北朝鮮連日のミサイル発射。金正恩の本当の狙いを専門家は… | FRIDAYデジタル

北朝鮮連日のミサイル発射。金正恩の本当の狙いを専門家は…

北朝鮮がこれからやる「核&ミサイル発射リスト」〜軍事ジャーナリスト黒井文太郎レポート

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<北朝鮮は、今日6日にもミサイルを発射した。4日早朝に日本上空を通過した中距離ミサイルは青森県付近を通って太平洋上に落下したとみられる。2017年以来、5年ぶりの「暴挙」に、岸田文雄首相は「平和と安定に対する重大な挑戦だ」と北朝鮮を強く非難した。彼の国は、なにを考えているのか。本当の狙いは? 「これは、ほんの序の口にすぎない」という軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏が、この「次」を解説する>

北朝鮮の「挑発」に日本は…。朝鮮で制作された金正恩朝鮮労働党総書記のポスターは「建設革命を起こしてわが人民により良い立派な生活条件をもたらそう!」と呼びかけている(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 画像:朝鮮通信/共同通信イメージズ
北朝鮮の「挑発」に日本は…。朝鮮で制作された金正恩朝鮮労働党総書記のポスターは「建設革命を起こしてわが人民により良い立派な生活条件をもたらそう!」と呼びかけている(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 画像:朝鮮通信/共同通信イメージズ

「火星12」が発射された

10月4日、北朝鮮は中距離弾道ミサイル1発を発射した。最大高度約1000㎞、飛翔距離は約4600㎞とみられる。過去の北朝鮮ミサイル発射実績からすると、おそらく「火星12」の可能性が高い。

火星12は射程5000㎞とみられる液体燃料型の弾道ミサイルで、その射程からグアムの米軍基地を標的とするミサイルになる。高い軌道で打ち上げるなど、撃ち方の工夫次第で日本に落とすことは可能だが、日本向けには他のミサイルがあり、せっかくグアムを攻撃できるミサイルを日本攻撃に使う意味はほとんどない。したがって、火星12自体は日本の直接の脅威というわけではない。なお、このミサイルを北朝鮮はすで2017年に3回、発射実験に成功しており、実戦配備を宣言している。

「日本列島を飛び越えてみた」以上の意味はない

その後も、実は今年1月30日にも発射している。この時は最大高度2000㎞という高い山なりの撃ち方をして日本海に落としている。火星12の2017年の発射のうち2回は、日本列島を飛び越える撃ち方をしており、今回は5年ぶり3回目の日本列島越えになるが、それ自体は軍事的に何か「新しい脅威」が登場したというわけではない。5年の間に多少改良したかもしれないが、基本的にはすでに完成した技術のミサイルであり、5年ぶりに「日本列島を飛び越えてみた」という以上の意味はない。

とはいえ、この5年間、米国を必要以上に挑発しないために日本列島を越えない撃ち方に留めてきた北朝鮮が今回は政治的には1段階、ミサイル発射のレベルを上げたのは事実だ。北朝鮮は弾道ミサイルの技術を使ったいかなる発射も国連安保理決議に禁じられており、短距離含めて弾道ミサイル発射は国際法違反になるが、日本海へ落とす撃ち方については、すでに多種類のミサイルを何度も発射しており、事実上ほぼ黙認される状況に至っている。今後、今回のような日本列島を飛び越える撃ち方を繰り返せば、それが既成事実化されることなり、北朝鮮にとってはどんどん有利な状況になっていくことになる。

もっとも、北朝鮮は単にそのためだけに今回の発射をしたわけではあるまい。北朝鮮にとって、もっともやりたいことは強力なICBMの発射実験と、最終的には、核実験である。

とくに核実験は、前回の実験からすでに5年が経過しており、かなり技術を上げたはずだ。なかでも小型化は、大型ICBMを多弾頭化したり、比較的小型の短距離ミサイルを核ミサイル化したり、同じミサイルでもそれぞれの射程を延ばしたりすることに直結する技術であり、その実証試験は、北朝鮮が目指す核強国への道においては最重要なものだ。

さらに金正恩が2021年1月に公式に発表した軍備増強計画の中には、「核兵器の小型軽量化・戦術兵器化」とともに「超大型核弾頭生産」との文言もある。公式に宣言している以上、いずれそちらの実験も行うことになるだろう。

核実験への布石

ただし、核実験は米国の強い反発が不可避である。そのため過去に北朝鮮は、まずはミサイル実験を先行し、それを米国が非難したり制裁で圧力をかけてきたりしたことを逆に口実として「核強国である米国の脅しのせいで、自分たちも自衛のために核を持たざるを得なくなった」との無理やりな理屈で核実験を自己正当化してきた。そうした過去パターンからすると、今回も北朝鮮はミサイル発射実験のレベルを段階的に上げ、最後に核実験を行う可能性がもっとも高い(ただし、2017年は核実験からのICBM発射という順序だった)。

