結論ありきの実験も…過熱しすぎ?「乳酸菌」はそこまで万能なのか | FRIDAYデジタル

結論ありきの実験も…過熱しすぎ?「乳酸菌」はそこまで万能なのか

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あくまで統計学上の話…効果は「人による」としか言えません

ストレスを軽減するとか、内臓脂肪を減らすとか、いろいろ言われている乳酸菌。「売り切れで全然買えない!」という書き込みとともに、「寝不足が改善された」「ストレスが緩和された」などというその効果を讃えたコメントがSNSには溢れている。

カラダにいいのは何となくわかるけど、そこまで劇的な効果があるのだろうか?

「何とも言えないですね」

こんな答えをするのは、広島大学未病・予防医科学共創研究所所長として乳酸菌の研究を続け、植物乳酸菌による新奇ヨーグルト製造法の開発を世界に先駆けて成功させた杉山政則氏。

乳酸菌とは、「多量の乳酸を作る細菌」の総称で、さまざまな種類がいる。シロタ株とか、R-1、ガセリ菌というのは、ほんの一部で数えきれないほどあるそうだ。

1000種類以上の細菌が、100兆個を超えて生息していると言われる腸内細菌叢(腸内フローラ)。誰もが同じ腸内細菌叢を持っているわけではなく、個人差がある。

「たとえば、乳酸菌自体にストレスを軽減するなどの働きがあるわけではなく、その菌がつくるGABA(ガンマアミノ酪酸)が効果を発揮します。 

人によって腸内細菌叢が異なるので、同じ乳酸菌飲料やヨーグルトを摂取しても、期待した効果に喜ぶ人がいる一方、まったく効果を感じない人もいます」

でも、「ストレス軽減」とか、「内臓脂肪対策に」と書いてあるけど……。

「当然、企業が製品化を望むときには、安全性を担保するためにも動物実験をしますし、人に飲んでもらう臨床研究で、きちんとデータをとります。私たちの研究でも、LP28株が脂肪肝の改善と体内脂肪の蓄積抑制に有効なこと、SN13T株がγ‐GTP値を下げるのに有効なことを検証しています。 

そして、それを“統計学上の数値の有意性”で判断します。実際に求める保健機能効果が得られるかどうかは、“人による”としか言えません」

現在、ヨーグルトなど、乳酸菌を使った商品は1000アイテム以上あるといわれる。

「それぞれ特徴を打ち出すために、ほんの少しの差を大きくアピールしているのでしょう」 

今年5月の「乳酸菌飲料」の売り上げは食品スーパーマーケットで前年同月比14.4%伸長、ドラッグストアで同29.0%伸長したという(株式会社True Dataの統計データより)(写真はイメージ:アフロ)
今年5月の「乳酸菌飲料」の売り上げは食品スーパーマーケットで前年同月比14.4%伸長、ドラッグストアで同29.0%伸長したという(株式会社True Dataの統計データより)(写真はイメージ:アフロ)

結論ありきのデータで市販されている乳酸菌製品も

しかも、商品に書かれている効果は、しっかりしたデータに基づいたものかというと、そうでもないことがあるのだとか。

「ふつう、機能性を示すには食品の機能性表示に従ってデータをとる必要があります。そのためには臨床試験のプロトコールを研究倫理委員会で承認される必要があります。アトランダムに被験者を選ぶものですが、被験者の選び方に偏りがあったり、結論ありきの実験になっていることがあるのです。 

私の研究室にも、『このようなデータが出るようにしてほしい』という依頼がありました。すぐ断りました」 

実際、日経クロステック紙によると、各メーカーが消費者庁に届け出た研究レビューを、医師と臨床統計の専門家が評価したところ、科学的根拠が薄いとされたメーカーがいくつかあったと報告されている。

