投票率1位の文京区「当選区議1位~5位が大学院卒」で見えたもの | FRIDAYデジタル

投票率1位の文京区「当選区議1位~5位が大学院卒」で見えたもの

ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』

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都心にそびえ立つ文京区役所。後ろには東京ドームシティがある
都心にそびえ立つ文京区役所。後ろには東京ドームシティがある

《ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』》

東京23区のほぼ中心にあり、東京大学やお茶の水大学などの国立大学が点在している文京区。『学問の府』という区の特徴から名づけられた極めて独自性の高い自治体は、全国的に“投票率全国第1位”としても、その名をとどろかせている。

今年7月に実施された参議院選挙で、文京区は投票率65.3%で断トツの全国第1位だった。全国平均は52.05%であったが、都道府県単位で3位の東京都は56.55%で文京区がけん引役となっている。

都道府県単位での第1位は山形県の61.87%で、2位に長野県57.70%で続いている。いずれも教育県として知られているところだ。

そんな文京区の区議会にも特色が出ている。なんと当選1位から5位までの区議が大学院修了なのだ。

まずはじめに当選順位と出身大学を見てみると

1位:田中 利周  (東京大学大学院 人文科学研究科修士課程修了)
2位:高山 泰三  (早稲田大学大学院 公共経営研究科修了)
3位:海老沢 敬子 (早稲田大学大学院 政治学研究科修了)
4位:沢田 圭司  (東京大学大学院 農学科修士課程修了)
5位:上田 由紀子 (お茶の水大学大学院 人間文化研究科修士課程修了)

と、国立の大学院出身者が3人もいる。それ以外の2人も“私学の雄”と言われる早稲田大学だ。

そこで、‘19年の統一地方選挙でトップ当選を果たし、現在は文京区議会の議長に就任している、田中利周(としかね)議長に当選1位から5位までが修士課程修了者が占めている事実をどのように受け止めているか尋ねてみた。

「文京区議会は34議席ですが、投票行動が露骨に出ていると思います。文京区の有権者は議員の専門性を見ている表れです。

浮動票の人達も、風や政党で選んでいるのではなくプロフィールと政策で選んでいる表れです。だから緊張感もありますね」

自分の言葉で説明もできない、素人のような国会議員が増えている昨今、プロフィールと政策で評価されている地方自治体が存在するのである。

更に、文京区での投票率が全国第1位であることについて聞いてみると、

「率直に言うと文京区らしいなぁと思いますね。誰に投票しても一緒という意識は文京区民には無いと思います。例えば、他の選挙区では、関心の高い国政選挙と地方選では投票率に明らかに差が出るんですが、文京区はそんなには差がないんです」

そのことについて、田中議長はこのように分析する。

「一番忙しい30代や40代の子育て世帯の関心度の高さがあると思います。文京区は中学受験率が圧倒的に高い。

そのお受験で選挙のことが出題されます。例えば“選挙制度”や“選挙公報と選挙広報の違い”などです。文京区のファミリー世帯は、子供連れで教育を兼ねて、選挙に行くんです」

まさに文京区の家庭では、小学生のうちから『主権者教育』がなされているようだ。『主権者教育』を提示した総務省では

「国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者像」

を掲げている。

更に、文部科学省の『主権者教育の推進に関する検討チーム』の最終まとめでは主権者教育は

「単に政治の仕組みについて必要な知識を習得させるにとどまらず、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を身に付けさせること」

としている。

都心に位置する文京区は、当然ながら有権者の流出入も多くある。それなのになぜ一定の投票率を保つことができるのか。それについて田中議長はこう分析する。

「文京区では、ファミリー世帯の流入に変化が生じています。これまでは有名幼稚園や国公立の小学校が多い文京区で小学校まで過ごし、中学受験を経て郊外の一軒家に引っ越す一定のパターンがありました。しかし、最近はファミリータイプのマンションが増え、販売すると即完売となります。ファミリー世帯の定住が増えている表れです」

また、行政のトップである成沢廣修区長にも何故に投票率の高さを誇っているのか聞いてみた。

「理由は単一では語れないと思う。国政選挙では常に高い投票率となっており、高い政治意識を有する区民が多いということと考えている」

筆者は、東京第2区(港区・中央区・台東区・文京区)を選挙地盤とする衆議院議員の秘書時代に、ニーズ調査で戸別訪問した際、代議士に対し

「原発にはどういう意見を持っているのか?」
「憲法第9条は?」

など、矢継ぎ早に聞かれた経験がある。他の区ではあまり経験はない。確かに区民の政治意識の高さは肌身で感じている。

更に、成沢区長は

「投票率同様、納税率もトップクラスで、税の使い道をしっかり見届けようという区民が多いのではないか。マンション購入時等に自治体を選んでいる若い層が多くなっているのもその一つだ」

と話してくれた。

文京区では8月19日に独自の支援策として、物価高騰により家計負担が大きい全ての子育て世帯に対し、児童一人当たり3万円の支援金を臨時給付することを発表している。このような給付は国や他の自治体では、収入によって線引きをするが、文京区では世帯年収などで差別化を図らずに一律の支給に踏み切っている。区民ニーズを汲み取った、ある種、行政と議会の英断である。

高投票率を下支えしている子育て世代の意識を文京区は、しっかりと受け止めているようだ。

最後に田中議長はこう語る。

「文京区を見てください。新人もベテランも関係なくしっかりと意見を言えている。それは、区民が見ているんだという意識です」

その言葉が心に残る。

有権者の意識が変われば政治家の意識も変わり政治家の質の向上につながり、行政の政策にも影響を与えることができると言われているが、まさにこの好循環が文京区では見られている。

’19年での選挙では1位~5位までが大学院修了という結果とはなっているが、文京区民は大学のキャリアだけではなくしっかりと政策を見ているのは間違いないようだ。

  • 取材・文阿部光利(地方政治ジャーナリスト、元TVリポーター)

    ‘56年生まれ。『タイム3』『おはよう! ナイスデイ』『とくダネ!』(フジテレビ系)などの8番組でリポーターとして活躍。広告代理店経営の後、‘11年から‘19年まで東京都台東区議会議員に。その後、衆議院議員の公設第一秘書に就任。現在は行政の諸問題や社会問題などを独特の視点で取材、執筆活動を続けている

  • 写真西村尚己/アフロ

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