吉田豪×大森靖子×小林司 激動のミスiDを振り返る(後編)

ミスiDを続ける理由。そしてミスiDはどこへ向かうのか?

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いま日本で一番目が離せないオーディションとも言われる「ミスiD」。主宰の小林司実行委員長、選考委員のプロインタビュアー吉田豪氏、超歌手の大森靖子氏による鼎談形式で、昨年11月に決まったばかりの「ミスiD2019」を振り返ってもらった前編。 後編では、「沼」と言われる一度入り込んだから抜けられないミスiDの魅力と、今後のミスiDエントリー希望者へのアドバイスまで。

■ルールを後ろにして、人を優先している

―― 主宰の小林さんはもちろん、吉田豪さんがミスiDに参加したのは二年目(ミスiD2014)からで、大森靖子さんは三年目(ミスiD2015)から。ずっとミスiDを見ている三人から見て、ミスiDのグランプリってどういう存在なんでしょう? 

吉田 まず、普通のオーディションだったらまず選ばれない子がグランプリになっていることに気づいてほしいですよね。声が小さすぎて会話が成立しないとか、大幅に遅刻してくるとか、事務所の問題を抱えているとか……。そういう子たちの可能性に賭けてみるという、普通のオーディションではあり得ない、かなり過酷な実験をやっているオーディションなんですよ。

小林 たしかに……「ほらこれで文句ないでしょ」というマイナスのない人よりは、不安要素はあっても、時代をこじ開けるかもしれない新しさやとんでもないプラス要素が一点あればそれを断固評価する、というのは間違いないので、実験かもしれません。ちなみに、大森さんがグランプリを語る時によく“聖域“という言い方をされるんですけど、あのワード、大森さんはグランプリを語る時しか出さないですよね。

大森 たしかに。「緊張する存在」みたいな意味で使ってますね。

小林 そうですよね。そもそも日本の若い女の子は、何かと気遣いをさせられたり、空気を読んでニコニコしてないとみたいな同調圧力がやっぱりあると思うんです。そんなのまったくくだらないし、本質的なことじゃないのに。なので、そういう圧力に屈しない個を見つけたりすると、ワクワクするし、その究極がグランプリなのかもって思います。

大森 最初にも言いましたが、かわいいけど、かわいいが魅力の一番じゃないんです。歴代のグランプリは確かにかわいさすら超えた何かを持ってると思う。心に聖域を持っていて、尊くて誰も近づけない存在。そこに圧倒的なものを感じる人だけがグランプリになってほしい。

吉田 ミスiDって、結局人に合わせない、合わせられない人たちばかりが集まる場所で、だからこそめんどくささが凄いわけじゃないですか。ボクたちにもこうやってしつこくDMしたり、日記的なものまで送って来たりすることも含めて。でも、あえてめんどくさい子を選んでるところもあるわけですよ。

大森 わざわざ最終面接まで来て「ここにいる選考委員、全員興味ないし」って言って帰るような子だっていますからね。どんだけめんどくさいんだ(笑)。

吉田 女の子同士のディスりあいも毎年の恒例ですからね。

小林 ですね。年によりますけど、東海岸と西海岸のラッパー同士のビーフみたいなディスり合いみたいなのもあります。けど反対に、そういう居場所がない子たちが居られる場所にもなってて。女の子同士で「好き」と言い合える空気は、世間より早かったと思います。2年目のミスiD、2014の時に、いまchelmicoというイケてるラップユニットをやってるレイチェルという子がいまして……。

吉田 それこそボクが小林さんにずっと動画を公開してくださいと言ってるくらい、最終面接が最高でした。

小林 そのレイチェルが垣根を破ったと思ってて。当時の選考委員の山崎まどかさんが「日本でもガールクラッシュ(女の子同士で褒め合うこと)が始まった!」と感動して言ってたのを覚えてます。ハーフでモデル並みのスタイルのくせに、コミュ下手でなんか破天荒で面白い。そしてあまりにド素人すぎて、当時選考委員の岸田メルさんを「メル〜」って呼び捨てにしたり、なぜかtofubeatsさんに突然リプを送ってやりとりしたりして。怖いもの知らずだけなんですけど。その流れで同じ参加者の女の子にもリプを出し始めたんですよ。「蒼波純ちゃん(ミスiD2014グランプリ)ヤバい」みたいな。そのうち女の子たちが「私、◯◯さんが好き」みたいに、賛辞や好きを送りあって、そのまま互助会的につながりはじめたというか。これもふつうのコンテストならタブーなんですけど。

