汚職は明るみに出たが…「札幌五輪」はもうすぐ後戻りできなくなる | FRIDAYデジタル

汚職は明るみに出たが…「札幌五輪」はもうすぐ後戻りできなくなる

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開催都市契約=「ぼったくり契約」は結んでしまうともう後には戻れない

東京五輪・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が受託収賄容疑で逮捕された汚職事件。その後も次々と明るみに出る五輪をめぐるカネと利権の実態を、「やはり出てきたか」と受け止めた人も少なくないだろう。

髙橋元理事の逮捕は、札幌市が目指す2030年冬季五輪・パラリンピック招致に対する札幌市民の賛否にも当然、影響を及ぼさないはずはない。

「影響は大きいと思います」

北海道新聞(道新)編集委員の土江富雄さんはそう話す。

「8月下旬に道内民放局の情報番組で、札幌市民に対して独自に行った五輪招致アンケートの結果を発表していたんですが、反対が72%で賛成が28%でした。元理事の逮捕が影響していることは間違いないでしょうね。 

札幌市が3月に市民を対象に実施した意向調査では賛成が52%、反対が4割弱。あれはかなり問題のある調査で、『共生社会の実現に貢献する』とか『新たな施設は設けない』『税金は投入しない』とか市が打ち出している考えや計画を質問項目として並べ、理解したか訊ねた上で、8問目で開催の賛否を聞いている。そういう小細工をして、かろうじて賛成が52%だったんです。 

北海道新聞が札幌市民に招致の賛否を聞いた4月の世論調査では反対が57%、賛成が42%で反対が上回りました。逮捕がなくても、市民は招致に賛成ではないということでしょう」

土江さんは道新のコラムで東京五輪から引き出した教訓を提示し、読者に「札幌市の五輪招致を傍観してはいけない」と呼びかけた。ただし今回は、道新の編集委員としての見解ではなく、一ジャーナリストとしての考えや意見を聞いている。

「まず招致の現状ですが、今は開催地選考の第1段階で、札幌市はIOC(国際オリンピック委員会)の将来開催地委員会と個別に協議しています。しかし協議は水面下で行われ、何が話し合われているのか市民にはわかりません。 

2030年の招致にはソルトレークシティー(米)とバンクーバー(カナダ)も関心を示しています。ただ、ソルトレークシティーは34年の冬季五輪を優先する見通しが高いと言われている。 

30年の最優先候補地は年内か年明けに一本化されます。IOCは来年開く総会で開催地を正式決定するとしているけれども、それはただのセレモニーにすぎない。何せ、第2段階に進んだ時点で候補地は1都市に絞られているわけですから。つまり、あと4、5ヵ月で事実上、決着するんです。

その後、IOCと開催都市契約を結ぶことになります。開催都市が一方的に不利益を被る『不平等条約』とも呼ばれていますが、来年この契約を結んでしまうと、もう後戻りはできないんです」 

地方行脚で小麦を食べ尽くす王侯貴族のように五輪開催国を食い物にすることから「ぼったくり男爵」と異名を取ったIOCのトーマス・バッハ会長。東京の次は札幌をぼったくりのターゲットにするつもりか…(写真:アフロ)
地方行脚で小麦を食べ尽くす王侯貴族のように五輪開催国を食い物にすることから「ぼったくり男爵」と異名を取ったIOCのトーマス・バッハ会長。東京の次は札幌をぼったくりのターゲットにするつもりか…(写真:アフロ)

五輪をありがたがる日本はIOCにとって“カモネギ”

昨年、東京都とJOC(日本オリンピック委員会)がIOCと結んだ開催都市契約が、東京五輪が中止になった場合の賠償をめぐり注目された。そこには「開催を中止する権限はIOCだけが持つ」「中止となってもIOCは損害賠償などの責任を負わない」と読み取れる文言が書かれていた。

「東京五輪開幕の2ヵ月ほど前に、IOCのコーツ副会長が『緊急事態宣言が出されても開催するか』と聞かれて『イエス』と答えましたよね。カナダのパウンドIOC委員は『アルマゲドンでもない限り実施できる』と言い放った。彼らが度外れな傲慢さであんなことが言えるのは、2013年9月に結んだ開催都市契約があるからです」

IOC幹部らの傲岸不遜な物言いには、国民からも「何様なのか」と反発の声が上がった。

「東京五輪延期から開催までの騒動を通して、IOCの本質が見えたと思います。 

2014年にノルウェーのオスロが、本命と見られながら2022年冬季五輪の招致から撤退しました。財政負担が主な理由ですが、IOCが要求した豪華接待の内容を地元紙が暴露したことも大きかったようです。 

これまで、IOCの要求を唯々諾々と受け入れてきた開催地の卑屈な態度が、あの組織の幹部を強欲な殿様にさせたんでしょう。東京都がIOCに提出した立候補ファイル見てみるといい。5つ星ホテル4つをIOCの関係者に提供することを保証している。IOCにとって東京都は、カモネギと映っていたんじゃないでしょうか。 

