<figure id="attachment_263137" aria-describedby="caption-attachment-263137" style="width: 3209px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7f6d0292"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/7dd4c3f74f006b34bb1d70d7adebd54e-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263137" class="wp-caption-text">対談にのぞんだ小松氏（右）と小林氏</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">〈中田英寿、イチロー、YOSHIKI、浜崎あゆみをはじめとした各界を代表する超大物を描いてきた作家・小松成美氏。「2022年 Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」に ノミネートされた<a href="https://www.amazon.co.jp/%E3%81%95%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%89%E3%80%81%E9%87%8E%E5%8F%A3%E5%81%A5%EF%BC%88%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%EF%BC%89-%E5%B0%8F%E6%9E%97%E5%85%83%E5%96%9C-ebook/dp/B0B1M8QLQ1/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&amp;crid=1CFTF2F592HCK&amp;keywords=%E3%80%8E%E3%81%95%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%89%E3%80%81%E9%87%8E%E5%8F%A3%E5%81%A5%E3%80%8F&amp;qid=1662377586&amp;s=books&amp;sprefix=%E3%81%95%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%89+%E9%87%8E%E5%8F%A3%E5%81%A5+%2Cstripbooks%2C200&amp;sr=1-1">『さよなら、野口健』</a>の著者・小林元喜氏。二人の作家はいかに”超人たち”と向き合ってきたのか。その前編をお送りします〉</span></p>
<h3>野口健との18年間</h3>
<p><span class="strongInContent">小林　</span>はじめまして。東京新聞に書いてくださった書評を拝見し、いたく感動しまして、是非お目にかかりたいと思っていました。それにしても、書評の冒頭で出てくる作品が石原慎太郎の『太陽の季節』、Ｗ・バロウズの『裸のランチ』、西村賢太の『苦役列車』ときたものですからビックリしました。</p>
<p><span class="strongInContent">小松　</span>小説でもノンフィクションでも、心が揺さぶられ感情が噴き上がるだけでなく、体に痛みが残る作品というものがあります。その観点では、いま私の中では『さよなら、野口健』は先の３作品に並ぶものです。</p>
<p>私自身、多くの方の人生をノンフィクションに書き上げましたが、取材をし、原稿を書くということは、その方の幸福や歓喜だけでなく、その対極にある挫折や絶望についても描くわけです。主題となっていただく方には、人生を曝け出すことの覚悟や痛みを強いることになります。</p>
<p>小林さんの『さよなら、野口健』を読んで一番に驚いたのは、人生の影の部分を描くことの潔さです。野口健さんだけでなく、著者である小林さんご自身のことも、一切の躊躇なく、その愚かしさや恥部までも完全にさらけ出して描き切っている。そこに強烈に引き込まれました。</p>
<p><span class="strongInContent">小林　</span>野口さんとは出会って18年間になりますが、その間、事務所へ３度の入退社を繰り返し、10年間マネージャーを務めました。執筆にあたって野口さんからは『好きに書いていいよ』と言われていましたが、この本は二人の関係性がテーマでもあるため、描きつくすなら自分のこともさらけ出さないと成り立たないし、書かれる側の野口さんに対しても礼を失すると感じました。</p>
<p>私は学生時代から作家志望でしたが何度書いてもかたちになりませんでした。それでも諦めきれない気持ちや、うつ病を患い精神科へ入院したこと、経済的に困窮し家庭崩壊の危機に瀕したこと。これらのエピソードを書いている時は追体験するような感覚で怖くもあり、確かに「痛み」がありましたね。</p>
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<p><span class="strongInContent">小松　</span>人間の愚かさや恥部も書き尽くせば文学になるわけで、そういったエピソードのひとつひとつを目にしながら、きっと小林さんは傷つき、流れる血を見ながら書いたんだな、と思っていました。だから書評に記したように読み進める中で「身体的な痛み」を共有したのだと思います。心身に負った傷の「痛み」を感じた人にしか書けない作品だと思いました。よく最後までやりきったな、と。そこに感動しました。</p>
<h3>「帰れ、虫けら」を書いたワケ</h3>
<p><span class="strongInContent">小林　</span>ありがとうございます。この「痛み」というものは、小松さんの作品群にも通底していると感じておりまして。デビュー作であるビートルズを最初に撮った女性の写真家であるアストリット・Kの評伝をはじめ、中田英寿やイチロー、YOSHIKIを描いたノンフィクション、最新作である浜崎あゆみを一人称で描く小説等、読んでいてスーパースターの等身大の姿だけでなく、彼らが抱える「痛み」が迫ってきて実に身につまされました。</p>
