<figure id="attachment_266541" aria-describedby="caption-attachment-266541" style="width: 960px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="49ad4bbe"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/image4.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-266541" class="wp-caption-text">小学生時代の香瞳と母親の神楽坂浮子（提供写真。画像は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>ＮＨＫ紅白歌合戦に、２度にわたって出演して一世を風靡した歌手がいる。映画で、テレビで、舞台で、スポットライトを浴び、華やかな芸能人生を過ごした。</p>
<p>だが、その陰で、彼女の一人娘は、10代の頃から20年以上も覚醒剤に溺れ、暴力団組員の性の玩具となるような人生を過ごしてきた。</p>
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<p>その娘の言葉である。</p>
<p><span class="strongInContent">「10代～40代までずっと覚醒剤をやっていました。10代の時からヤクザとの付き合いはありましたし、連れ回されたり、捕まって刑務所へ行ったりしたこともあります。そんな私の人生が、歌手だった母の影響と無関係でなかったことはわかっています。もう、その母と会うことも話すこともできませんが……」</span></p>
<p>芸能人の家庭崩壊、親子の確執は、これまで様々な形で報じられてきた。ただ、子供自身が犯した罪や暴力団との関係性も含めてすべてを赤裸々に語ることはごく稀だ。</p>
<p>その言葉に耳を傾けることで、１つの時代のあり方、１つの家庭のあり方について目を向けてみたい。</p>
<h2>古賀政男の寵愛を受け……</h2>
<figure id="attachment_266555" aria-describedby="caption-attachment-266555" style="width: 803px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9857882e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/image7.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-266555" class="wp-caption-text">香瞳が21歳頃の写真。左は当時交際していたモデル。場所は神楽坂浮子が経営していたレストランバー（提供写真。画像は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>高野香瞳（仮名）が東京の新宿にある病院で生まれたのは、74年のことだった。</p>
<p>彼女の母親は、「最後の芸者歌手」と呼ばれた、神楽坂浮子。58年と61年にＮＨＫ紅白歌合戦に出場している。代表曲に『十九の春』『三味線フラ』などがあり、絶頂期の50年代～60年代には多数の映画にも出演した。</p>
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<p>もともと芸者歌手とは、花街で歌謡曲をうたう芸者のことを示していた。そこからデビューする歌手もいたほどだ。ただ、戦後になると、芸者経験のないまま、芸者の格好をしてうたう歌手も同じように呼ばれるようになり、一世を風靡する。</p>
<p>神楽坂浮子は、学生時代に人気を博していた神楽坂はん子に憧れ、高校を中退して歌手を目指した。</p>
<p>神楽坂はん子は、戦前から戦後にかけて活躍した作曲家の古賀政男（国民栄誉賞）の寵愛を受けてデビューした歌手だった。浮子はその古賀の門下に入り、はん子の妹分として10代で芸者歌手としてデビュー、20歳でＮＨＫ紅白歌合戦に初出場した。</p>
<p>最初の結婚は、25歳の年で、相手は一般の男性だった。間もなく、子供が生まれたものの、金銭感覚のズレから離婚。芸能人として振る舞うことが好きだった彼女は、１日で夫の月給以上の浪費をすることもあり、夫婦間にひずみが生じたらしい。</p>
<p>その後、浮子はヒモのような男と付き合っているうちに妊娠し、再婚することになる。この時に生まれたのが、先述の高野香瞳だった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="家も貯金も失ったワケ"></div>
<figure id="attachment_266545" aria-describedby="caption-attachment-266545" style="width: 872px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f5366d1a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/image6.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-266545" class="wp-caption-text">10代でタレント事務所に所属していた時の一枚（提供写真。画像は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>香瞳の誕生後間もなく、２人は離婚することになる。夫が浮子の名前を利用して方々で膨大な借金をつくり、そのまま行方をくらましたのである。浮子は新宿にあった100坪の家を売ってその借金を返済する。</p>
<p>香瞳は語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「母は２度目の結婚の時には芸能界を引退していましたから、借金の返済で家も貯金もすべてを失いました。それで小学生だった義兄と、幼い私をシングルマザーとして育てることになったのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">生活費をどうしていたのかは知りません。おそらく昔の知名度をつかって、方々で営業みたいなことをしたり、パトロンみたいな人に支援してもらったりしていたんだと思います」</span></p>
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<p>浮子はマンションの更新に合わせて２年ごとに引っ越しをしていた。家では家政婦を雇って子供たちの面倒を見させ、あまり帰ってこなかったという。</p>
<p>おそらく夜の街で営業をしていたか、パトロンと会っていたかして、生活費を手に入れていたのだろう。</p>
<p>香瞳によれば、浮子を１度も「母親」と感じたことはなかったそうだ。彼女は母親の役割を捨て、「芸能人」として生きる女だったのだ。</p>
<h2>娘は外出時の「アクセサリー」</h2>