データも信用できない、効果も人によってばらつきがある。それでも乳酸菌は積極的に摂取したほうがいいらしい。

期待する健康効果が得られるかどうかはわからないけど、どのような乳酸菌を摂取しても整腸作用を促すことを体感している人が多いのは確か…
期待する健康効果が得られるかどうかはわからないけど、どのような乳酸菌を摂取しても整腸作用を促すことを体感している人が多いのは確か…

乳酸菌の研究はまだまだ発展途上

適量を摂取したときヒトの健康に有益な働きをする生きた微生物のことを「プロバイオティクス」と言うが、乳酸菌もプロバイオティクスの一つ。

腸内細菌には悪玉菌、善玉菌、免疫力が落ちたときに増殖する「日和見菌」があり、これらのバランスが悪くなると、身体の代謝系や免疫系が破綻する引き金になることがわかってきた。糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームのほか、多くの病気の発症が腸内細菌の破綻によるものといわれている。

乳酸菌の力を借りて、腸内細菌のバランスをよくすることはとても大切なのだ。

人によっては、期待する健康効果が得られるかどうかはわからないが、どのような乳酸菌を摂取しても、整腸作用を促すことを体感している人が多く、ヨーグルトは人気がある。

それにしても、乳酸菌がアレルギーにも効果があるとは驚きだ。

「食べ物を口にすると、病原菌なども体内に入ってきます。それを取り込んでいいのか、ブロックして追い出すのか判断する役割を担っているのが“バイエル板”をはじめとする腸の免疫組織。こうした免疫担当細胞の70%は腸管内にあります。腸内細菌のバランスをよくすることで免疫力が高まり、病気に対する抵抗力が向上するわけです」

それだけではない。腸内細菌が作る代謝物は脳神経細胞にプラスに作用するとも言われ、精神を安定させる働きもあるのだとか。

「乳酸菌が作る物質の一つにGABAがあります。GABAには血圧降下作用のほか、精神安定作用があることがわかってきました」 

現在市販されている乳酸菌製品のほとんどは動物由来のものだが、野菜や果物を発酵できる植物由来の乳酸菌もある。杉山氏によれば、動物由来の乳酸菌より、耐酸性の高い植物由来の乳酸菌のほうが生きたまま腸に届くので、植物由来の乳酸菌を使った製品の開発を企業に奨めているという。

「乳酸菌の研究はまだまだ発展途上。これからもっと乳酸菌のつくる物質の研究を進めて、乳酸菌によって1500万人いるという、過敏性腸症候群の患者さんを治すのが、私の夢です」

10年後を目標に、自己免疫疾患の治療薬を市場に出すための研究を進めているという。

では、私たちは今どうすればいいのだろう。

「キャッチフレーズに踊らされず、自分に合ったものを摂取すればいいのです。けれど、多く摂ればいいというものではありません。多く摂りすぎると下痢などになることもあります。自分に合ったものを適量。それが大事です」 

杉山氏によると、動物由来の乳酸菌より、耐酸性の高い植物由来の乳酸菌のほうが生きたまま腸に届くという。写真は、野菜ジュースを乳酸発酵させた飲料「マイ・フローラ」(野村乳業)
杉山氏によると、動物由来の乳酸菌より、耐酸性の高い植物由来の乳酸菌のほうが生きたまま腸に届くという。写真は、野菜ジュースを乳酸発酵させた飲料「マイ・フローラ」(野村乳業)

杉山政則 広島大学大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座教授。広島大学名誉教授。 植物から探索分離した乳酸菌(植物乳酸菌)の保健機能性に関する基礎および実用化研究に力を注ぎ、「脂肪肝の改善や体内脂肪の蓄積抑制に有効な植物乳酸菌」を見出した。現在は 「生活習慣病」や「未病」の改善、並びに「自己免疫疾患」に有効なプロバイオティクスに関する研究に力を注いでいる。著書に『現代乳酸菌科学 未病・予防医学への挑戦』(共立出版)。

  • 取材・文中川いづみ写真アフロ

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