価値下落を恐れ引きとめ…大谷翔平「球団売却で厳しすぎる未来」
スタジアムに大谷翔平の代理人ネズ・バレロ氏が姿を見せたのは、8月24日(日本時間)のレイズ戦前だ。バレロ氏は通訳をまじえ、スタンドで大谷と真剣な表情で会談。話し合いは10分ほど続いた――。
衝撃のニュースが流れたのは、バレロ氏が球場を訪問する数時間前。大谷が所属するエンゼルスのオーナー、アルテ・モレノ氏が球団売却に動いていると発表したのだ。モレノ氏は次のようにコメントしている。
「エンゼルスを20シーズンにわたり保有できたことは、とても光栄なことだった。難しい判断だったが、家族と話し合い『今がその時』という結論にいたった」
オーナーがらみの汚職事件でFBIが捜査に
屋外広告をあつかう「アウトドア・システムズ」CEOのモレノ氏が、「ウォルト・ディズニー」からエンゼルスを約248億円で購入したのは03年だ。07年から3年連続で地区優勝したが、以降チームは低迷。14年を最後にプレーオフ進出はなく、最近は7年連続で負け越している。なぜモレノ氏は、このタイミングで売却を発表したのだろうか。
「汚職事件が発覚したんですよ。モレノ氏はホテルなどを開発するために、20年10月にエンゼルスタジアム周辺の土地をアナハイム市から約432億円で買い取りました。しかし今年5月になって同市市長の汚職が発覚し白紙に。土地の代金は再選資金を得るためだったとして、FBIが捜査に乗り出したんです。展開によっては、モレノ氏も罪に問われる可能性があります」(スポーツ紙担当記者)
経済紙『フォーブス』によると、エンゼルスの球団価値は購入時の10倍以上の約2970億円になるという。二刀流で活躍する超スター選手、大谷翔平が在籍していることが大きく影響しているのだ。
「今夏、大谷に移籍話が浮上しました。実際、エンゼルスへオファーを出した球団は複数あります。しかしモレノ氏は、放出を許さなかったとか。振り返れば、売却を視野に球団の価値を落としたくなかったのかもしれません」(同前)
球団価値の大きさを考えると、買収に手をあげる新オーナーがスグに現れるかは不透明だ。地元紙『オレンジ・カウンティ―』によると、売却までに1~2年かかる可能性もあるという。来オフにFA権を獲得する大谷は、今後どうなるのだろうか。
メジャー事情に詳しい、スポーツジャーナリストの友成那智氏が語る。
「過去の球団売却で、新オーナーが選手の大半を放出したケースはあります。しかし、球団価値の低い地方のチームでのこと。エンゼルスのような価値の大きい都市部の球団を買収するには、莫大な資金が必要です。新オーナーは主要選手を温存したうえで予算を拡充し、新戦力の獲得に乗り出すでしょう。投打の軸である、大谷を中心としたチーム作りです。
そうしたやり方が、うまく行くかは未知数です。現にエンゼルスは10年以降ハミルトンやプホルスなど有力選手を獲得しましたが、戦力としてまったく機能しなかった。大型補強に頼ったため、育成力やスカウト力までどん底に落ちてしまったんです。新オーナーが新戦力を獲得しても、チームの低迷は打開できず、これまでの二の舞になる恐れがあります。
大谷は『勝てるチーム』でのプレーを望んでいます。新オーナーは、潤沢な資産を頼りに、大谷を引き留めるでしょう。しかし、残留が大谷にとってプラスになるかわかりません。大谷も難しい決断が求められます」
シーズン終盤に発覚した所属球団の売却。大谷が代理人と話し合う時間が、今後は長くなりそうだ。
写真:AP/アフロ