山口組VS警察当局「分裂抗争7年間」知られざる死闘を明かす | FRIDAYデジタル

山口組VS警察当局「分裂抗争7年間」知られざる死闘を明かす

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今年6月、東京駅八重洲中央口から出てきた6代目山口組・司忍組長(撮影:濱﨑慎治)
今年6月、東京駅八重洲中央口から出てきた6代目山口組・司忍組長(撮影:濱﨑慎治)

1日に3件発生したことも…

国内最大の暴力団組織「6代目山口組」は2015年8月に分裂し、離脱したグループが「神戸山口組」を旗揚げして双方の間での対立抗争状態は7年以上と異例の長期化となっている。対立抗争は2019年秋に激化したため、双方は2020年1月に特定抗争指定暴力団に指定され活動が厳しく制限されている。双方の間での対立抗争だけでなく、圧力を強める警察当局との攻防も長期化している。

6代目山口組分裂以降の7年間の対立抗争で、拳銃を使った殺人事件だけでなく、事務所への発砲や火炎瓶の投げ込み、ダンプカーなどの大型車両をバックで突入させるなど約90件の事件が発生、計8人が死亡した。移籍をめぐる内輪もめなども含めると事件は100件以上発生し死者は十数人に上る。だが、分裂からしばらくの間、当初は双方ともに静観の構えだった。

組織内のトラブルや繁華街での乱闘騒ぎなど偶発的な事件はあったが、全面的に対立抗争が展開されるという訳ではなかった。しかし、2016年2月、福井県敦賀市の神戸山口組正木組事務所(当時)への発砲事件をきっかけに連日のように事件が起きるようになった。

この月には、奈良県大和郡山市の6代目山口組系幹部宅に車が突入▽長野県松本市で神戸山口組系組員が集団暴行を受ける▽静岡県三島市で神戸山口組系幹部の車に放火▽埼玉県八潮市の神戸山口組系幹部宅に発砲▽東京都足立区で神戸山口組系幹部襲撃などと続発した。1日に3件の事件が発生した日もあった。

以後も全国各地で事件が散発的に起きるなか、2019年10月、神戸市内で神戸山口組山健組系(当時)の組員2人が同時に射殺される事件が発生。翌11月には尼崎市内で神戸山口組系幹部、古川恵一が自動小銃で数十発の銃弾を浴びて殺害される残忍な事件が起きた。逮捕されたのはいずれも6代目山口組系の幹部や元組員だった。

夕方の繁華街で起きた「凶悪襲撃事件」

当時、組織犯罪対策を担当していた警察当局の幹部は、「2人が同時に殺害された事件は衝撃が大きかった。さらに尼崎の事件は夕方の繁華街で起きた。一般市民の通行もあり流れ弾による被害が出る可能性は十分にあり危険だった」と振り返る。そのうえで、「この2つの事件の凶悪さから、神戸(山口組)を脱退する組織が増えていった」とも指摘した。

こうした凶悪な事件の発生を踏まえ6代目山口組と神戸山口組は2020年1月、暴力団対策法に基づき、より規制が厳しい「特定抗争指定暴力団」に指定された。特定抗争指定暴力団とは、指定暴力団のうち対立抗争状態にあり一般市民に危害が加えられる恐れのある場合に公安委員会によって指定される。

公安委員会は警戒区域を設定し、区域内では「同じ暴力団組員がおおむね5人以上で集まる」「組事務所の新設、立ち入り」などが禁止される。違反すると中止命令などの行政手続きを経ずに、即座に逮捕される。

特定抗争指定暴力団には前例があった。ともに福岡県に拠点を構える「道仁会」「九州誠道会」が2012年12月に指定されている。道仁会の会長人事をめぐり分裂、対立抗争となり約50件の事件が発生、双方で14人が死亡した。対立抗争は6年以上にわたったが、特定抗争指定暴力団に指定されると抗争はピタリと止まった。

「定期的に会う」ことがなぜ大事か

当時を知る警察当局の幹部OBは「特定抗争に指定されてどちらも事務所は警戒区域内にあるので定例の会合などは開けなくなった。携帯電話やメールなどの通信機器が発達したとはいえ、やはり顔を突き合わせて定期的に会わないと気持ちの上で距離が生まれる。統制が取れなくなり離脱者が増えていった」と語った。

道仁会は抗争終結の宣誓書を福岡県警に提出。九州誠道会は解散を届け出た。特定抗争指定暴力団の指定は2014年6月に解除された。「身動きが取れなくなって白旗を上げた」(前出の警察幹部OB)。ただ、九州誠道会は浪川会と名称を変更して活動を続けている。抗争を抑え込むことは出来たが、暴力団としての活動を停止させることは出来なかった。

6代目山口組と神戸山口組の対立抗争は7年以上が経過、特定抗争指定暴力団に指定されてからも2年半以上となっている。尼崎市で発生した自動小銃を乱射しての殺人事件などをきっかけに、神戸山口組は組織の縮小が始まった。以後、6代目山口組側が優勢となり2021年末時点で、6代目山口組の構成員は約4000人、神戸山口組は約510人と勢力差は大きく開いている。

昨年から今年にかけては、コロナ禍のためか対立抗争は鎮静化していたが、今年6月に神戸市内の神戸山口組組長、井上邦雄の自宅に向けて発砲事件が発生、5月には大阪府豊中市内の神戸山口組宅見組組長、入江禎の自宅に車両が突入する事件も起きていた。

それでも神戸山口組は組織の存続を図っており、警察当局の幹部は、「6代目(山口組)と神戸(山口組)については、半永久的に特定抗争指定が必要だ」と厳しい視線を向けている。ただ9月になり神戸山口組、池田組、絆会が連合体となることが決定した。6代目山口組との間で、池田組、絆会が抗争事件を引き起こすようなことになれば、今後、特定抗争指定暴力団として新たな指定がなされる可能性もある。(文中敬称略、一部の肩書は当時)

  • 取材・文尾島正洋

    ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。近著に『山口組分裂の真相』(文藝春秋)

  • 撮影濱﨑慎治

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