<figure id="attachment_262840" aria-describedby="caption-attachment-262840" style="width: 969px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="81e1fedd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/nakan.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-262840" class="wp-caption-text">今年、デビュー30周年記念ライブを行った中西保志（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<p>ちょうど30年前のヒット曲をたどっていく連載です。今回は、主に若い方に向けて、30年前の夜の繁華街で突如発生した「UUMヒット」について、ご説明したいと思います。</p>
<p>ご存じですか、「UUM」？　ユー・ユー・エム？　ローマ字読みして「うーむ」と考え込む方が多いと思います。ごめんなさい。そのはずです。私が作った造語なのですから。</p>
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<p>「UUMヒット」、それは「歌が・うまいから・モテる（＝UUM）連中が、好んで歌ってヒットした曲」のこと。約30年前のカラオケボックスから発生した、それまでの日本ポップス界には、決してあり得なかったヒット曲の形態を指します。</p>
<p>そんな「UUM」の詳細は、後ほど説明するとして、まずは、今回取り上げる中西保志『最後の雨』のご紹介です。</p>
<p><iframe title="中西保志 / 最後の雨" width="500" height="375" src="https://www.youtube.com/embed/qFQSZ4bxOsE?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture" allowfullscreen></iframe></p>
<p>ぜひサブスクなどで、フルコーラス聴いてみてください。歌手名・曲名でピンとこなかった若い方でも、聴いたことのある方が一定数いるのではないでしょうか？</p>
<p>それにしても『最後の雨』、今聴いても、いや、今聴くからこそあらためて、中西保志という人の歌のうまさが光ります。さすが「UUMヒット」の名にふさわしい。</p>
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<p>1992年の8月10日発売で、オリコン最高位16位なのですが、驚くべきはチャートへの登場週数＝55週（つまりは1年以上）という数字。つまりはジワジワと売れ続けて16位にたどり着いたという、演歌のような売れ方をしたのです。ちなみに売上枚数は73.7万枚。</p>
<p>中西保志は奈良県出身で、同志社大学を卒業後、いったん百貨店に就職するも、間もなく辞めて学習塾の講師に。並行して、学生時代からスティービー・ワンダーの歌まねが得意で、テレビ番組に何度か出ているうちにスカウトされたという、奇妙な経歴の持ち主。</p>
<p>それでも、天才シンガー＝スティービー・ワンダーの物まねができるという時点で、もう「UUMヒット」への素地があります。</p>
<p>ジワジワと売れたので、本格的にヒットしたのは発売の翌年＝93年のことでした。同年6月1日の日刊スポーツは、「音楽関係者がそれぞれの思惑を超えて『失速の兆しが見えない』と尊敬と驚きのまなざしで見つめている中西保志の『最後の雨』が、前週の24位から16位に上昇した」と、熱く報じています。</p>
<p>さて、その記事の中で紹介されている、『最後の雨』が最高位16位に到達したオリコンチャートの中に、もう1つの「UUMヒット」を見つけるのです。</p>
<p>――7位：山根康広『Get Along Together』。</p>
<p><iframe title="山根康広★Get Along Together【 LIVE &quot;STARTING OVER&quot; 】" width="500" height="281" src="https://www.youtube.com/embed/n04Qz6cG7KM?feature=oembed" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture" allowfullscreen starting over></iframe></p>
<p>こちらは93年発売で、最高位5位、売上枚数は121.1万枚（リメイク版）と、『最後の雨』よりも売れました。『最後の雨』と『Get Along Together』、この2曲が、約30年前のカラオケボックス、さらには結婚式において、嫌味なほど歌のうまい「UUM野郎」の腕試し、いや、のど試しで歌われることで、ヒットしていったのです。</p>
<p>「聴きたい曲」よりも「歌いたい曲」がヒットする構造へ。これは今から思うと当時は、日本ポップス史上における一大構造転換期だったように思います。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="通信カラオケの時代に"></div>
<h2>通信カラオケが生んだ「UUMヒット」</h2>
<p>全国カラオケ事業者協会の公式サイトにある「カラオケ歴史年表」を見ると、『最後の雨』が発売された1992年の欄に、「通信カラオケ登場」という非常に重要な8文字が書かれています――。</p>
