まるで三国志!ウクライナ大反撃を指揮した名軍師と計略と伏兵 | FRIDAYデジタル

まるで三国志!ウクライナ大反撃を指揮した名軍師と計略と伏兵

ドキュメント「戦史に残る反転攻勢」 窮地のプーチン大統領は「住民投票」&「予備役部分動員」で対抗

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9月14日、ゼレンスキー大統領は奪還に成功したイジュームを訪問。兵士たちの労をねぎらい、記念写真を撮った
9月14日、ゼレンスキー大統領は奪還に成功したイジュームを訪問。兵士たちの労をねぎらい、記念写真を撮った

数日で6000㎢もの領土を奪還するという戦史に残る逆襲劇を、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏は「壮大なマスキロフカ(情報偽装工作)」と表現した。

布石となったのは、ウクライナのアレストビッチ大統領顧問の「8月29日に南部に大攻勢をかける」という発言だった。

「事前にウクライナはアメリカと演習をしていて、『ウクライナは南部のヘルソンからザポリージャ南東まで取り返したいと考えていたが、米軍に〝その兵力では無理〟と突っぱねられて、ヘルソンでロシア軍を消耗させる作戦にした』と報じられました。てっきり、ドニプロ川西岸に主力部隊を集めて南部で長期戦を行うのかと思いきや、北東部のハルキウで大攻勢が始まった」(小泉氏)

主力を南部に移動させたロシアは伏兵に虚をつかれ、総崩れとなった。

ロシア軍は大隊戦術グループ(BTG)という単位で戦っている。主となるのは戦車や装甲車化した戦闘車両だ。正面から戦うにはかなり手強い。そこで、ウクライナ軍は米軍より供与された高機動ロケット弾発射機「ハイマース」を使い、弾薬・燃料集積所など兵站(へいたん)拠点を叩き、橋を落として進路も退路も断った。

BTGが単体で戦えるのは10日間、戦闘可能日数は3日と言われる。ゆえに補給路である鉄道幹線から離れると戦えないのが弱点なのだ。小泉氏によると、「ウクライナ軍は鉄道2線が交わるクピャンスクを急襲した」という。

「クピャンスクを取られると、ハルキウ州南部の要衝・イジュームに向かう鉄道幹線は遮断される。ロシア軍は不意をつかれたうえに補給路を絶たれてしまった」

大攻勢開始からイジューム奪還までの1週間の間に、ロシア軍の戦車や装甲車は100両近く破壊されたとみられる。ロシア陸軍の虎の子であるT-90M戦車まで鹵獲(ろかく)(接収)されるという惨敗だった。

焦ったプーチン大統領は二つのカードを切った。ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン4州での「ロシア編入を問う住民投票」と、第2次世界大戦後初となる約30万人の予備役兵を招集する「部分動員令」だ。だが、一般市民である子供や死者、戦力となるとは思えない63歳の持病持ち男性にも招集令状が届くなど、大混乱している。

軍事の専門家が「まるで三国志のようだ」と唸(うな)った見事な計略でプーチン大統領を追い詰めたのは、ウクライナ軍総司令官のザルージニー氏だ。

「ザルージニーは職業軍人。’14〜’15年2月のロシア軍との戦闘でドンバス地方を担当する『セクトルC』の指揮官を務めています。人格もまともで経験もある。彼がフリーハンドで作戦総指揮を任されているのが大きい。対するロシア参謀本部のゲラシモフ参謀総長も優秀な男ですが、プーチンに横ヤリを入れられながら作戦を立てている状況です」(小泉氏)

プーチン大統領は9月21日の演説で、核使用の条件を「相手が核を使った場合」および「国家存亡の危機」から、「領土的一体性を守る」というところまで引き下げた。となると、ルガンスクなどの4州が住民投票でロシアに編入されると、核使用のリスクが一気に高まることになる。

「プーチンが核を使うとすれば、そのオプションは二つ。ひとつは人口密集地、リビウみたいなまだあまり損害を受けていない場所に落として何十万人かを殺す。ロシア的な言い方をすると〝適度な損害〟であり、これ以上続けたら全滅しますよという警告になる。ただ、そこまでやったらNATOの全面介入を招くのは必至。難しいでしょう。

もうひとつは低出力核を海上――例えばイギリスとグリーンランドの間の海域のような無人エリアに落として、警告射撃として用いる方法。ただ、大反攻から3週間が過ぎても、どのオプションも実現できていません。核を使う気があるなら、ハルキウが突破されたときにスイッチを押していたはずです。

実は、ロシアは意外に反核世論が大きい。キューバ危機の’62年に作られた『太陽がいつもありますように』という子供の唱歌があるのですが、『ママがいつもいますように、空がいつもありますように』というなかなか怖い歌詞です。私がこれまで読んできたロシアの将軍が書いた論文には、『核戦争は戦争ではない。人類破滅装置』と明記されていました」(小泉氏)

思想や能力はあるが現実に核は使用できない――ロシアが逡巡している間も、ウクライナの戦略は進む。

「ポーランドがウクライナに供与したPT-91戦車がどこに行ったか不明なのです。ハルキウの大反攻でも姿を見せていない。200両以上、2個機甲旅団分くらい持っているのに出していない。オスキル川を渡河して、リマンを背後から襲う可能性もあるし、ヘルソンをぶっ叩きに行く可能性もある」(小泉氏)

突然の侵攻から200日、ウクライナは重要な局面を迎えている。

ウクライナ軍の反転攻勢を指揮したザルージニー総司令官。陸軍士官学校卒のエリートで’21年に48歳の若さで現職
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ハイマースはタイヤ式で機動力に優れ、航続距離は480㎞。舗装された道なら85㎞で走行可。射程距離は約70㎞
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ウクライナ軍が隠しているとされるポーランドの主力戦車PT-91。今後、決定的な場面での投入が予想されている
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『FRIDAY』2022年10月14日号より

  • 取材・文:菊池雅之PHOTOアフロ

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