ショップが立ち並び…”大麻解禁”された「退廃のバンコク」ルポ
7月9日から、タイが、アジアで初めて、大麻合法化に踏み切った。タイ政府は、大麻産業の活性化のために、全土の世帯に大麻草100万本を無料で配布、他のアジア諸国を驚かせた。しかし、あくまでも医療用の使用に限られており、娯楽目的の吸引は依然禁止され、破ると3カ月以下の禁錮や800ドル(約11万円)の罰金が科せられる。
果たして、その実態はどうなっているのだろうか。気になった筆者は、解禁の興奮さめやらぬ7月中旬にタイはバンコクに実態を確かめるために飛んだ。そこには、東洋のアムステルダムとも呼ぶべき光景が広がっているのだろうか。
バンコクに着き、ホテルにチェックインを済ませると、なんらかのヒントを探してさっそく街をぶらぶらしてみた。僕が泊まったエリアはスクンヴィットエリアといって、比較的高級な住宅街が点在するエリアで治安もよい。ほどなくして、近くにあったセブンイレブンに入ってみると、さっそく発見した。ドリンクコーナーにカナビスウォーター(大麻水)が売っているではないか。確か、25バーツ(100円くらい)だったと思うが、ホテルに戻って飲んでみた。しばらく時が経つのを待っていたが、何も起こらない。それもそのはず、飲料に関しては、気分を高揚させるテトラヒドロカンナビノール(THC)という成分の含有量は0.2%未満とすることが条件と定められているのだ。その程度では何も起こらない。

また、ホテルを出て、街を散策した。すると、今度は、大麻の葉っぱの絵が書かれた黒板が道路に立てられているのを発見。恐る恐る、店に入ってみると、店長のおじさんが、
「ジョイントしかないんだけどいいかい?」
と言ってくるではないか。え、まさか、買えちゃうんですか。僕は、
「いや、ちょっと考え中なんです」
とだけ答えた。すると、
「色々銘柄があるから、見ていって」
と、メニュー表みたいなものを差し出された。そこには、大麻の銘柄名、ハッピー度、リラックス度、高揚度がそれぞれ★の数でパラメータ化されている。店内は工事中だったのだが、
「もうすぐ、後ろのスペースをカフェスペースにして店内でも吸えるようにするつもりだ」
と言った。ちなみにジョイント1本500バーツ(2000円くらい)である。
僕は、とりあえず、また来るといって店を出た。このシステムは、オランダのアムステルダムのコーヒーショップとほぼ同じだ。僕が行ったのは10年ほど前なので、変わっているかもしれないが。結構歩き回った結果、こういったお店が、駅ごとにひとつある程度だとわかった。でも、これははっきり言って、実質の大麻解禁なのではないだろうか。
その後、現地に住んでいる日本人の友人とご飯を食べた。僕が、大麻を買おうと思えば買えた顛末を話すと、友人は、
「もっと凄いところあるよ。そこはどこかというと、カオサン通りだよ」

カオサン通りといえば、かつて、バックパッカーの聖地といわれ、安宿がひしめき、旅行代理店が大繁盛し、旅人たちが他の旅人たちと情報交換をするために、とりあえず集まるハブのような存在だった。僕も何度か行ったことがあるし、安宿に泊まったこともある。その後、バックパッカーの聖地の役割を終えたカオサン通りは、白人たちの遊び場となっていた。クラブやバーがひしめく地帯となっていたのだ。では現在はどうなのだろう。僕は実態を確かめるためにカオサン通りに行くことにした。
夜の7時。夜の帳が下りて、おだやかだったカオサン通りが、また別の顔を見せ始める時間である。カオサン通りとその周辺は、再開発で、以前見た景色など跡形もなく消えていた。ランドマークだった突き当たりのバーガーキングも閉店していた。これには、ちょっとセンチメンタルな気持ちを抑えきれなかった。
そこに続々と集まってくるキッチンカー。カオサン通りに規則正しく並んでいく。「Weed」と書かれた看板を持った人物が目に入る。これ、すべて大麻ショップだったのだ。全部で8台はあっただろうか。配合からやってくれて、ジョイントにして売ってくれる。客はほぼ白人だった。
僕がなんでカオサン通りなのかと、店員に聞いた。
「ここが1番売れるからね」
と返ってきた。
その後、友人に見に行ったことを報告した。
「ああ、すごかっただろ?でも、郊外に土地を買って、大麻を栽培して売ろうとしている日本人もすでにいるから、なんらかの問題が表沙汰になるのも時間の問題だと思う」
なるほど……。飛んで飛ばしすぎている日本人もいるわけか。
かつてのバックパッカーの聖地は、時を経て、マリファナの聖地と化していた。バックパッカーだった僕としては、なんとも複雑な思いである。しかし、街は変化するから面白い。そう思って僕は自分を無理やり納得させた。まぎれもなく、バンコクは、東洋のアムステルダムだった。
※筆者はタイでの娯楽目的の大麻吸引を推奨しているわけではありません。あくまでも実態を伝えるための記事です。


取材・文・撮影:神田桂一(編集者・ライター)