札幌は30年冬季五輪の大本命です。開催都市契約に来年サインすると、7年後にはアルマゲドンでもない限り開かれます。そして、大会組織委員会が資金不足に陥った場合は札幌市が補填し、それでも足りなければ政府が保証することになるわけです。 

2010年代に入り、住民投票で開催反対を突きつけられて招致を取り下げる都市が相次いでいます。札幌市もどこかの段階で市民の意思をきちんと確認するべきです」

札幌市の秋元克広市長は3月に意向調査をする前から、反対多数でも招致活動を継続する考えを表明していた。道新のインタビューでは「住民投票を行う考えはない」とも明言している。

JOCの山下泰裕会長は高橋元理事が逮捕された後の定例会見で札幌五輪の招致活動を継続する考えを示した。元五輪選手が口にしたのは「こういう出来事は残念」「招致に影響が出ないように」など政治家のような発言ばかり
JOCの山下泰裕会長は高橋元理事が逮捕された後の定例会見で札幌五輪の招致活動を継続する考えを示した。元五輪選手が口にしたのは「こういう出来事は残念」「招致に影響が出ないように」など政治家のような発言ばかり

札幌市の秋元市長は「反対多数」を恐れ、住民投票を避けている!?

札幌市内では招致反対のデモ集会が開かれ、住民投票を求める声も高まっている。秋元市長はなぜ、住民投票を拒むのか。

「招致への支持が半数を下回ることがわかっているからでしょうね。でも、住民投票も再度の意向調査もせず、このまま候補地が札幌市に一本化されて来年に7年先の開催が決まってしまうと、必ず禍根を残すことになります。 

ところが市の職員は、住民投票にしても意向調査しても、今は東京五輪の影響で負のバイアスがかかっているから避けたいというような言い訳をするんです。 

秋元市長も札幌市も、どちらを向いて仕事をしているのでしょうか」

東京五輪の総経費は結果的に1兆4238億円に上り、招致段階で示した7340億円の見積もりからほぼ倍増した。大会のスポンサー選定をめぐる疑惑も相次ぎ発覚している。札幌市が五輪の開催意義をはっきり示さない中、市民が不信感や疑念を持つのは当たり前だ。

「去年、市が大会概要案を発表したんですが、開催意義に当たると思われる『大会がもたらすまちの未来』を読んでがっかりしました。札幌市の美点ではなく、欠点や課題に相当する項目が並んでいるんです。たとえば、障害のある方が暮らしやすいまちと思う割合が低いというようなことが書かれている。オリパラを誘致することで市が抱える問題を一挙に解決しようと取れる内容なんです。 

大会概要案には開催経費が示されていて、費用を圧縮する取り組みも書かれています。何も経費節約の体裁を取り繕うことにあくせくせず、『金額は大きいが、まちづくりに必要だから税金を使います』と正直に言えばいい。せめてそのぐらいの誠実さを市には求めたいですね」 

そして何より、札幌市民が求めたいのは住民投票だろう。本音はどうあれ、IOCは地元住民の支持率を重視すると言っている。

「西側先進国の中でオリンピックをありがたがる国は日本くらいのものだろうから、IOCとしてはおそらく札幌に決めたいところでしょう。それでも、IOCに多少の良識が残っているなら、この支持率では見合わせるのが妥当と判断する可能性もあるかもしれません。 

候補地の一本化までまだ4、5ヵ月あります。市民は秋元市長に住民投票を要求し続ける。市に対しては、あらゆる情報開示制度を使ってIOCとの協議の過程を示すよう求めていくことです。

秋元市長と職員には、IOCの“カバン持ち”ではなく、札幌市民のために働く公僕であることを忘れないでもらいたい」

土江さんは元スポーツ記者で、五輪も3度取材したという。だからあえて聞いた。土江さん自身は五輪招致に賛成なのか、反対なのか。

「子どもに夢と希望を与えると言いながら、子どもたちの将来に負荷をかけ、がんじがらめに縛りかねない。何のための開催か判然としないイベントに、賛成する理由はありません」

このまま招致に突き進めば、札幌は東京の轍を踏むことにもなりかねない。子どもたちに負のレガシーを残さないために、IOCにカモネギと見られないためにも、札幌市民と道民は行政にしっかり意思を示してほしい。さらに国民も招致を自分ごととして捉え、JOCに「五輪不信」を訴えるべきだろう。

土江富雄(つちえ・とみお)北海道新聞社編集委員。1960年、島根県生まれ。1983年、早稲田大法学部卒。1986年、北海道新聞社入社。深川支局、運動部、東京政経部などを経て、2004年から3年間、パリ駐在。その後、論説委員、論説副主幹、論説主幹を経て 2020年から編集委員。

  • 取材・文斉藤さゆり写真アフロ

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