いま、世の中は「レトロブーム」。銭湯や『写ルンです』が流行(はや)る時代だ。この波はゲーム界も同様である。
先日には、サン電子株式会社のゲームブランド「サンソフト」が復活を発表した。名作ゲーム『いっき』の新作をオンラインゲームで発売するというのだ。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<figure id="attachment_263228" aria-describedby="caption-attachment-263228" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c0123d78"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/IMG_6601.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263228" class="wp-caption-text">原画を手にする元サンソフトゲーム開発者の４人。左から竹内昭人・酒井敦史・杉浦和幸・清水薫樹各氏</figcaption></figure>
『いっき』とは、1985年に発売されたファミコンのアクションゲームだ。ロボットや戦闘機が主流だった当時、農民を主人公にした異色さ、たった二人で一揆をするというトンデモな世界観が話題となった。愛すべきゲーム＝クソゲーと呼ばれたのも『いっき』が最初だ。
愛知県江南市のサン電子を訪問すると待っていたのは、当時のパッケージや宣伝物に使われたイラストの原画だった。このお宝と共に、’80年代のファミコンブームのさまざまなエピソードを当時の開発者たちに聞いた。
まずは『いっき』について。なぜ、農民がメインのゲームを作ったのか？
竹内昭人（プログラマー）「最初は兵士が銃などをバンバン撃ち合う（現代的な）戦争ゲームを作っていました。でも、評判がイマイチで。『じゃあ舞台を戦場から百姓一揆に変えちゃおう』って、チームのリーダーがひらめいて……。ずいぶんブッ飛んだ発想ですよね（笑）。背景とか全部作り直しですよ」
『いっき』は二人プレイできるゲームだったが、それも当初は違っていた。
竹内「最初はプレイヤー一人で二人のキャラクターを動かす斬新なスタイルだったんです。ボタンを押してキャラを切り替えるんですが、敵を倒しながらその操作は無理ですよね。一人のキャラが進んでいくと、もう一人は置いてきぼりになって画面からいなくなっちゃう（笑）。操作が難しすぎるのであきらめました」
『いっき』はまず、ゲームセンターなどに置かれる大型のアーケードゲーム版が発売されたが、ここでも問題が起きた。
竹内「当時のタイトルはそのままズバリ『百姓一揆』。でもゲームセンターでロケテストをした際『この名前で大丈夫か？』と言われて…万一回収騒ぎになったりでもしたら大変ですから、タイトルを変えました」
『いっき』のアーケード版は大ヒットを記録し、ファミコンに移されてこちらも大ヒット。「サンソフト」のブランドを確かなものにした。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<figure id="attachment_263229" aria-describedby="caption-attachment-263229" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7214ed95"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/90e4519baa1c7fb2e2db75e6277b5bb7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263229" class="wp-caption-text">右：1985年発売のファミコン版『いっき』。ステージは４面。「竹槍」「おにぎり」などのアイテムも当時は斬新だった 左：映画『インディ・ジョーンズ』に触発されたという『アトランチスの謎』。こちらの復活も期待したい</figcaption></figure>
<h2>「バグ」は禁句</h2>
続いてサンソフトが世に送り出したのが冒険アクション『アトランチスの謎』。ステージが100面もあるという壮大さで、こちらも大ヒットを記録した。当時のキャッチコピーはなんと〈スーパーマリオを超えた！〉だった。
竹内「メインプログラマーが僕でした。『パックランド』という横スクロールのゲームが面白くて、自分も作ってみたいなと思っていました。すると『スーパーマリオ』が出て、影響を受けた作品になってしまいました（笑）。あのキャッチコピーですか？ んー、お客さんが言うならわかるけど、自分たちで言うのは……（笑）」
『アトランチスの謎』はゲームの中身も謎だらけで有名だ。いくつか巷間(こうかん)でささやかれている謎について訊(き)いてみよう。
その①「主人公が弱い」。プロフィールには〈すごい訓練を積んだ強い男〉とあるのにコウモリの糞(ふん)に当たっただけで死んでしまうのはなぜか？
竹内「うーん……これは作っているとき全然考えなかったんですよ（笑）。ファンの方が『糞の中にはじつは石や毒が入ってる』などとフォローしてくれましたけど。また、モアイ像が背景に出てきますが、『なんでモアイ像がアトランチスにあるんだ』とかいろいろ言われました」
その②「たどり着けない面」がある。このゲームは普通に進んでいっても到達できない面があるのだが、それはなぜか？
竹内「これもあとから気づいたんです。ゲーム攻略本を作っている出版社の方から『行けない面が３つくらいあるんですが』と連絡が来て、確認すると本当に行けなかった（笑）。発売後も問い合わせの電話がかかってきましたが、回収騒ぎになると大変ですので、全部『仕様です』と答えました。『バグ』という言葉は禁句でした」
実際、’80年代のファミコンブームを牽引(けんいん)した高橋名人はかつてこんなことを語っている。「ファミコンにバグはない。それは裏技だ」と……。
その③「エンディングがない」。100面をクリアすると画面に「Congratulation」の文字が出るだけで、何か謎が解決されることもないのだ。巷(ちまた)では「真のエンディングがある」などと都市伝説のようにささやかれているが。
