緻密なデータ分析で「京大野球部」を強豪校にした敏腕監督の手腕 | FRIDAYデジタル

緻密なデータ分析で「京大野球部」を強豪校にした敏腕監督の手腕

近田怜王(32) 最下位が定位置だった弱小チームが台風の目に 関西学生野球連盟秋季リーグは9月3日開幕

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「まだ135㎞ぐらいは出ますよ」と話す近田氏。練習では打者に速い球へ慣れてもらうため、通常より近い距離から投げているという
「まだ135㎞ぐらいは出ますよ」と話す近田氏。練習では打者に速い球へ慣れてもらうため、通常より近い距離から投げているという

「レベルが低いと思ったら、やめてくれてもいいから」

そう会社の先輩から言われ、期待せずに京都大学のグラウンドを訪れた。だが、選手たちのプレーを見て驚く。守備ではダブルプレーを難なくこなし、打撃練習では鋭い打球を連発していたのだ。

当時の衝撃を、京大硬式野球部監督・近田怜王(ちかだ・れお)氏(32)が振り返る。

「メガネをかけて身体が細い選手をイメージしていましたが、みんなゴツイ。厳しい監督のもと常にピリピリする、ボクが経験してきた野球とはまるで違いました。指導者はほとんど口出しせず、選手同士で話し合っていた。ボクにも遠慮せず意見を求めてくるんです。本気で向き合おうと、気持ちが引き締まりました」

近田氏が監督に就任したのは、昨年11月だ。初のリーグ戦となった今春の関西学生野球連盟で、京大史上最多となる5勝をあげる。阪神の佐藤輝明が卒業した近畿大や、同じく元阪神の岩田稔の母校で昨秋優勝した関西大、同志社大、立命館大など強豪私立を相手に、2年半ぶりに定位置だった最下位を脱出した――。

近田氏は、報徳学園高(兵庫県)の出身だ。1年秋から左腕のエースとして活躍し、3年夏の甲子園では最速148㎞の速球を武器にチームをベスト8に導いている。’08年秋のドラフトでは、ソフトバンクから3位指名を受けた。だが……。

「プロの壁は厚かったですね。同じ左の和田毅さんや杉内俊哉さんのボールを見て、モノが違うなと感じました。球速は同じでも、キレがまったく違うんです」

ケガにも泣いた。2年目のオープン戦で左肩を故障。2軍や3軍で調整したが、力のある速球が戻ることはなかった。

「戦力外通告を受けたのは、4年目のオフです。(12球団合同)トライアウトを受けましたが、獲得に動く球団はなかった……。まだ22歳。今後は指導者になろうと考えていた時、JR西日本が声をかけてくれました。『指導者になるなら社会人野球の経験もプラスになるぞ』と」

「質問が具体的かつ物理的」

京大野球部の部員数は80人ほど。リーグ戦でベンチ入りできるのは25人だ。部員の出身高校は関西や東海地方を中心に超名門校が多い
京大野球部の部員数は80人ほど。リーグ戦でベンチ入りできるのは25人だ。部員の出身高校は関西や東海地方を中心に超名門校が多い

JR西日本に入社した近田氏は、会社のことを理解しようと、野球だけでなく社業にも真剣に取り組む。神戸市の三ノ宮駅では、駅員としてホームに立った。

「電車が遅れると、お客さんから『なんで時間通りに来ないんだ!』と怒鳴られました。野球以外で怒られたことがなかったので新鮮でしたね。学んだのはコミュニケーションの大切さです。お客さんの話を聞き、現状や対策を伝えないと納得してもらえない。駅員の体験は、指導者になった時に大いに役立ちました」

会社の先輩で元京大監督の長谷川勝洋氏から「(京大の練習を)一度見てくれないか」と誘われたのは、’17年1月だ。近田氏は快諾。学生たちは、元プロ野球選手を質問攻めにする。

「内容が具体的かつ物理的なんです。『腕のどの筋肉を使えば強いボールを投げられますか』とかね。ボクは、筋肉の使い方など考えたこともなかった。これは生半可な答えでは納得してもらえないなと、自分で身体を動かし専門書を読んで勉強してアドバイスしました」

当初は週1回練習を見る約束だったが、選手たちの熱意に押され回数が増えていく。兵庫県西宮市内の社員寮から、片道2時間かけて通う日々。会社が地域貢献の一環として出向扱いにしたため、’20年9月、正式に助監督に就任した。

「上から『こうしろ』と言うことはありません。京大生は頭が良い。『どうしてそう思う?』と問題の本質を理解させれば、どんどん成長します。ボクはプロで実績がなかったのが功を奏したんです。実績があれば、成功体験を押しつけ京大生から反発されていたかもしれません」

監督になった近田氏が重視したのは、京大生ならではの緻密なデータだ。

「少年時代からプロ野球やメジャーリーグの試合を見て、投手の球種やコースごとの打率などマニアックに分析していた三原大知という部員がいるんです。京大は投手のボールの回転数や軌道を測定できる機械『ラプソード』を導入していましたが、うまく活用できていなかった。三原は『ラプソード』を使い、それぞれの投手の長所を引き出してくれました。投手の起用法は、三原に任せています」

データがズバリ当たった試合がある。今春4月の関西大戦。リーグ戦で登板経験のない捕手の愛澤祐亮選手が先発に抜擢され、4回無失点と勝利に貢献した。

「三原によると、愛澤は捕手ながら球筋が良い。投手としてのデータがなく下手投げで、十分通用するとのことでした」

他大学投手の速球対策で、近田氏は自らバッティングピッチャーを担当。パワーでは勝てないので、堅実な守備と積極的な走塁を選手に徹底している。

「最下位から台風の目になったからといって、満足していません。目標は歴史を変えること。本気で優勝を狙っています」

9月3日に開幕する秋季リーグでの初Vは、けっして夢の話ではなさそうだ。

本誌未掲載カット 京都大野球部を強豪校にした敏腕監督・近田怜王の手腕
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  • 撮影加藤 慶

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