朝ドラ『ちむどんどん』同じ沖縄『ちゅらさん』を超えられないワケ | FRIDAYデジタル

朝ドラ『ちむどんどん』同じ沖縄『ちゅらさん』を超えられないワケ

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ネット上では『#ちむどんどん反省会』が話題に。ヒロインの黒島結菜にとっては”黒歴史”になってしまうのか…
ネット上では『#ちむどんどん反省会』が話題に。ヒロインの黒島結菜にとっては”黒歴史”になってしまうのか…

朝ドラ『ちむどんどん』(NHK)もいよいよ、最終回目前。‘61年に産声を上げた“朝の連続テレビ小説”が今再び、迷走の危機に瀕している。

なぜこれ程バッシングを受けたのか。その原因を探すとするなら、“目指すべき方向性を見誤った”と今となっては言わざるを得ない。

「脚本家の羽原大介氏はクランクアップ後のインタビューで『朝見ていただいて”今日も一日頑張ろう”と思っていただけるようなドラマ作りが一貫してできた』と総括しています。ですが、原点回帰とも言える“明るく楽しい”朝ドラ路線を目指したことが、果たして正しかったのか。

そもそも視聴者が望んでいたのは、綿密に散りばめられた伏線をどうやって回収していくのか。つまり、伏線回収劇にまつわる考察こそ最大の楽しみ。そこを読み違えたことが、反感を買ってしまった最大の原因。しかもベタな展開やご都合主義が多く、深読みができず“ちむ”が“どんどん”するどころか“わじわじ”するといった声も上がっています」(前出・制作会社プロデューサー)

今作の脚本を羽原氏が手掛けると知り、大きな期待が寄せられた。

羽原氏は‘05年の映画『パッチギ』では日本人と朝鮮人との友情と恋を、‘06年の『フラガール』では福島の炭鉱にやってきた常磐ハワイアンセンターとフラダンスに対する葛藤を描き、両作とも日本アカデミー賞の脚本賞を受賞。‘14年の朝ドラ『マッサン』でも日本にやってきたスコットランド人の妻との国際結婚をテーマに異なる世界の融合と調和を描き、高い評価を得ていた。

だからこそ今作で“沖縄をどう描くのか”、期待が高まっていた。

「沖縄を舞台した朝ドラといえば‘01年に放送され、その後何度も続編が作られた『ちゅらさん』を思い出す人も多いはず。沖縄といえば、基地をはじめとする沖縄が抱える問題をテーマに取り上げるか南国リゾートの魅力を謳歌するのか、それまでは二つにひとつしかなかった。

ところが『ちゅらさん』は、大家族を舞台に『命どぅ宝』といった沖縄の知恵を根幹において描くことに成功。大勢の視聴者を獲得して沖縄ブームを巻き起こしました。『ちむどんどん』は四兄妹を中心とする沖縄の大家族を描きながら、ドタバタ劇に終始。これでは『ちゅらさん』には到底太刀打ちできません」(ワイドショー関係者)

そうした四兄妹のドタバタ劇の中心人物が、何度も詐欺に引っかかり家族に迷惑を掛けた長男・賢秀(竜星涼)。“ネズミ講”に騙され、ヒロイン暢子(黒島結菜)が開店資金のために貯金してきた200万円を失ってしまう展開には、呆れるばかり。しかしそんな賢秀の見せ場が、第23週『にんじんしりしりーは突然に』にやってくる。

「ホステスをしていた清恵(佐津川愛美)を見つけ、『お前を迎えに来た。一緒に帰ろう。養豚場に』『好きだから。大好きでずっと一緒にいたいから』と告白。そんな賢秀に『私は家出して、ろくでもない男と結婚して、嘘つきの最低女だっていったじゃん!』『私は嘘つきで最低なんだよ!』と泣きながら詰め寄る。

そんな清恵に『俺だって負けてない』と過去の行状をぶちまけ、最後に『人間はやり直せる』『俺はお前とやり直したい』と訴えかける泥臭くて、一見カッコ悪くみえるシーンに視聴者は心奪われました」(制作会社ディレクター)

ケンカ別れをしたかに見えた2人。しかし賢秀の想いが通じたのか清恵は店を辞め、養豚場に帰って来る。しっかりと抱き合う2人を観た父・寛大(中原丈雄)が

「これからは、お前たち2人で決めていけ」

と告げるまでのセリフの応酬は、見応え十分。羽原の師であるつかこうへいが描く、不器用で格好をつけるやんちゃな憎めない男とそんな男を愛しく思う女の丁々発止のやり取りが、今更ながら偲ばれる会心の名場面ではなかったか。

「その後、父・寛大が『あれあれあれあれ』といって首に巻いたタオルを探すコントチックな展開も、その前のシーンが熱すぎるくらい熱いから、クスッと笑える。こうしたシーンを描くのは脚本家として照れ臭いのかもしれませんが、クサくなることを恐れず突っ走っていたら『吉本新喜劇』と揶揄されることもなかったのでは…」(前出・制作会社ディレクター)

‘18年に放送された朝ドラ『半分、青い。』では、脚本家の北川悦吏子がみずからツイッターで呟き、「神回」予告を行ってネットは炎上。時には視聴者と激しく意見をぶつけ合うなど、批判を恐れぬ“恋愛の神様”の勇姿が今となっては懐かしい。

朝ドラに挑む制作陣が視聴者やネット民におもねる必要はない。しかし“国民的な番組”と呼ばれる朝ドラに挑むのなら、北川悦吏子ほどの覚悟が必要なのかもしれない…。

 

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中

  • PHOTO近藤 裕介

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