ついに1店に…渋谷からデパートが消えても問題ない「納得の理由」 | FRIDAYデジタル

ついに1店に…渋谷からデパートが消えても問題ない「納得の理由」

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

渋谷駅にあった東急百貨店の東横店に続いて、東急本店が2023年1月31日をもって閉店します。その後、渋谷に残るデパートは営業赤字続きでセブン&アイからの売却が検討されているジリ貧のそごう・西武傘下の西武百貨店渋谷店のみになります。 

東急本店跡地は、2027年にルイ・ヴィトンなどの高級ブランドを傘下に持つLVMH関連会社と手を組み高級複合施設に生まれ変わる予定ですが、その計画もあり隣接するBunkamuraも2023年から長期営業休止に入ります。流行の発信地だった渋谷はどうなるのか? 10年後の渋谷はどうなるか、そして東急の作戦は正解なのかを考えてみます。

未来予測専門の経営戦略コンサルタントである私の結論を先に述べさせていただくと、渋谷から百貨店がなくなるというのはありうる未来かもしれません。一方で10年後の渋谷は逆に楽しみな街になるかもしれません。結論は「最終的には心配いらない」という話になるのですが、なぜそうなのか渋谷をとりまく過去と未来の情報を整理してみたいと思います。

渋谷から百貨店がなくなっても渋谷がますます発展するかもしれないという謎を解明するためには3つのステップで考察するのがいいと思います。それは、

  • 1_電鉄のビジネスモデルの秘密
  • 2_ターミナル駅文化論
  • 3_渋谷の未来構想

というステップです。順を追って話をしていきたいと思います。

流行の発信地だった渋谷はどうなるのか? 10年後の渋谷はどうなるか、そして東急の作戦は正解なのか…(写真:アフロ)
流行の発信地だった渋谷はどうなるのか? 10年後の渋谷はどうなるか、そして東急の作戦は正解なのか…(写真:アフロ)

【原点】電鉄グループのビジネスの基本メカニズム

渋谷というのは大手私鉄である東急グループによって発展した街です。実は渋谷に限らず東京や大阪のターミナル駅は明治時代の起業家たちが立ち上げた電鉄グループによって開発された歴史があって、そこにはビジネスモデルとしての秘密が隠されています。

渋谷を開発した東急グループを率いた伝説の経営者が五島慶太です。同じ時代、関西では阪急グループの小林一三が電鉄ビジネスで日本を発展させていました。

彼らが生み出した電鉄特有のビジネスモデルがあります。私鉄というのは公益事業のため運賃は国の認可が必要で単体では大きな利益を上げることはできません。そこで不動産ビジネスと小売流通ビジネスを複合させることで莫大な利益を上げるという沿線開発型のビジネスモデルがうまれました。

コンセプト的にはまず鉄道を敷く際に沿線の大量の土地を買い上げて住宅開発ができるようにします。そしてターミナル駅には百貨店、沿線の駅前には(これは戦後生まれた業態ですが)系列のスーパーを運営します。鉄道と小売業で沿線が便利になると人が集積され、それで住宅の価格も上がる。これが電鉄グループのビジネスの基本メカニズムです。そして全体価値に特に重要なのがターミナル駅の不動産価値です

渋谷駅にあった東急百貨店の東横店に続いて、東急本店が2023年1月31日をもって閉店する
渋谷駅にあった東急百貨店の東横店に続いて、東急本店が2023年1月31日をもって閉店する

【過去】渋谷の不動産価値を高めたのは西武セゾングループ

東京の場合、東急のターミナル駅である渋谷、小田急、京王のターミナル駅である新宿、西武、東武の池袋、京成の上野、京急の品川などが主なターミナルなのですが、その中で一番の成功を収めたのが渋谷でした。

その旗色が明確になったのが1970年代から発展した渋谷カルチャーで、ここがこの話の一番面白いところでもあるのですが、渋谷の不動産価値を劇的に高めたのは池袋を本拠地とする西武セゾングループだったのです。 

渋谷が若者文化の中心と呼ばれた背景にはもちろん東急百貨店や東急グループが運営する渋谷109や東急ハンズといった商業施設もあるのですが、渋谷文化の発信地としてそれに匹敵するパワーを持ったのが渋谷の公園通りのPARCOと西武百貨店の出現でした。

そしてそれを率いていたのが西武セゾングループ総帥の堤清二だったのですが、ここには西武グループの複雑な人間関係が関係してきます。堤康次郎の跡取りとして西武鉄道グループの後継者になったのが三男の堤義明で、その兄である清二は流通グループを率いることになったのですが、このふたりがライバル心が強い経営者としてよく対立したのです。

これは当時よく言われたことですが、文筆家でもある清二氏は文化的な個性が強く、康次郎的な厳しさを持つ義明氏とは相いれない部分があったのでしょう。これも想像ですが最初は池袋の西武百貨店やPARCOで文化を根付かせようとしたのですが、途中で若者文化を育てるのは渋谷の方が早いと気づいたのではないでしょうか。

渋谷という価値のある街でまず西武セゾングループは1980年代若者文化の中心となり、そのブランド力をもとに池袋の地場百貨店だった西武百貨店が日本一の百貨店ブランドに成長するのです。