大森 もともと周りから浮いてる子たちだろうから、自分とは明らかに違う人たちが集まるカオスな場所って、ラクだし、繋がればディープですよね。

小林 このカメラマンは危険だとか、この人はヤバいみたいだから気をつけよう、みたいなことも共有できますしね。フリーの子は孤立するというのが一番怖いことだから。

吉田 あとは、本来なら落ちるラインの子でも、何か可能性さえあればどんどん面白がったんですよね。だから、どんどんそういう子がエントリーするようになってきた。あと、2年目が決定的だったのは、前回も言ったけど既婚者をファイナリストに選んだことですよね。

小林 中村インディア。

吉田 既婚者禁止だったのが、結婚を隠して受けた子が出てきて、それをどうするか? と考えた結果、アリにしちゃった。

大森 どんどんありにしちゃったんですよね。CGもありになって。結局、男もありなのか論争になり、まっありかって(笑)

吉田 年齢もちょっと超えてるけど、まぁ、いいかって。

小林 人によって変えていこうってことだけなんです。ルールを人よりも後ろにしているというか、あくまで人を優先させようと。そもそも「抜け道」って大事で、それがない世界って閉塞感しかないなって。インディアがいなかったら、こういう論争も起きなかった。

吉田 あの結果、子持ちの応募者が増えましたね。

小林 もはや「ミス」の意味も消えましたね。

吉田 ミセスでありミスターでもある(笑)。

大森 でも大事なのは、いわゆる「ミスコン」のルールがある上でそこをぶち破ろうとしてる人が来ることかなって。なんでも自由で誰でもきてくださいとなったら、それは違うんじゃないかと思うですよ。

吉田 そういう意味ではボクが初期から嫌だったのが、調子乗った感じの男がちょくちょくエントリーしてくること。

小林・大森 あ〜〜わかる!!(笑)

吉田 なんの工夫もなくて、「いえ〜い、男っす。これって面白いっしょ?」みたいなタイプ。絶対通しません。

小林 ですね、そこだけは意地でも通さない。そこは絶対に勘違いしてほしくない。ルールがあって、ハードルがあった上で、それでも乗り込んでくる意志ですよね。意地でもいい。そこにちゃんと覚悟がほしい。

吉田 あとは美学と。そして再挑戦が多いのもミスiDの特徴だと思うんですよ。

小林 確かにこの執着も普通のオーディションだとなかなかないでしょうね。

吉田 毎回思うんですけど、一回賞とった人はもういいでしょうって。それなのに、なぜ人の椅子を奪いに来るのかと。

協調性がない、コミュニケーション能力がない、はミスiDの特徴

―― 一回受賞した人でもまたエントリーしてくるんですか?

小林 受賞まではいないですけど、ファイナリストくらいなら余裕でエントリーしてきます。

吉田 そこに物語があればまだいいけど、ふつうに評価された人がもう一回受けるのって何をしたいんだろうって、毎回書類を見る度に思います。

小林 夕月未終という子が毎年受けてくるんですが、そこまで来るとちょっと大河ドラマというか面白くなってるんですけど、よっぽどのアップデートがないとやっぱり厳しく見ちゃいますよね。

吉田 今年のツバサ・ミンミンはだから残ったのだと。あと毎年思うのが、アイドルの子が事務所に言われて来て、爪痕を残せないことも多いんけど、その子が事務所を解雇されたりすると「受けるなら今なのに!」ってことで。

小林 ああ、タイミング問題。

吉田 事務所がアイドルグループのメンバー全員を受けさせるのも良くなくて。向いてる子がいるからピンで送り込むとかならいいけど。

小林 最近はやっとだいぶ減った気がします。

吉田 ミスiDの特徴として女の子が面接の制限時間をちゃんと守らないというのがあるんですよ。粘るとか、そもそも時間の概念がないくらいの人もいる。そもそも小林さんがそういう人なんで(笑)。全然帰らない人も毎年います。

小林 僕みたいな時間管理のできない人間がやってるオーディションなんで、そこはすみません。最近やっと気をつけようと思ってるんです。

吉田 遅いですよ!