<p>たとえば<a href="https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%AD%E7%94%B0%E8%8B%B1%E5%AF%BF-%E9%BC%93%E5%8B%95-%E5%B9%BB%E5%86%AC%E8%88%8E%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%B0%8F%E6%9D%BE-%E6%88%90%E7%BE%8E/dp/4344400070">『中田英寿　鼓動』</a>では、メディアとの確執の中である時に中田さんが「帰れ、虫けら」と口にしてしまうシーンがあります。これは書かれる中田さんだけでなく、書く側である小松さんもある種の覚悟というか「痛み」を引き受けることになるのではと感じましたが、いかがでしょうか？</p>
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<p><span class="strongInContent">小松　</span>あの場面にいて、一部始終を実際に目にした私は、「本当に書いてよいのか」と何度も自問自答しました。21歳の青年が激高したその一瞬を切り取って、今後ずっと残る「本」というものに残して良いものなのかと。</p>
<p>当時イタリアへ移籍したばかりの中田さんには、選手としても人間としても、その後の人生もあるわけで、たった一言の怒声を書くことによって、彼を生涯にわたって傷つけることにならないだろうか、と悩みました。</p>
<p>でも、ある時ふと「これを書けないのなら、私は作家として中田英寿に向き合うことはやめることになるのではないか」と思ったんですね。今、そこにある事実、胸を射抜くような場面を書くことが許される作家であるか、否か。そう考えて、私は前者を選びました。あのシーンを書くか書かないかは大きな分岐点であり、いま振り返っても自分自身にとっての試金石だったと感じています。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="ヒデから入った「１点だけの直し」とは"></div>
<h3>ヒデから入った「１点だけの直し」</h3>
<p><span class="strongInContent">小林　</span>中田さんはその原稿を出版前にご覧になられたんですか？</p>
<p><span class="strongInContent">小松　</span>はい。でも、中田さんから入った直しは一点だけ。ある選手名の漢字の誤字だけでした（笑）。ほかは一切カットせずに、そのまま読んで、受け入れてくれました。感想は？と聞くと、「心の声がそのまま描かれていて、俺が２人いるのかと思ったよ」と言っていました。サッカー選手としての素晴らしさはもちろんですが、彼の“書かれることの覚悟”には心から尊敬を持ちました。これからも私は、覚悟のある人を、覚悟を持って書いていこうと思いましたね。</p>
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<p><span class="strongInContent">小林　</span>ちなみに中田さんは何故に小松さんに書いてほしいとオファーされたんでしょうか？　おそらくあれほどの大スターであれば、書きたい方は今でもそうでしょうけど、当時もたくさんいましたよね？</p>
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<p><span class="strongInContent">小松　</span>それは懐かしいエピソードがありまして。私はサッカーが大好きで小学校の頃から日本リーグに通っていたファンでした。多くのスター選手のプレーに憧れてきたわけですが、中田さんが17歳の時のワールドユースでの試合を見て「この人は日本のサッカーを変える」って直感したんです。</p>
<p>あの頃から中田選手は、際立った個性を持った選手でした。日本人らしかなぬサッカーをしていた。ところが、中田さんの取材企画を出版社に持ち込んでも通らない。「あんな生意気でわがままな選手、間もなくいなくなる」と皆さん口々に言うわけです。「チームを尊ばない、個人プレーをしている選手に未来はない」と。</p>
<p>それは彼が日本代表に選ばれてからも同じでした。「中田さんのノンフィクションを本にしたい」と言っても、軒並み断られてしまうんです。ベルマーレ平塚の選手だった中田さんとはよく平塚のデニーズで食事をしました。サッカーの戦術について教えてもらったのですが、その度にこうも告げていました。「ヒデの本を必ず書くよ」と。中田さんも「俺も、本に書かれるプレイヤーになれるように頑張る」と言ってくれました。作家にとって、テーマとなる人との信頼がどれほど大切なのかを心に刻んだ出来事です。</p>
<p>（後編に続く）</p>


1978年、山梨県生まれ。登山家・野口健の計10年にわたるマネージャー業を経て描いた『さよなら、野口健』（集英社インターナショナル）が「開高健ノンフィクション賞」の最終候補にノミネート

小林元喜

1962年、神奈川県生まれ。広告代理店勤務などを経て89年より執筆業に。『中田英寿 鼓動』（幻冬舎） 、『YOSHIKI/佳樹』（角川書店）、『Ｍ 愛すべき人がいて』（幻冬舎）など著書多数

小松成美

対談にのぞんだ小松氏（右）と小林氏 〈中田英寿、イチロー、YOSHIKI、浜崎あゆみをはじめとした各界を代表する超大物を描いてきた作家・小松成美氏。「2022年 Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフ

野口健、ヒデ、イチロー…作家は”超人たち”といかに向き合うのか

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