竹内「最後も中途半端になってしまいましたね。本当は、100面をクリアしたらバルーンに乗って戻る、という設定だった。でも、時間も容量もなくなってしまったんです……」
<div data-friday-nextpage-lead="名作の制作期間はたった3カ月!?"></div>
<h2>落書きがゲームに</h2>
容量はファミコン開発者にとって最大の問題だった。例えば『スーパーマリオ』の容量はたったの40キロバイトしかない。『アトランチスの謎』はスマホに保存する写真１枚よりもはるかに軽い容量の中に100ものステージを作らなければならなかったのだ。
酒井敦史（プログラマー）「僕は『アトランチス』の主に敵キャラを作ってたんですが、開発は容量との戦いでした。オープニングのタイトル画面だけでかなり容量を使うし、音楽でもかなり使う。容量を喰わずに100面を作るには、同じ絵をいかに使いまわすか、がカギ。色は変えても大丈夫なので、同じ外見の敵を違う色にしたり、背景の色を変えたり知恵を振り絞る。床を青くすると滑っているように見えるし、黒くすると真っ暗な面ができ上がるわけです」
また、今でこそゲームは開発に何年もかけるイメージがあるが、『アトランチス』の制作期間はたったの３ヵ月だった。
酒井「たぶんサンソフトの中でも最短記録でしょうね。全然家に帰らなかった」
竹内「残業時間は月に200時間くらいは当たり前でしたね。土日も全部会社に来ていましたし、帰るのも深夜11時過ぎ。僕は家に帰りましたが、会社の仮眠室で暮らしている人もいました」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
さらに驚くべきことがある。今、ゲーム開発は多くのプログラマーが集まって作り上げるものだが、『アトランチス』を作ったプログラマーは、竹内・酒井両氏の二人だけだったのだ。当時のサンソフトはとにかく人がいなかった。
酒井「プログラマーもいなかったけど、営業マンも全部で二人しかいなかった（笑）。担当が、東と西（笑）。彼らはゲームが得意なわけではないので、問屋さんの前でのデモプレイは、われわれプログラマーがやった。『明日四国行ってこい』とか言われてね（笑）」
竹内「デザイナーもいなかった（笑）。アルバイトを募集して、上手な人は社員にした」
杉浦和幸（デザイナー）「僕はアルバイトでサンソフトに入って、楽しいのでそのまま社員になりました（笑）。あるとき開発室で暇があって、落書きをしていたんです。ロゴをデザインするのが好きだったので、適当に描いていたら、『それいいじゃん』って言われて。気が付けばゲームになってた（笑）」
杉浦氏の落書きから生まれたのがアクションＲＰＧ『マドゥーラの翼』だった。昨今のレトロブームでは高値で取り引きされる人気ゲームだ。
杉浦「マドゥーラの意味ですか？ 意味はないですよ（笑）。字のバランスがいいなあって落書きしてただけですから」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<figure id="attachment_263230" aria-describedby="caption-attachment-263230" style="width: 1754px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ee18ebcb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/ef8519ee259ad477c16dcbe681aaeb59.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263230" class="wp-caption-text">上：『アトランチスの謎』のパッケージ原画。保存状態は抜群で、鮮やかな色合いが残ったままだ 下：ファミコンソフト『リップルアイランド』のパッケージ原画。「どことなく宮崎駿風ですよね」（酒井氏）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_263232" aria-describedby="caption-attachment-263232" style="width: 1924px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d2c8fa0e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/IMG_6536.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263232" class="wp-caption-text">サンソフトの主要キャラが勢ぞろい。「おそらく会報誌『サンクラブ』の表紙向けのイラストだと思います」（清水氏）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_263233" aria-describedby="caption-attachment-263233" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="70391283"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/IMG_6448.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263233" class="wp-caption-text">とある部屋に大量に保管されていたゲーム原画。どれもとてもきれいな状態。ファン垂涎(すいぜん)のお宝だ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_263235" aria-describedby="caption-attachment-263235" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5a8aa763"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/2022-08-26-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263235" class="wp-caption-text">当時の杉浦氏。デザイナーとしてサン電子に入社した</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="衝撃的なボーナスの額"></div>
