地権者が”拉致”され…東京・虎ノ門 地面師達の「仁義なき戦い」 | FRIDAYデジタル

地権者が”拉致”され…東京・虎ノ門 地面師達の「仁義なき戦い」

ある日、所有者が親族ごと"拉致"されて、"反社"が取締役に就任…… 一等地に建つテナントビルで発生した狡猾な乗っ取り事件

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地下鉄・虎ノ門駅の真上、国会議事堂や霞が関、アメリカ大使館が徒歩圏内という超一等地に建つ「虎ノ門産業ビル」。土地建物あわせた評価額が約40億円という、この9階建てのテナントビルを舞台にいま、地面師たちが仁義なき戦いを繰り広げている。証言するのは20年以上もビルのオーナーAさんを世話してきた家政婦・富川知子さん(仮名)だ。

虎ノ門産業ビルは虎ノ門交差点に面した一等地に建つ。土地の所有権の3分の2をAさん、残りを従兄弟のB氏が持つとされるが、二人とも行方不明である
虎ノ門産業ビルは虎ノ門交差点に面した一等地に建つ。土地の所有権の3分の2をAさん、残りを従兄弟のB氏が持つとされるが、二人とも行方不明である

「あのビルはAさん家族の会社が所有し、管理していたのですが、ご両親もお兄さんも亡くなって、Aさんが継ぐことになりました。Aさんには知的障害があったので私が生活の補佐を、お父さんの代から会社を支えていた取締役二人がビルの実質的な管理を行っていたのですが……」

4月20日、事件が起きた。朝、若い男二人組が自宅に現れ、「散歩に行きましょう」とAさんを連れ出すところを、家政婦は見ていたのだ。富川さんが続ける。

「Aさんは帰ってきませんでした。携帯電話も家に置いたまま。実は、家に来た若い男は顔見知りでした。1年くらい前から家に出入りするようになり、相撲のチケットを取ってくれたり、食事をご馳走してくれたりと、Aさんに良くしてくれていたXという社長さんの部下だったのです。だからまさか、Aさんが拉致されるなんて思いもよらなかった」

すぐ警察に通報。Xにも電話を入れたが、「Aさんに会わせる」と言うものの、何だかんだ理由をつけて先延ばしにされた。印象的だったのは、「相手方に連れて行かれないよう保護している」という言葉だった。富川さんが続ける。

「せめてもの救いはAさんの補助人をしている従兄弟のBが一緒にいるらしい、ということ。Bも家に帰らず、行方不明になっていましたから……」

実はこの日、もうひとつ事件が起きていた。舞台は件(くだん)のビルである。

「PとQという男が乗り込んできて、Aさんの会社を乗っ取ったのです。実質的な経営者だった取締役二人は追放され、PとQに取って代わられました。Pは元暴力団員で、Qは事件屋――つまり〝反社〟だそうです。同日付で登記されていたから、社長印や権利書なども奪われたのでしょう」(虎ノ門産業ビル関係者)

事態はビルの乗っ取りにとどまらなかった。Aさんは赤坂に一軒家を持っていたが、翌4月21日には千葉県船橋市に住所変更され、家には2億円の抵当権をつけられていた。Aさんの知人は「自宅も乗っ取られるかもしれない」と危惧する。

「Xと、P&Qコンビは別グループです。2〜3年前にも、Bが持つ土地の所有権を実勢価格の倍の値段で買おうとした組織がありました。そのころから虎ノ門産業ビルは狙われていたのではないか」

地面師事件に詳しい、ジャーナリストの伊藤博敏氏が解説する。

「犯罪的に土地を収奪する詐欺師を地面師といいます。3〜10人のチームで動いていて、役割分担がある。遠隔地に住んでいたり、高齢で施設に入っていたり、所有者の管理能力に問題がある土地を探してくる役目の人に、虎ノ門産業ビルは見つかってしまったのでしょう。獲物が決まれば、次は『にんべん』と呼ばれる偽造役が登記などの書き換えに動く。こうして奪った土地を、地面師は不動産ブローカーを介して売却するわけです」

首尾よく会社を乗っ取ったPとQだったが、6月に入って株主総会決議無効確認裁判を起こされ、役員を解任されている。原告は行方不明のはずのAさんだった。XがPとQを排除するために起こした裁判だったのか。Xを電話で直撃した。

――虎ノ門産業ビルの件で話を聞きたい。

「申し訳ないけど、答えられない」

――Aさんのこともですか。

「そうです。ブローカーとか色々な人間から面談の申し込みが来ているが、すべて断っている。いま裁判中で、弁護士から止められているのです。私があなたに何か主張したところで、身の潔白が証明されるわけではないですから」

家政婦の富川さんは毎日、Aさんの両親の墓前で謝罪しているという。

「私がついていながらごめんなさい、と。Aさんは糖尿病を患っています。ちゃんと服薬しているのか心配でなりません」

突然の〝拉致〟から、4ヵ月が過ぎようとしている。

Aさん(右)と家政婦の富川さん。警視庁の捜査員が安否確認をしているというが、「Aさんが入院したという情報もある」(ビル関係者)
Aさん(右)と家政婦の富川さん。警視庁の捜査員が安否確認をしているというが、「Aさんが入院したという情報もある」(ビル関係者)

『FRIDAY』2022年9月2日号より

  • PHOTO山田宏次郎

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