 

―― 選考動画ってなんで時間がバラバラなんですか? 30秒ぐらいの人もいれば10分くらいの人もいますが。

小林 あれはただ本人のテンションです。すぐ帰る人もいるし、異常に粘る人もいるってだけです。

吉田 そもそもコミュニケーションが苦手な人ばっかりなので、普通のオーディションよりは時間が読みにくいことは確かです。喋りたくないからもう終わりでいいですって人もいるし。なぜ出てきたのかってなりますけど。

小林 協調性がない、コミュニケーション能力が足りないってのはミスiDに出てくる子たちの最大の特徴です。いや、当たり前すぎてもはやデフォルトくらいの感じで(笑)。でもさっきも言いましたけど、僕は何にも悪いことだとも思ってなくて。同調圧力の国で苦しくなる一方の若い世代に風穴を開けてほしいというのがあるので、あんまりそこに気は使わないでほしいんです。

大森 気を使うのはそこじゃないよね。

吉田 そもそも「おはようございます!」って入ってくる人なんて、ほぼ皆無ですよ。

小林 初代グランプリのティナ、2014グランプリの蒼波純から、今年のグランプリの友望に至るまで、声が小さい子はなぜか圧倒的に多いですね。最初の頃は、選考委員のずっとザ・芸能界で生きてきた大郷剛さんが毎年驚いてました。「おはようございます!」という声がオーディション会場で響かないことに。

吉田 大郷さん、「挨拶できない時点でアウトだよ!」って2年目の時に吠えてました。

大森 ミスiDの選考をしていると「これもありなんじゃないか」と、自分の美学がどんどん揺らいでいくんだけど、大郷さんは揺らがないからすごい。

吉田 多少は揺らいでますよ。昨年は「れ音(ミスiD2018 吉田豪賞)はいい」とか、今までアウトだったジャンルの人も評価し始めている。

小林 れ音、大好きです。ああいう、才能はとんでもないけど誰も手なづけられないような子が生きていける世界に芸能界も変わっていってほしいし、変わらないとダメだと思うんですよ。今は、事務所が圧倒的な力を誇っていた旧芸能界的なしくみが崩れて変化している過渡期だということは、多かれ少なかれ、みんな肌で感じ始めてる。ただ、ああいう昔ながらの芸能界の価値観を持った人にも絶対居てほしいんです。ご意見番として。

■「賞が多すぎる」問題

吉田 「私の選評まだでしょうか?」というDMも今年は多いんですよ。ボクの場合、書いてる本数は例年よりも多いくらいで、毎年年末進行で本格的にやばい中で書いているのに、「個人的にでもいいのでください」って来るんですよ。個人的に送るならちゃんとアップするし、そもそもその時間がないのに!

小林 「いつまでも待ちます」とか。

吉田 小林さんが描かないせいで「誰からも選評がこないです。なんとかしてください」みたいなのがくるんですよ。

小林 主宰なので絶対全員書くと決めてるんですが、毎年人数も増えやることも増えて…….ってじゃあ減らせよって話ですけど。あ、2019ファイナリストの選評は一月中に必ず全員書き終わりますのでもう少しだけ待ってください……。

ちょっと話変わるんですけど、今の若い人たちって正当な評価がされてない、と思うんです。同世代ばっかりで先輩もいないし、そもそもぼっちだったりする。先生や親や職場の上司なんて、たいていトンチンカンなことしか言わない。信用する人からもらう評価って、僕は賞金よりも意味があるんじゃないかと思ってます。一億円とかならそっちの方が全然いいですけど(笑)。評価がもらえるっていうのは、結構なミスiDのモチベーションな気がします。

大森 それあるよね。自分の評価って生きててもほとんどない。でもそうは言っても、私たちの意見だって偏ってる。本当に正しいかどうかなんてわかんないですよ。だから、そこらへんも冷静に俯瞰した上で、私たちの評価やアドバイスを聞いてくれれば、それは結構的外れではないと思う。

吉田 ミスiDは賞が多すぎるって言われるじゃないですか。小林さんはどう言うふうに思いますか?

