「全て争います」父弟を”殺害”した被告女性の「本当の勝算」 | FRIDAYデジタル

「全て争います」父弟を”殺害”した被告女性の「本当の勝算」

’18年大阪・堺市発 「弟を練炭自殺に見せかけた」「父親にインスリン大量投与」など殺人罪で起訴も初公判では「全て争います」

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’18年6月、送検される車の中でうつむく足立被告
’18年6月、送検される車の中でうつむく足立被告

「私からは何も申し上げることはございません」

8月22日の朝10時から大阪地裁201号法廷で開かれた裁判員裁判の初公判。罪状認否においてこう述べたのは、父と弟を殺害したとして、殺人罪などに問われている足立朱美被告(48)。

声があまりにも小さいため、裁判長が改めて問い質(ただ)す。

「申し上げることはございません、と言いましたか?」

頷(うなず)いた被告に、裁判長はまた聞いた。

「黙秘ですか」

足立被告は再び、しかし、先ほどよりは大きな声で答えた。

「私からは何も申し上げることはございません」

続けて立ち上がった弁護人も「全て争います」と徹底抗戦の構えを見せた。

逮捕直前、報道陣の取材に答え無実を訴えていた頃は、茶髪のロングヘア、すらりとした体型でコンサバファッションを着こなしていた足立被告。初公判ではさらに伸びた髪を後ろでひとつに束(たば)ね、白いワイシャツに黒いパンツ姿で法廷奥のドアから現れた。当時よりふっくらした体型や、白髪交じりの伸びた黒髪に、4年という時の長さを感じる。

足立被告が問われているのは、父と弟に対する2件の殺人、義妹や知人に対する名誉毀損、そして器物損壊の罪だ。

事件は’18年に大阪・堺市で起きた。起訴状などによれば、水道工事会社の元社長である足立被告は1月、同市にある実家において、糖尿病や肺がんなどを患っていた父の富夫さん(67=当時)に対してインスリンを投与。治療後に一旦は回復した富夫さんに対し、すぐにまた多量のインスリンを投与した。その結果、富夫さんを低血糖脳症による意識障害に陥らせ、6月に死亡させたとされる。

さらに同年3月、実家において弟の聖光(まさみつ)さん(40=同)に睡眠薬を服用させ、トイレに運び込んで、練炭を燃やし、一酸化炭素中毒により死亡させたという。

加えて同年4月には、義妹である聖光さんの妻や知人を中傷する文書を近所の車のワイパーに挟み込んだほか、義妹所有の軽自動車や電動アシスト付き自転車に塗料を吹きつけたとされている。

法廷では起訴事実について何も語らなかった足立被告が、一連の事件で逮捕されるに至ったのは、弟・聖光さんの死亡の状況について不審な点が見られたことがきっかけだった。

警察の取り調べに「弟は自殺で間違いない。遺書もある」と主張し続けてきた足立被告。ところが聖光さんの遺体からは、足立被告に処方されていた睡眠薬と同じ成分が検出された。また聖光さんによる遺書とされる文章が被告のパソコンで作成されたことが判明するなどしたことから、検察が起訴に踏み切ったという。

一方の弁護側は「2件の殺人が前提の求刑を行うことは間違いない」と、検察側が死刑も視野に入れているはずだとしたうえで「間違いないと考えられる場合でなければ有罪とすることはできない。黒か白か判断する場ではなく、黒まではいかないというときは無罪とすべき」だと訴えた。11月の判決まで計22回の公判が開かれる見通しだ。

初公判では引き続き、富夫さんが亡くなった原因に関する審理が続けられた。検察側は冒頭陳述で「被告の犯行がなければ、富夫さんは6月には死亡していなかった。がんを患っていた富夫さんはそれでも半年から1年の余命があったが、衰弱が進行し亡くなるのが早くなった」と、インスリン投与が死期を早めたと主張し、弁護側は「死をもたらしたのは、がんやその転移だった」と、あくまでも、がんが進行したことで亡くなったと主張している。

当時の富夫さんの病状を証言するため、証人として出廷したのは足立被告の実母。被害者家族でもある複雑な心境を覗かせた。

「私が話すことによって、朱美と聖光、両方の家族にどういう結果をもたらすかを考えると辛かったです」

証言台の周りには衝立が立てられ、傍聴席から実母の表情を窺(うかが)うことはできないが、当時を思い出しながらなのか、終始ゆっくりと語り続ける。足立被告はたびたび瞬(まばた)きを繰り返し、目頭をティッシュで押さえていた。起訴事実に対してほとんど語らなかった被告が露(あらわ)にした感情。家族を失った悲しみなのか、それとも無実でありながら4年も勾留されている不条理を嘆いているのか。

冤罪を主張する足立被告が本当に事件と無関係であったのならば、一連の犯行を行った真犯人の存在が捜査の過程で浮上していてもおかしくはないが、今のところその形跡はなく、黙秘が功を奏するかは未知数だ。一方、刑事裁判は”疑わしきは罰せず”といわれるように、被告が”怪しい”というだけで有罪にはできない。

彼女がその涙の理由を公判で語ることはあるのだろうか。

’16年、若い男たちの中心でほほ笑む足立被告。写真はフェイスブックより
’16年、若い男たちの中心でほほ笑む足立被告。写真はフェイスブックより
聖光さん(左)と仲良さそうに写る足立被告(右)。写真はフェイスブックより
聖光さん(左)と仲良さそうに写る足立被告(右)。写真はフェイスブックより

『FRIDAY』2022年9月9日号より

  • 取材・文高橋ユキPHOTO共同通信社(送検時)

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