金正恩は今年1月、「米国の敵対的な態度のため、これまで自制してきた長距離ミサイル発射と核実験を再開する」という意味の発言をしていた。つまり、今年は5年ぶりに核とICBMの実験に踏み切る予定がもともとあったものと推測されるが、さらに2月にロシアがウクライナに侵攻したことで、北朝鮮にとっては千載一遇のチャンスが到来したとも言える状況になっている。ロシアが米国と完全な敵対モードに入ったことで、北朝鮮が核やICBM発射の実験を強行しても、中露(中国も台湾海峡問題などで米国と対立している)の拒否権によって、北朝鮮制裁の安保理決議は通らない。北朝鮮にとってはきわめて有利な状況になっており、おそらく北朝鮮はこの機会を逃さないだろう。つまり、今のうちに技術的に可能な核とミサイルの実験はすべてやってしまおうとなるはずである。

実際、今年3月にはICBM発射を複数回行っている。この時は日本海に落としているが、これからは日本列島を越えて太平洋に落とす実験に移行する可能性は充分にある。

今後想定される4つの「ミサイル実験」

では、今後、彼らは核実験に至る前に、どんなミサイル実験をやるのか。以下にリストアップしてみる。

▽火星17

超大型のICBM。北朝鮮はすでに米国東海岸を射程に収める推定射程1万2000㎞級のICBM「火星15」の発射実験に2017年に成功しているが、より大型化され、より重い弾頭を搭載できるとみられる「火星17」の全力での発射試験に、まだ成功していない(今年3月に失敗している)。したがって、その再発射を行うものとみられる。

なお、多弾頭化へのステップとして、複数弾頭を搭載する実験を行う可能性もある。

▽北極星5

潜水艦発射型弾道ミサイル。すでに2019年に発射実験を行っている推定射程2000㎞級の「北極星3」より大型化され、グアムを標的とする射程4000㎞級を狙っているのではないかとも推測される。すでに軍事パレードなどでは複数回登場しているが、なぜかまだ発射実験が行われていない。

なお、前述した金正恩の軍備増強計画の中には、「原子力潜水艦と水中発射型核戦略兵器」との文言もある。そのハードルは高いが、公表した以上、その実現に向けた研究・開発は進めているものと思われる。

▽極超音速ミサイル&火星8

北朝鮮は日米のイージス艦などによるミサイル防衛を回避するため、現在のイージス艦搭載の対空ミサイルでは対応ができない大気圏内の低い軌道を飛ぶ跳躍滑空型ミサイルの開発を進めている。

対韓国用の短距離ミサイルが先行しているが、「火星12」の強力なエンジンを搭載した対日本用の「極超音速ミサイル」(北朝鮮側の呼称)が今年1月、2回にわたって発射され、1000㎞を飛翔した。搭載しているエンジンのパワーからすると、フルパワーで発射した場合、日本列島を飛び越える可能性もある。

また、同様に「火星12」のエンジンに、より滑空性を考慮した偏平形の弾頭を搭載した「火星8」という準中距離級の滑空ミサイルも2021年9月に1度、発射している。この時は失敗に終わっているが、野心的なミサイルであり、今後も発射実験を重ねる可能性がある。

▽新型の固体燃料型弾道ミサイル?

前述した金正恩の軍備増強計画の中に「水中および地上固体ロケットICBM」との文言もある。北朝鮮は過去に軍事パレードでハリボテの地上発射型ICBMのレプリカを登場させたことがあるだけで、対日本用の推定射程2000㎞級の地上発射型ミサイル「北極星2」を超える射程の固体燃料弾道ミサイルの発射実績はないので、どこまで本気で進める気なのかは不明だが、推定射程4000㎞級の前述の「北極星5」の技術を応用し、固体燃料ICBMへのステップとして、より大型化した新型ミサイルを開発していく可能性もある。

以上のことを北朝鮮は今後、すべてやる可能性がある。それ以外にも、まだ非公開の新型ミサイルを開発している可能性もあり、それらの試験が行われる可能性も十分にある。

とはいえ前述したように、北朝鮮がもっともやりたいのは核実験だ。すでに豊渓里核実験場の整備は完了しており、いつでも核実験が可能な状態とみられる。

日本を飛び越えたことで注目された今回のミサイル発射だが、実際にはこれから北朝鮮が行うだろう数々の野心的な核・ミサイル実験の、ほんの序の口に過ぎないのだ。

2020年10月、北朝鮮・平壌の金日成広場で行われた軍事パレードに登場した中距離弾道ミサイル「火星12」 写真:コリアメディア提供・共同
2020年10月、北朝鮮・平壌の金日成広場で行われた軍事パレードに登場した中距離弾道ミサイル「火星12」 写真:コリアメディア提供・共同
  • 取材・文黒井文太郎写真朝鮮通信/共同通信イメージズ

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