<figure id="attachment_265203" aria-describedby="caption-attachment-265203" style="width: 5003px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c96dd493"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/202209_tei_01_0795.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-265203" class="wp-caption-text">程氏。起業したころはまだ日本語に不安があったため、取引先へのプレゼンは各社ごとにカスタマイズした視覚的に伝わる資料を準備した</figcaption></figure>
<p>今年10月、従来の概念を覆した体重計が発売される。取り外して洗える珪藻土（けいそうど）素材のソフトバスマットに覆われ、メーター表示がない。浴室の手前に置かれ、見た目は完全にバスマットだ。しかし、そのバスマットの上で脱衣し、風呂上がりに身体を拭くだけで、入浴前後の体重が自動的に測定される。両足で3秒立てば、体重データがWi-Fiでスマートフォンへ送信されるのだ。</p>
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<p>商品名は『スマートバスマット』。4月7日に応援購入サイトMakuakeでプロジェクトを公開すると、6月29日の終了日までに目標金額を超える3,268万円を集め、多くのメディアに取り上げられた。開発したのは『issin』代表取締役の程涛（てい・とう）氏だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「医師のアドバイスだけでなく、自分自身の経験からも、体重管理は健康管理の基本と実感しています。体重計を使わない理由を調査したところ、男性は『面倒くさい』、女性は『現実逃避』が1位。日常生活に溶け込んでいて無意識に体重が測れ、乗る度に数字を見て一喜一憂する必要がない製品ができれば、体重管理のハードルが下がると考えました」</span></p>
<figure id="attachment_265206" aria-describedby="caption-attachment-265206" style="width: 5934px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="97c03235"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/202209_tei_02_cut2-3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-265206" class="wp-caption-text">『スマートバスマット』は10月から出荷開始。メーターがないため、乗るたびに数値を見てストレスを感じることはない</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="つまづきの連続だった天才エンジニア"></div>
<p>『issin』は創業間もないため、ヘルスケア業界で程氏はニューカマーだが、WEB業界やスタートアップ界隈では「『popIn』の創業者」として広く知られている。東京大学大学院在籍中の2008年7月、コンテンツのレコメンドプラットフォーム『popIn』を開発して、起業。ニュースサイトの関連記事や広告の表示、運営者向けの解析ツールなど、多くのWEB媒体に採用されている。</p>
<p>2015年6月、『popIn』は中国検索エンジンの最大手『Baidu（バイドゥ）』の傘下に入ったが、程氏はM&amp;A後も代表を務め、2017年からはこれまでのソフトウェア開発から一転、ハードウェア開発に乗り出す。2018年、プロジェクター、スピーカー、LEDシーリングライトが一体となった3in1スマートライト『ポップイン アラジン』を発売。『アラビアン・ナイト』に登場する「アラジンの魔法のランプ」から名付けられた製品は、累計販売台数20万台を超え、国内ホームプロジェクター市場でトップレベルのシェアを誇るヒット商品となった。</p>
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<p>ソフトウェアとハードウェアでは開発プロセスに異なる面が多いが、程氏はいずれも短期間で完成度の高いプロダクトを生み出した「天才エンジニア」だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「天才なんて、とんでもない！　私は中国の河南省出身で、日本に来ることになったのは、中国で大学受験に失敗したからです。来日して働きながら勉強し、東京工業大学に入学しました。そこでも、研究室に残るつもりで大学院を受け、内部進学の合格率は95％といわれるのに、試験対策に失敗して不合格。研究室に残るどころか、留年の手続きをしていたところ、たまたま東京大学大学院が日程的に受験可能で、運よく入学できたのです。全然、優秀ではなく、失敗や綱渡りの連続です（笑）」</span></p>
<p>だが、東京大学に進んだことが大きな好機となる。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「不純な動機」から生まれたアイディア"></div>
<p>今でこそ、多くの大学が学生起業家を支援し、産学連携も盛んだ。しかし、程氏が大学院生だった当時、起業を支援する投資会社と特許の管理をする組織の両方が揃っている大学は、東京大学くらいだったという。そして、『popIn』起業の発端となるソフトウェア開発も起業を意図したものではなく、<span class="strongInContent">「不純な動機で着手しました（笑）」</span>と程氏はおどけた。</p>
<p><span class="strongInContent">「大学院ではアイデアを認められると、必要な機材を提供してもらえたのです。日本では『iPhone』が発売される前で『iPod touch』が人気の時代。高額だった『iPod touch』を、なんとか研究機材として入手できないか――。そんな下心で考えているうち、後の『popIn』に繋がるアイデアが生まれました」</span></p>
<p>『iPod touch』欲しさに捻り出したアイデアだが、その後、開発したソフトウェアはシリコンバレーでのプレゼンテーションでも高評価を得る。開発途上の段階ながら、将来性を確信した周囲の後押しもあり、大学院在学中に起業家としてスタートを切ることになった。</p>
<figure id="attachment_265207" aria-describedby="caption-attachment-265207" style="width: 2653px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="908e23ef"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/202209_tei_03_0777.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-265207" class="wp-caption-text">ユーモアを交えて失敗談を次々と明かす気さくな程氏</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「学生ですから、経営のことも、事業計画の書き方もわからない。そんな私を見かねたのか、投資家のお一人が『事業計画書は書いてあげるから、開発を進めなさい』と言ってくださって……。事業計画を見て投資判断をする投資家の方が事業計画書を書いてくれるなんて、本来はありえません。それくらいダメな起業家だったということですね（笑）」</span></p>