<p>レーザーディスクなどを使っていた、それ以前のカラオケボックスは、どこかオヤジ向けスナックの延長のようなイメージがありました。そのせいか、90～91年あたりの新聞記事には「カラオケボックスから青少年を守れ」的な論調が散見されます。</p>
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<p>しかし通信カラオケの普及によって、歌える曲数が一気に増え、また最新ヒットもすぐに歌えるようになり、その結果、オヤジ向けスナックの延長ではなく、若者の健全な娯楽として定着、若者の歌唱力のレベルが急高騰したのです。</p>
<p>そんな土壌の上に「UUM野郎」が現れました。合コンの2次会のカラオケボックスで、難曲を次々と歌いこなし、1次会での劣勢を一気に逆転、女性陣を（当時っぽく言えば）「お持ち帰り」する男たちの出現。</p>
<p>KIM（かっこ・いいから・モテる）やKMM（金を・持ってるから・モテる）ではなく、「歌が・うまいから・モテる」という新興勢力＝「UUM野郎」が好んで歌ったのが「UUMヒット」であり、その代表曲が『最後の雨』と『Get Along Together』だったのです。</p>
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<p>『最後の雨』は、とにかく音域が広い難曲。ほぼ2オクターブ使っています。で、最高音はサビの<em><span class="strongInContent">「♪本気で忘れるくらいなら　泣けるほど愛したりしない」</span></em>の「♪愛」（あい）の「♪い」。実音でA（ラ）という超高音。ここが「UUMポイント」。</p>
<p>しかし、当時の私の周辺における「UUMヒットチャート」（私が心の中で作成）において、『最後の雨』『Get Along Together』の2曲はそれぞれ、2位、3位で、不動の1位は別の曲でした。</p>
<p>それは――久保田利伸『Missing』（86年）。</p>
<p>「UUMポイント」はもちろん、大サビの<em><span class="strongInContent">「♪黄昏に精一杯の息を吸って目を閉じるだけ Oh～ I love you」</span></em>の「♪Oh～」。今でも思い出すと、ここの「♪Oh～」の後に、女性陣の「キャー」という歓声が聞こえてきます。</p>
<p>最後に私事になりますが、高校、大学とオーケストラ部で金管楽器を吹いていたにもかかわらず、歌は音程（ピッチ）も曖昧、ビブラートもかからない私は、深夜のカラオケボックスで、何度も「UUM野郎」にやられて、一人寂しく討ち死にしたものです。</p>
<p>「UUM野郎」のせいで、女性陣とGet Along Togetherできずに、Missingしてしまい、瞳から最後の雨が降り続けた、約30年前のカラオケボックスの廊下を、今でも思い出すのです。うーむ。</p>
<figure id="attachment_257946" aria-describedby="caption-attachment-257946" style="width: 1063px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="d3b330e7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/08/ca08dbb73bab67335c4fc42d41a77a7c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-257946" class="wp-caption-text">発売即重版となった、筆者の新著（<a href="https://www.amazon.co.jp/%E6%A1%91%E7%94%B0%E4%BD%B3%E7%A5%90%E8%AB%96-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BC%E9%88%B4%E6%9C%A8/dp/4106109549/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&amp;crid=16RLJOKJ3L59&amp;keywords=%E6%A1%91%E7%94%B0%E4%BD%B3%E7%A5%90%E8%AB%96&amp;qid=1659239044&amp;sprefix=%E6%A1%91%E7%94%B0%E4%BD%B3%E7%A5%90%E8%AB%96%2Caps%2C223&amp;sr=8-1" target="_blank" rel="noopener noreferrer">購入はこちらをクリック！</a>）</figcaption></figure>


音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』（彩流社）、『チェッカーズの音楽とその時代』（ブックマン社）、『イントロの法則80's』（文藝春秋）、『サザンオールスターズ1978-1985』（新潮新書）、『恋するラジオ』（ブックマン社）など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』（集英社新書）、6月17日『桑田佳祐論』（新潮新書）が発売される。

スージー鈴木

共同フォト

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