<p>たとえば、浮子は香瞳を連れて舞台などへ出かける時は、ブランド品に身を包んで、娘にも自分の高価なバッグを持たせた。行く先々で羽振り良く振る舞い、娘と仲の良いところをアピールする。</p>
<p>だが、一旦家に帰ると、別人のようになって娘からバッグを奪い、目も合わせようとしなかった。娘に話しかけられても返事すらしないことも多く、服も靴も買い与えようとしない。彼女にとって娘は、外へ出る時の「アクセサリー」のようなものでしかなかったのだ。</p>
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<p>香瞳は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「母は自分のことにしか興味がなく、娘の私にはまったく関心を持っていませんでした。外に出る時に『行ってきます』と言っても返事をしてくれないので、気づいてもらうためにドアを思い切り閉めて出ていくのが習慣になっていました。物心ついた時からそうだったので、周りから『神楽坂浮子の娘』と言われても、嬉しいと思ったことがありません」</span></p>
<p>生活は、家政婦に支えられていたが、精神的にはネグレクトの状態にあったのだろう。</p>
<p>さらに香瞳には別の心の傷を負っていた。４歳くらいの時と、小学２年の時に、２度にわたって見知らぬ男性から性的ないたずらを受けていたのだ。父親を知らない香瞳にとって、大人の男からの性犯罪はトラウマとなり、今に至るまで彼女を苦しませた。</p>
<p>浮子は、母親としてそんな娘の心の傷に目を向けようとはしなかった。そして小学生だった彼女にこう言い放ったのである。</p>
<p><span class="strongInContent">「私には私の人生があるし、あんたにはあんたの人生があるの。私はあんたの人生に干渉しないから、あんたも私の人生に干渉しないで！」</span></p>
<p>香瞳はこの言葉を聞いて、自分と母親との間に決定的な溝があることを突き付けられた。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="実の子を突き放した意外な理由"></div>
<figure id="attachment_266784" aria-describedby="caption-attachment-266784" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6e2952e1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/09/image5-2.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-266784" class="wp-caption-text">中学生の時。左が香瞳（提供写真。画像は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>なぜ、浮子は実の子をそこまで突き放したのだろう。香瞳は、裏切られた多くの体験が彼女をそうさせたのではないかと考えている。</p>
<p>若くして名声を博した彼女は、金銭的トラブルなどが原因で親族とはほぼ絶縁状態にあった。その上、夫からも裏切られて財産を根こそぎ持っていかれた。</p>
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<p>また、香瞳が小学生の時、浮子が子宮筋腫の治療を受けることになり、病院に付き添ったことがあった。この時、浮子は問診票に「妊娠７回、出産２回」と書き込んでいたそうだ。それだけ多くの男性に翻弄された人生を歩んできたのだろう。</p>
<p>香瞳は、こうしたことによって、浮子は実の娘にすら心を閉ざし、自分のためにしか生きなくなったのだと考えているのだ。</p>
<p>小学５年の時、そんな生活が突然一変する。</p>
<p>浮子が突然、１人で都内の高級住宅地のマンションに引っ越してしまったのだ。マンションは、当時の愛人だった大企業の社長に購入してもらったものだった。当然そこは、愛人との密会の場所となった。</p>
<h2>母親に会えるのは愛人がいない時だけ</h2>
<p>これによって、香瞳は兄とともに近くのマンションに子供だけで生活するように告げられた。与えられたお金で食べ物を買い、母親に会いに行けるのは愛人がいない時に限られた。</p>
<p>小学校の卒業式を迎える頃、香瞳は母親に何かを期待する気持ちが完全に消え失せていた。何かを望んで裏切られ、傷つくことの方が怖かったのだ。</p>
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<p>母親は、コネをつかってそんな娘を私立の中高一貫の学校へ進学させた。学校に寮があり、そこに入れたがったのだ。おそらく愛人との暮らしの中で、子供が邪魔になったのだろう。大学生になった兄も自立させられていた。</p>
<p>中高一貫校の寮に入ったことで、香瞳は生活態度を急変させた。簡単に言えば、グレたのだ。母親から愛情を受けられなかったことの反動だったにちがいない。</p>
<p>中１で煙草を吸いはじめ、中２からはシンナーをはじめた。やがて学校をサボるようになり、毎日のように電車に乗って新宿へ行ってシンナーを買った。そして、そこで知り合った密売人の暴力団組員と付き合うようになる。</p>
<p>香瞳は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「マンションに売人のヤクザが２人で住んでいました。私は学校の寮に帰らず、その家に泊まるようになりました。私の他にもう１人ヤクザの女もいましたし、他にもいろんなヤクザが出入りしていました。売人だったんで、仕事をしていない時は、ずっとシンナーを吸っているような感じでした」</span></p>
<p>紅白歌手の娘が、暴力団組員のアヘン窟のようなところで暮らしているとなれば、それだけで大きなニュースになる。</p>
<p>母親の浮子はその事実を知るが、一般には考えられない行動に出る。そこからはじまる、香瞳の無限地獄のような日々については、【後編】で詳しく見ていきたい。</p>
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<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/266558">後編：紅白歌手の娘「弔問客なく遺骨も行方不明の母」</a>】</p>
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77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

提供写真

NHKの紅白歌合戦に２度出場した最後の「芸者歌手」がいる。その娘が告白する自身の壮絶半生だ。暴力団や強制性交、薬物がからんだ波乱の生き様……。ノンフィクション作家の石井光太氏が描く真実の物語。

覚醒剤に暴力団…紅白歌手の娘が告白「性の玩具にされた壮絶半生」

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