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<p>創業初期の笑い話かと思いきや、『ポップイン アラジン』開発も綱渡り状態で進められていたという。中国の提携企業がパーツを制作し、最終組立の工程を国内メーカーのVAIOが行っていたのだが、製造工程の目処がたつ前に、程氏は出荷時期を確約したクラウドファンディングを実施していたのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「VAIOさんには3回お断りされ、4回目にようやく了承いただきました。でも、製造にかかる時間が早くても、ソフトウェア開発の3倍かかるとわかって……。VAIOの優秀な担当者とパーツ制作を請け負う中国企業が、協力して出荷に間に合わせてくれましたが、『これは出資者に、返金しなければいけないかも』と覚悟しました」</span></p>
<figure id="attachment_265210" aria-describedby="caption-attachment-265210" style="width: 4975px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9da82e15"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/202209_tei_04_0815.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-265210" class="wp-caption-text">VAIOとのやり取りを振り返り、「無知と無謀が過ぎますが、無知と無謀だからこそできることもあると思います」</figcaption></figure>
<p>製造先が決まる前に、クラウドファンディングを募ること自体は珍しくない。ただ、初めてのハードウェア開発を、この手法で進めるのはかなり大胆だ。そう指摘すると、程氏は<span class="strongInContent">「そうですよね。あれは首を絞める展開でしたね（笑）」</span>と、のんびりした笑顔を見せた。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="高収益事業を離れて、ヘルスケアの世界へ"></div>
<p>レコメンドプラットフォームの『popIn』も、3in1スマートライト『ポップイン アラジン』も、事業として成功した。その開発者である程氏だが、4月に起業した『issin』での事業に注力するため、『popIn』を退任。『スマートバスマット』は、その最初のプロダクトだ。</p>
<figure id="attachment_265211" aria-describedby="caption-attachment-265211" style="width: 4782px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5819f5da"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/202209_tei_05_0807.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-265211" class="wp-caption-text">ソフトバスマットにくるまれる体重計は業界最高レベルの薄さ。独自の技術でどこに乗っても体重の計測が可能だ</figcaption></figure>
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<p>応援購入だけでなく一般の予約販売も伸びており、ヒット商品になることは間違いないだろう。しかし、創業した高収益事業を離れて、「『家族の健康を守る』ヘルスケア領域の事業に注力する」と決断したのには、どんな背景があったのか？</p>
<p><span class="strongInContent">「父が亡くなり、母は療養中です。父は生前、体に不調を感じないまま、ビデオ通話でもわかるほど痩せていきました。体重の変化を重視していれば、手を打てたんじゃないかと感じています。私自身も健康診断で複数の数値が引っ掛かり、医師から体重管理を指示され、『スマートバスマット』開発の着想を得ました。『ポップイン アラジン』は家族と一緒にいる時間を楽しみ、思い出を作るツールです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">そして、『「家族の健康を守る」ヘルスケア領域』は健康寿命を延ばして、家族との思い出を作る時間を増やせる――階層としては、上の分野に取り組むことだと思っています。『スマートバスマット』のような、日常生活に溶け込んだ“無意識”のヘルスケアを実現できるデバイスが増えれば、多くの病気が防げるようになるかもしれません。そのためにアイデアを出し、これまでの開発経験を活かしたいと考えています」</span></p>
<figure id="attachment_265212" aria-describedby="caption-attachment-265212" style="width: 4735px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="01ab218d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/202209_tei_06_0779.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-265212" class="wp-caption-text">開発コンセプトは「日常生活に溶け込んだ”無意識の”ヘルスケア」。アイディアを思いつくと、機能より先に「どこに置くか」を考える</figcaption></figure>
<p>ヘルスケアの重要性への気づきが、新たなフィールドへと突き動かす原動力になった。だが、それだけじゃなく<span class="strongInContent">「元々、人を驚かすのが好きで、常にワクワクするようなチャレンジを求める性格。起業から14年経ち、『popIn』は私がいなくても、成長できる段階に入っています。私自身も40歳を迎えて、もっと自由にチャレンジできる環境に移るべきだと思いました。これからも、魔法のような体験ができる、プロダクトを生み出せたらいいですね」</span>と、楽しげに語る。これまで成功してきたとはいえ、新しい領域に踏み出すにはリスクが伴う。本人は腹を括れるが、家族の反対はなかったのだろうか？</p>
<p><span class="strongInContent">「アイデアを形にする時、家で実験しながら、妻や子どもたちの意見を聞きます。特に妻は、『絶対に間違いない』意見をくれる最重要人物（笑）。家族は一緒にワクワクしながら開発をする仲間で、むしろ一番応援してくれる存在です」</span></p>
<p>受験失敗によって導かれた場所で『Ipod touch』欲しさに捻りだしたアイデアが大きな花を咲かせた。その成功で得た大胆な行動力が、魔法のような製品を生み、家族の健康を守る未来へと繋がっている。禍福は糾える縄の如し。失敗に“恵まれる”のも、能力の一つだ。</p>


1982年、中国河南省出身。エンジニア、起業家。18歳で来日し、東京工業大学を卒業後、東京大学大学院に進学。大学院在学中にレコメンドプラットフォームの『popIn』を開発し、起業。WEB媒体にレコメンド機能や、解析ツール、ネイティブ広告を提供する、代表的なソフトウェアの一つに成長させた。その後、3in1スマートライト『ポップイン アラジン』を開発し、ヒット商品に。2022年4月、issinを起業し、従来の体重計とは大きく異なる『スマートバスマット』を開発。現在は、同製品に続く「家族の健康を守る」新たなプロダクトの開発を進めている。

程涛（てい・とう）

issin（2枚目）

鍬田美穂

多数のＷＥＢ媒体が採用しているレコメンドプラットフォーム『popIn』を開発した天才エンジニア・程涛氏がヘルスケア部門に転身。その意外な理由と失敗の連続だったエンジニア時代を振り返る

異例の転身！「popIn」創業者が”異例の体重計”を作ったワケ

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