低価格アパレル好調の中…価格据え置きの「無印良品」一人負けの訳 | FRIDAYデジタル

低価格アパレル好調の中…価格据え置きの「無印良品」一人負けの訳

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ユニクロ、ワークマン…低価格アパレルブランドも軒並み値上げを発表

コロナ禍による海外工場の停止と物流網の乱れ、ロシアの侵略による燃料の不足と高騰によって、物価が上昇し始めています。さらにはアメリカの利上げによるドル独歩高が始まり、ドル以外の通貨の下落が始まっている(円安ばかり注目されるが、対ドルに関してはユーロも元もウォンも暴落している)ため、さらに値上げ要素は増しています。

そんな中、国内の低価格アパレルブランドも軒並み値上げを発表しています。ただ、全面的に値上げではなく、値上げ幅はそれほど大きくありませんし、値上げ品目を絞っている場合がほとんどです。

例えば、ユニクロは今秋から5品番の値上げを発表しました。しかし、実際のところはそれ以外でも値上がりしている品番があるので「5品番しか値上げしません」ということではなく「値上げを発表するのは5品番だけです」というのが実態です。値上げ幅はだいたい500~1000円程度です。

ワークマンは「価格据え置き」と報道されていますが、10品番の値上げを発表しています。逆にその10品番だけに値上げをとどめているのが実態で、「10品番のみ値上げ」という見出しの付け方が正しいと言わねばなりません。 

「ユニクロ値上げ、ワークマン据え置き」という報道姿勢は恣意的であると感じられます。

新社長が「世界での売上高3兆円」構想をぶち上げた無印良品だが…(写真:アフロ)
新社長が「世界での売上高3兆円」構想をぶち上げた無印良品だが…(写真:アフロ)

価格据え置きを強く打ち出している「無印良品」

そんな中、価格据え置きを強く打ち出しているのが無印良品です。

今回の物価上昇以前から、衣料品業界では値上げリスクが多々見受けられ、実際のところは各ブランドともにギリギリで価格据え置きをしていたのですが、無印良品は主に衣料品を中心として定価値下げを繰り返してきました。そして今回の価格据え置きですから、他の低価格ブランドと比較すると、相当に割安感が出ているといえます。

商品やサービスというのは、一般的に言って、高価格は売れにくく低価格は売れやすくなります。そして高価格の商品を値下げすると売れやすくなります。10000円の商品より100円の商品の方が誰しも買いやすいのです。ですから、売れ残った商品やサービスは値下げして売りさばくのです。

ですが、同等の価格帯の中では、少し値段が高いとか他社より少し値段が安い程度では売れ行きに差が出ない場合が往々にしてあります。特に衣料品の場合は「消え物」ではなく、一度買ってしまうと少なくとも数シーズンは破損しないため、激安だから必ず売れるというわけではありません。多くの日本人が衣料品をすでに何枚も持っていますから、安くても要らない物は要らないのです。

衣料品の苦戦を好調の食品でカバーする「無印良品」

低価格ブランドの中でも売れ行きには常に格差があります。2020年はコロナ禍で史上初となる大規模な店舗休業や営業短縮が起きました。

そのため、アパレル店は一様に業績を落としましたが、2020年に入り、コロナ禍は続いてはいますが、もう長期休業や極端な時短はなく、消費者も大多数は多少の警戒はしながらも実店舗で買い物をするようになっていますから、コロナ前まで完全回復とはいかないまでもある程度の水準にまで戻りつつあります。

発表された決算内容から見ると、しまむらが好調で完全回復し、ワークマンがコロナ前よりもはるかに成長しています。ユニクロ、ジーユーは堅調ですが2019年実績にまでは戻っていませんハニーズも好調です。

そんな中にあって、無印良品の衣料品が苦戦を続けています。無印良品は衣料品、日用雑貨、食品の3分野がありますが、まとめていうとこのところ、無印良品の既存店業績は衣料品の苦戦を食品の好調でカバーするという傾向が続いていました。

コロナ前よりも成長しているワークマン
コロナ前よりも成長しているワークマン

コロナ禍、好調だった食品と失速した衣料品

2019年2月期の国内衣料品既存店売上高は前年比5・1%増と好調でした。前年の2018年2月期が7・5%増ですから、さらに伸ばしたという好調ぶりです。

そしてコロナ禍が始まり、2020年は8月に決算期を変更した変則決算な上に大幅減少となったのは仕方がありません。2021年から変調し始めました。2021年8月期の国内衣料品既存店売上高は年間で前年比トントンと伸びが止まりました。

特に顕著なのが、21年夏からの失速です。6月の既存店衣料品売上高が19・6%減、7月が少し持ち直して5・4%減、8月が23・1%減に沈みました。そしてそのまま2022年8月期へとつながります(この原稿を書いた時点でまだ年間トータルは集計されていない)。

22年8月期の国内衣料品既存店売上高は22年1月、4月、5月と前年実績を超えたのがこの3回だけにとどまりました。残り9回はすべて前年実績割れです。直近の22年8月売上速報は9・0%減に終わっています。年間トータルも恐らく前年実績割れに終わるでしょう。

一方、好調を牽引してきた食品も22年8月期に入って踊り場に突入した感があります。食品の売り上げ実績が前年を超えたのは21年11月、22年5月の2回だけでした。しかし、食品は21年8月期の年間トータルで前年比41・8%も伸ばしていますから、22年は不調というよりは「踊り場」「停滞期」と見るべきでしょう。

値上げしなければ売れるというのは幻想…

さて、無印良品の21年夏以降の衣料品苦戦ですが、店頭を定点観測した感想をいうと

  • 1_21年夏以降、衣料品に目新しい商品がない
  • 2_21年夏以降、衣料品売り場の構成・陳列に目新しさがない
  • 3_マストレンドのルーズシルエット商品が少ない

という3つが挙げられます。

無印良品の衣料品というと元からベーシックを売りにしていたのですが、それでも毎シーズン新しい商品や新しい色柄の投入はありました。しかし、21年夏から見ていると、ほとんどそれらしい商品が入荷していません。19年商品の再生産品ばかりに見えてしまいます。これでは19年、20年に商品を買った人はわざわざ22年に商品を買う必要がありません。

新商品が無い(ように見える)ブランドがいかに売れにくいかが22年8月期の無印良品の衣料品の苦戦を見ていれば分かると思います。

衣料品業界では売れ残りを減らすために「定番品を増やそう」という主張があります。また消費者の中にも「むやみな新商品は要らないから定番品を充実させてほしい」という意見もあります。しかし、同じ商品を毎年同じ枚数だけ購入し続ける消費者はそんなにいません。

初年度に色違いで3枚買った消費者は翌年以降、毎年1枚ずつ買う程度です。そうなると当然のことながら売上高は伸びません。むしろ減ります。無印良品の既存店衣料品売り場で起きているのはそういうことだと考えられます。

無印良品を展開する良品計画は新社長が「世界での売上高3兆円」構想をぶち上げましたが、今のままでは実現はなかなか困難だと言わねばなりません。

コロナ禍以前に定価引き下げを繰り返し、今年価格据え置きを発表した無印良品ですが、衣料品に関していえば、安くても売れない物は売れないのです。そのことを如実に表しているといえます。今秋以降、無印良品がどのように商品や売り場を改善するのか注目したいと思います。

  • 取材・文南充浩(みなみみつひろ)

    1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。

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