庭で親子が孤立すれば虐待などのリスクが高まる懸念が指摘されている。政府はようやく、本格的な対策に乗り出す事となった。
自治体関係者に聞いたところ
「0歳から2歳までは比較的家庭内保育が行われるケースが多くみられる。また、3歳児以降で見ると各学年の児童数の数パーセントであるが、通園状況が把握できていない。
しかし、その児童が家庭内保育なのか、認可外施設や企業主導型保育、外国人専用の施設などへ通っている可能性もあり、無園児としての把握は難しい状況である」
と、実情を明かしてくれた。
“無園児”の中には、認可外施設や企業主導型保育事業を利用する子どもが含まれているため、全く施設に通っていない“純粋な無園児”の正確な実数は、未だに把握できていないようだ。
それは、義務教育である小中学校とは異なり、保育所などに通わせるかどうかは保護者の判断で決まるからである。
“無園児”については、
① 就学までは家庭内で育てる家庭内保育
② 医療的ケア児が受け入れを拒否される
③ 保育所に空きがなく通園できない
④ 外国籍で入園手続きが分からない
⑤ 貧困的困窮
⑥ ネグレクトなどの育児放棄
など多岐にわたっている。
厚労省の検討会で’21年の末にまとめた報告書の中で、核家族化や地域のつながりなどの希薄化により
「保育所などを利用していない家庭が孤立して『孤(こ)育て』を強いられている」
としている。
認定NPO法人『フローレンス』のインターネット調査によると無園児の保護者のうち、子育てで孤独を感じると答えた人が計43・8%に上ることが分かった。保育所、幼稚園などに通っている保護者は計33・2%で無園児の保護者は定期的に園を利用している保護者よりも孤独感が高かった。
特に10~20代の若い保護者で高い傾向にあった。年代別で見ると10代は57・1%、20代は50・4%という調査結果になっている。
前出の自治体関係者は
「今後、核家族化や地域のつながりの希薄化により、幼稚園や保育所などを利用していない家庭が孤立して、貧困や虐待につながる可能性もあると考えられる。
無園児のうち支援が必要なケースが把握できない状況でもあり、今後は国の動向も注視し、課題等の把握に努めていきたい」
と“無園児”への問題意識を吐露している。
家庭内の孤立や虐待などを未然に防ぐ取組みについて自治体では、乳児検診の際に全戸訪問を実施したり、就学時検診を通して家庭内の状況を把握。疑わしい兆候があると子ども家庭センターなどの所管に通報して対処している。
保育園や幼稚園は、子どもにとっては大きなセーフティネットである。
低所得世帯でも給食があることで栄養をカバーできる。また、不適切養育世帯についても、虐待やネグレクトの兆候を、いち早く察知することもできる。
更に発達障害等の傾向も、毎日触れている専門職の先生が気づき、適切な療育や支援に繋ぐことが可能となる。
しかし、こうしたセーフティネットを最も必要とするはずの家庭にすべての判断が委ねられている実態がある。保育園や幼稚園に
「通わせても、通わせなくても」
親の意志に委ねられている制度設計に問題があるのではないだろうか。
『幼児教育無償化法案』が既に成立している。ただ、幼児教育が無償化されても、保育料以外の費用はそのままかかり続けるし、親のメンタルヘルスに問題があって通園が難しい場合は、引き続き子どもは無園児化するのである。
幼児教育無償化まで行ったのならば、確固たる家庭内保育を実施している家庭は除外としても
「子どもが3歳以降になったら、保育園か幼稚園に通わせなければならない」
という“義務化”に歩を進めるべきではないだろうか。
繰り返すが、保育園や幼稚園は、子どもにとっては大きなセーフティネットである。「孤(こ)育て」で苦しむ家庭への支援と社会全体での「公(こう)育て」が必要なのではないだろうか…。
- 取材・文:阿部光利(地方政治ジャーナリスト、元TVリポーター)
- 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ
元TVリポーター、政治ジャーナリスト
‘56年生まれ。『2時のホント』『おはよう!ナイスデイ』『とくダネ!』(ともにフジテレビ系)などの情報番組でリポーターとして活躍。広告代理店経営の後、‘11年から‘19年までは東京都台東区議会議員に。その後、衆議院議員の公設第一秘書として活動。現在は、行政の諸問題、社会問題などを独特の視点で取材、執筆活動をしている