小林 毎年毎年いろんな人から怒られてます。

吉田 それでいて、これだけ賞を増やしても「なぜ誰々が賞をとらないんだ」って言われ続けるわけじゃないですか。

小林 ミスiDはファイナリストくらいまで残ればもはや全員がミスiDなんですよ。これもアホみたいにずっと言ってますけど。一人のグランプリを選ぶオーディションじゃないので。でもさすが次は心を鬼にして賞の数を減らすか、もしくはもはやファイナリスト全員に賞はあげるしかないのかなと、本気で考えてます。

吉田 書類選考で、選考委員の誰かが一人でも◎をつけたらカメラテストに来れるシステムなんですけど、推した選考委員がそのカメラテストに来れないってことが多々あるのは、地味に結構困るんですよね。そういう時はその子を推してないボクらが見ることになるんですけど、まったく評価どころがわからない人の話を聴く時の地獄感はすごいですよ。なので「評価した人、ちゃんと来てよ」は思います。

■ミスiDをよく知らない人に来てほしい

小林 これからの話をすると、ミスiDの「物語」が強すぎるという問題はありますよね。ミスiDになりたくて応募する人が増えてるんですよ。

―― それは困ることなんですか?

小林 つまんなくないですか? ミスiD好きとか、ミスiDになりたいって思う人だけがエントリーするオーディション。

吉田 選考委員の影響力が良くも悪くも強いがゆえに、「縷縷夢兎を着たい」「大森さんに会いたい」みたいな目的が強くなってしまうのもありますね。そこに一切興味のない人がもっと出てきてほしいとは思います。

小林 はい。ミスiDをよく知らない子が、もっとひょっこり来るような感じにならないかなと。そこは選考委員の方の幅を広げることでも対応したいと思ってるんですけど、とにかく異常にめんどくさいオーディションなので、豪さんや大森さんみたいに、めんどくささに対する異常な耐久性のある人ってそんなにいないんですよ。だから「我こそは全員最後まで見届けられる変態である」という人が居たら、ぜひ選考委員に立候補お願いしたいです。これまじめな募集です。

―― ミスiDでは課金はあくまで評価の一部ですよね?

小林 課金煽りまくって上位のこの人たちが選ばれました、は単純に何がおもしろいのがわからなくて。あとそもそもそれだとオーディションではなくて、人気投票ですよね。
ミスiDももう気づけば7年やっているので、「3年間ウォッチしてました」とか、今年のキャッチコピー賞の坂田莉咲のように「今年やっと受ける覚悟ができたので受けました」って子もいるんですね。こうしてる間も「今年じゃないな」とか「来年はかわいくなるはずだから受けよう」とか考えてる子がいるってことですよね、多分。

大森 ライブも「4年前から好きだったけどやっと来れました」って子がたくさんいるから。やっぱ続けないとダメだなって思いますね。

吉田 「来年は絶対に受けます」ってDMもよく来ます。

小林 「私の勝負は2021年なんでその時まで続けてください」とか。その人なりに人生をかけてたりするものになって来てるから、そのためにも続けないとというのはあります。一方で、このまんまじゃつまんないし、小さく閉じたものになるっていう怖れもあります。そもそも選考委員に山戸結希監督がいるんだからエントリー前に映画の一本も撮ってきて「観てください」だっていいし、SKY-HIがいるんだからフリーのラップバトル仕掛けたっていいし、「ゴットタン」の佐久間さんがいるんだからストレートにバラエティ勝負って子が大挙来てもいいと思うんですよ。けど、現状ほとんどいません。勝負を挑んでくる子がまだまだ少ない。でもそれはきっとまだミスiDが知名度も信頼度もそこまで行ってないからなんだと思います。もっと国民的オーディションになんないとダメだな、と思うんです。

■リスクしかないオーディションをなぜやるか

―― 話を伺っていたら、めんどくささとリスクしか感じないのですが(笑)。それを超えてミスiDという場にいる面白さを教えていただけますか?

吉田 ボクが仕事をやっているモチベーションは、人の人生に影響を与えたいからなんですよね。社会を変えるのは困難だけど、個人を変えることはできる。そういう意味では一番、直接的に人生を変えることに関われる仕事だと思うんですよ。

小林 豪さんがそう言ってくれるのは本当に嬉しくて。豪さんというのは、ヤバい人に対するアンテナがちょっと尋常ではないと思うんです。ヤバいというのはこの場合かなり幅が広い意味です。プラスのヤバさも、マイナスのヤバさも。夜中に豪さんから「(ミスiDの)〇〇さんちょっといまヤバそうです」ってDMが何度来たかわかりません。ヤバい人ポリスみたいなところがある。

吉田 深夜、ツイッターのタイムラインで精神崩壊して死にそうなミスiDの子を発見すると、ボクがDMを送ったりして様子をうかがいつつ、小林さんに「なんとかしてあげて下さい!」って報告するという。

―― 大森さんはどうでしょう?