<h2>ゲームを出せば黒字</h2>
そもそもなぜサン電子はファミコンに進出したのだろうか？
清水薫樹（元プログラマー）「もともと当社は通信機器を作っていたので、電子まわりの技術力がありました。そのおかげで任天堂さんとも早い段階で契約することができたんです。アーケードゲームも作っていたので、家庭用ゲーム機もかなり売れると予想できました」
実際、儲(もう)かったのだろうか？
清水「『アトランチス』なんかプログラマー二人が３ヵ月で作って数十万本売れたわけですから（笑）。ファミコンは出せば黒字でした。当時、３月の決算期には『決算ボーナス』が出て、みんな車を買い替えるみたいな感じでしたね」
酒井「勤続年数×100万円なんてときもありましたよ。同世代の会社員よりはいい思いをしたかも。でも、社長が『若者に大金を渡すと使い込んでしまうかも』と心配して、半強制的に定期預金の積み立てをさせられた（笑）」
竹内「毎日ゲーム開発に必死でブームとか感じる余裕はあまりなかったな」
酒井「僕がブームを感じたのは、荷出しのとき。工場で作られたゲームは一度全部会社に運ばれて、そこからトラックで問屋さんに送られるんですが、その段ボールの量のすごいこと。出入りするトラックが全然途切れない。人がいないから僕もトラックにゲームを積みながら（笑）、すごいと感じていました」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
いま、当時のファミコンソフトのブームをどうとらえているのか？
清水「当時のゲームって、数人の開発者が時間や容量の制約の中で、情熱を持って作ったもの。単なる工業製品とはちょっと違う、個人の強い思いが反映されたコンテンツだと思うんです。その個性に今、再び光が当たっているのかもしれませんね」
復活を発表後、サンソフトには多くの歓迎の声が寄せられた。「正直、ここまで反響があるとは思わなかった。世界中のファンから愛されていることを実感した」（サンソフト広報）という。
昭和の情熱が、令和によみがえる。ぜひ一度、当時のゲームに触れてみてはいかがだろうか。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<h2>懐かしくも新しい新作『いっき団結』</h2>
<a href="#" data-ident_hash="910da905"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/2a75413f29a292189ee681c2a83b7ee5.jpg" alt=""></a>
ＳＮＳでも大反響だった新作『いっき団結』は最大16人でプレイ可能なオンラインゲームだ。ファミコン版の良さを生かしつつ、レベルアップしているのが画面からもよくわかる。操作方法やルールも簡単で、オンラインゲーム初心者でも楽しめる内容になっているという。年内に発売予定で、将来的には家庭用ゲーム機版の販売も目指す。「社内にあったファミコンで当社のソフトをプレイしてみると、今でも面白いと思える内容でした。今後も積極的にレトロタイトルに取り組む必要があると考えています」（サンソフト広報）
<figure id="attachment_263281" aria-describedby="caption-attachment-263281" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f28da88e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/2022-08-26.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263281" class="wp-caption-text">ファミコン開発が行われたサン電子江南事業所。同社は情報通信関連事業などで400億円近い売上高を誇る大企業</figcaption></figure>
<figure id="attachment_263287" aria-describedby="caption-attachment-263287" style="width: 6123px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="443a61ed"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/IMG_6562.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263287" class="wp-caption-text">『リップルアイランド』の販促用原画。（本誌未掲載カット）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_263288" aria-describedby="caption-attachment-263288" style="width: 6164px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="844bc3d7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/IMG_6554.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-263288" class="wp-caption-text">電話回線を使った当時としては斬新な『TELTELまあじゃん』のロゴ原画（本誌未掲載カット）</figcaption></figure>
『FRIDAY』2022年9月16日号より

横浜大輔

いま、世の中は「レトロブーム」。銭湯や『写ルンです』が流行(はや)る時代だ。この波はゲーム界も同様である。 先日には、サン電子株式会社のゲームブランド「サンソフト」が復活を発表した。名作ゲーム『いっき

伝説のゲーム会社「サン電子」ファミコン開発者「爆笑座談会」…！

あなたへのオススメ

関連記事