葛飾区『学校給食完全無償化』発表の裏にあった保育所誤支給問題 | FRIDAYデジタル

葛飾区『学校給食完全無償化』発表の裏にあった保育所誤支給問題

ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』

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8月31日に、私立認可保育園への補助金過大支給問題について記者会見する葛飾区の青木克徳区長
8月31日に、私立認可保育園への補助金過大支給問題について記者会見する葛飾区の青木克徳区長

《ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』》

4期目の東京都葛飾区・青木克徳区長は、給食の無償化には大反対であった。

これまで、葛飾区議会議員から何度となく給食費の無償化について要望が出ていた。その度に、青木区長は、

「学校給食法において保護者の負担となっている。無償化を実施する考えはない。最終的にはやはり10億円の恒久的な一般財源の投入が必要になってくる。財源の措置も含めて国がどう考えてくるのか国の動向を注視する」

として、一貫して給食の無償化については否定的であり、反対を貫いてきた。ところが、9月7日に来春から区立小中学校の全74校で、学校給食費の全額を区が負担すると突然発表したのである。

給食費の完全無償化は千葉県市川市が中学校と特別支援学校が来年1月から、小学校は来年4月から完全無償化することにしているが、東京23区では初めてだ。

対象は小学生が約2万人、中学生が約9千人で計約2万9千人。区はこれまでも7億円を補助しており完全無償化となると、さらに10億円の負担増となる。しかも、来年度以降も永続的な事業だ。

想定される年間費用は総額で約17億円。来年度の一般会計予算に計上される予定であるが、まだ承認されたわけではない。

そして、葛飾区は給食費無償化以外、もう一つの問題で揺れに揺れている。それは保育所への誤支給問題である。

この問題は区が、私立の認可保育所への補助金を実際に支払うべき金額よりも5億円余り多く支給したもの。当初は“返還を求めないことを検討する”としていた区は、一転して8月31日に返還を求める方針を区議会に示した。

更に、9月1日に開催された区内私立認可保育所の園長会(非公開で臨時開催)で、青木区長が自らの給与を減額する考えを説明したうえで、

「誤支給で保育所に負担がかからないようにしたいという思いから対応を検討していたが、結果として返還を求める判断となった。誠に申し訳ございませんでした」

と謝罪している。出席者は

「区長の減給だけではなまぬるく不十分だ」

といった批判や

「返還を求めないことを検討すると言っていたのになぜ方針が変わったのか」

といった疑問の声が相次いだと報じられた。

会に出席した葛飾区私立保育園連盟の鈴木康之会長は、記者団に対し

「税金なので返すのは当然だとは思っているが、二転三転したところもあるので感情的な部分では納得しづらいところもある。いかに園への影響を小さくしていくか、どれくらいかけて返していくかなどの細かい部分を区と話し合っていきたい」

としている。

鈴木会長の二転三転というのには理由がある。ある保育園幹部によれば、

「7月下旬の段階で、区長は補助金誤支給分の返還は求めない立ち位置で、保育園幹部と事前に打ち合わせをしていたようだ。いわゆる根回しであり下話である」

だから鈴木会長の発言となり不信感へとつながったのである。

事の発端は、8月上旬に区職員が議会の委員会で「返還を求める」と報告したこと。ここから、ねじれが生じ始めた。

だが、その翌週には、区長が人件費に使った分は返還を求めないと公言し、園長会で正式に公表。これまた、前週の委員会での報告をひっくり返すことになるのである。これには、議員からも議会軽視が甚だしいと批判が殺到した。

周囲から批判の声が大きくなると、区長が税金110万円を使い、自身の正当性を示すために法的根拠を調査。8月15日に保育園に返還を求めなければ、法律に違反する可能性を弁護士から指摘され、区長は不本意ながら、8月31日に再び返還を求めることになり、園長会で亀裂が生じたのである。

これらの状況を捉えて、区政関係者はこのように告発している。

「区長に対する不信感を払拭する奇策が、給食費の無償化だったのです。財源がないので無償化はできないと言い続けた区長の変節は“補助金誤支給をうやむや”にする奇策であるとしか考えられない」

給食費の無償化が区長の奇策とするならば、区民はもとより子育て世帯や全国の行政を巻き込んだ極めて無責任な施策と言わざるを得ない。

それは、各自治体は給食費の無償化は実施をしたい気持ちはあっても、財源の問題と学校教育法第十六条で

『学校給食を受ける児童又は生徒の保護者の負担とする』

との規定があり、おいそれと実施できないのである。それなのに、今、各自治体には、メディアや保護者から実施についての問合せが後を絶たない状態となっている。

葛飾区議会は9月13日から10月13日の日程で第三回定例会を開催している。給食の完全無償化は9月20日の文教委員会で、教育委員会より説明がなされる。まずはこの委員会でどのような報告がされるのか、大注目である――。

  • 取材・文阿部光利(地方政治ジャーナリスト、元TVリポーター)

    ‘56年生まれ。『タイム3』『おはよう! ナイスデイ』『とくダネ!』(フジテレビ系)などの8番組でリポーターとして活躍。広告代理店経営の後、‘11年から‘19年まで東京都台東区議会議員に。その後、衆議院議員の公設第一秘書に就任。現在は行政の諸問題や社会問題などを独特の視点で取材、執筆活動を続けている

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