この「街に文化が根付き、結果として若者が集まり新たな集積地になる」という現象はもともとアメリカのニューヨークで見られた現象です。ソーホー地区は1960年頃はニューヨークの寂れた倉庫街だったのですが、そこにアーティストが集まり倉庫で活動をはじめ、1980年代にはニューヨーク屈指のおしゃれな街へと変貌します。同じニューヨークのハーレムも、もともとは危険なスラム街だったところが今ではブラックミュージックの聖地のように発展をしています。

これと同じ現象が渋谷の街でも起きたのですが、面白いところは日本の場合、ターミナル駅に文化が根付くことで沿線に若者が集まり、小劇場やイベントスペースができ、公園ではスリーオンスリーやスケボーのようなストリートスポーツも盛んになり、さらに若者文化が拡大していきます。そうして文化の発信地となることでターミナル駅の不動産価値はさらに上がるという好循環が生まれたわけです。これが東京のターミナル駅の中で渋谷がもっとも成功したメカニズムともいえるものです。 

渋谷の不動産価値を劇的に高めたのは池袋を本拠地とする西武セゾングループだった
渋谷の不動産価値を劇的に高めたのは池袋を本拠地とする西武セゾングループだった

【未来】百貨店より高級ホテル…10年後のシブヤ

さて、ここからが未来の話です。時は流れ、80年代の若者はいつの間にか還暦を迎え、百貨店は西武百貨店一店舗へと縮小する時代がやってきたのですが、それでも相変わらず渋谷は若者の街であり、文化の発信地であることには変わりがありません。ただこの渋谷には文化の発信地として決定的に不利な要因があると言われてきました。

それは高級ホテルが存在していなかったことです。それが21世紀に入ってから東急グループが渋谷を変えようとして力を入れてきたことでもあります。2000年に渋谷マークシティにミドルクラスの渋谷エクセルホテル東急が開業し、2001年に渋谷の繁華街と反対側にセルリアンタワーが完成し、はじめてこの街にラグジュアリーホテルが開業します。

そして高級ホテルが存在する意味というものが21世紀に街が発展するための重要な問題となります。それがインバウンドです。若者文化はクールジャパンという価値に生まれ変わり、渋谷は銀座、秋葉原、浅草と並ぶ日本を代表するクールジャパン文化の中心地となり始めているのです。

これがつまり渋谷が2020年代以降文化的に発展するために、電鉄よりも最上級ホテルが重要な時代がやってきたと考えられる理由です。日本でも屈指の高級住宅街である渋谷の松濤の入り口に、最高級ホテルが出現することの方が、ターミナル駅に百貨店があることよりも重要な時代がやってくるのです。

冒頭で申し上げた通り、東急百貨店跡地一帯は東急とLVMHグループの手によって、巨大な複合施設へと生まれ変わる計画が進行中です。実はLVMHグループが手掛けた複合施設で先行して日本に開業したのがギンザシックスです。期待値としてはそれと同じかそれ以上の施設が渋谷の一番奥地に誕生すると考えてみてください。

7月末にその概要が発表された東急本店跡地の再開発「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」(画像:Swire Properties Hotel Management Limited)
7月末にその概要が発表された東急本店跡地の再開発「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」(画像:Swire Properties Hotel Management Limited)

スワイヤー・ホテルズが展開するコンテンポラリー・ラグジュアリー・ブランド「ザ・ハウス・コレクティブ」が日本初上陸する。完成予定は2027年。写真は、隈研吾氏が設計を担当したオポジットハウス(北京)(画像:同上)
スワイヤー・ホテルズが展開するコンテンポラリー・ラグジュアリー・ブランド「ザ・ハウス・コレクティブ」が日本初上陸する。完成予定は2027年。写真は、隈研吾氏が設計を担当したオポジットハウス(北京)(画像:同上)

その前提で2027年以降の渋谷を想像してみましょう。この時代、銀座、京都と並んで渋谷がインバウンド外国人にとって真っ先に訪れたい街になっている理由は、渋谷・原宿エリアが日本文化を一番体感できるエリアだからです。中でも海外のセレブ達は渋谷の最も奥地にある最上級ホテルに滞在し、そこを拠点に渋谷の街のナイトライフをエンジョイするわけです。 

その時代、街の主役は百貨店や大手の飲食チェーンではなく、一軒一軒の個人が運営するブティックであり、飲食店であり、イベントスペースかもしれません。ニューヨークによく行かれる方はソーホーを思い浮かべるとイメージが強固になると思います。大手の百貨店などそこには必要がない、ひとりひとりの経営者が街の文化の担い手となり、集積として新たな文化が広がっていきます。

そのような未来をイメージすると、渋谷からデパートがなくなる日はいずれやってくるかもしれないと危惧しつつも、それが渋谷という街の経済価値がまた一段階高まるきっかけになるのではないかと私には思えるのです。

■『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)の購入はコチラ

  • 鈴木 貴博

    経営戦略コンサルタント。東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。事業戦略と未来予測の専門家。経済評論家としてメディアなどの多方面で活躍中。著書に『格差と階級の未来』『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『日本経済 復活の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)などがある。後者は累計20万分超のベストセラー。

Photo Gallery6

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事