大森 私は、見たこともないものを見ると自分の許容量のメモリーが増えるんですよ。かわいいって、固定されると一番腐ると思うんです。こういう子もいる、こういう子もいるっていっぱい知っていくことが、自分のかわいいの感覚を研ぎ澄ませることで。だからそれだけは続けたい。必要な平和とか必要なかわいいって、どんどん変わってくじゃないですか。だからずっと見ないといけないみたいな宿命みたいな感覚ですね。

小林 普通、自分を確立してる人ほど、自分のジャッジポイントを絶対視するというか囚われてしまうんですが、大森さんは不思議とそういうところがないんです。本当にその人を見て考えて悩んでくれる。普通は一番できないことで。

大森 だから今ひとつ書くことないなあと思って書いてる人ほど、寸評が長くなっていくんですよ。

小林 あぁ、わかる!

大森 で、書いてるうちに、これは好きだなってなるんですよね。

小林 それもわかる。

大森 書いちゃったら実は「好きかも」って。小林病かな(笑)

小林 大森さんはちゃんと言語化してくれる人なんですけど、言語化することではじめて存在することができる女の子っていると思うんですよ。
たとえば、1950年代にジェームス・ディーンが登場するまでは、アメリカにはアダルト(大人)かキッズ(子供)のどっちらかしかなかったんですけど、彼が出てきたことではじめて「ティーンエイジャー」という、そのどっちでもない中間の存在が認識されたんです。だから名付けること、言語化することってすごく大事で、名づけられないと存在してないのと同じなんです。
今年、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』を、審査委員長のケイト・ブランシェットが「インビジブルピープルを描いた映画だから決定的に正しいんだ」と評してて感動しました。ミスiDはインビジブルピープル――見えない人たちなんですよね。だから無理矢理にでもよくわかんない賞をあげたりしてます(笑)。あと、よく「飽きませんか?」と言われるけど、意味がわからない。毎年違う子が来るのに。

大森 飽きはしないですね。慣れはするけど。

小林 そうそう。慣れはする。知見は溜まっていくので。

大森 あぁこういう人ねって。

小林 でも、それを裏切って来た時の快感はすごい。

大森 あぁ、やばい!まだあるんだ。マジ!?ってなります。

小林 積み上がった知見やデータを一瞬で破壊しくれるような女の子が、毎年ちゃんと現れるんですよ。「ミスiDはメンヘラばっかり」って言う人もまだいるんですけど、ミスiDどころかあなたは人間を理解してるのかなって。

大森 それ解像度ですよ。ミスiD見てると解像度が上がる。解像度が低い人は全部同じメンヘラに見えるからそんなことが言えちゃう。こんなに色とりどりなのにね。
この前、あるトップ・ユーチューバーの男の会話を聞いていたら、「男で”こういう自分を認めて”ってのはいいけど、女が見せる自己顕示欲は引く」みたいなことを言ってて、結構げんなりしたんだけど、男は「こういう自分を愛して」って言えるのに女の子の評価ってまだそうなってないのかって、その人を見て思ったんですよね。そいつは「オレも大森靖子にフォローされたからメンヘラの仲間入りかなぁ」とかも言ってて。まだまだ世界は地獄だなって思った。こんな時代まだ続いてるのかって。フェミっぽいこと言うわけじゃないけど、女の子はもっと解像度高いし、もっと「自分だから」でいいじゃん。男女じゃなくて自分だからで戦えるように、かわいいも底上げしていきたい。

小林 ほんとそうだよね。地獄はまだそこら中にある。

大森 だから「ほら見ろよ!」って気持ちですね。グランプリを見ろよ。この世界遺産を見て。この豊かな自然を(笑)。

吉田 「ミスiD全員はメンヘラ」と言う人には、そうじゃない人も山ほどいて、とにかく雑多なオーデションなんですけど、要は「普通なら受け入れられないような人もなるべく受け入れるから、病んだ子も増える」ってだけだと思ってます。入院しているレベルの、他のオーディションだとまずアウトな人も快く受け入れるってだけのことで。

大森 あと、私は単純に私の欲望で選考委員やってるから「靖子ちゃんのユニットに入れてほしいから応募しました」みたいに言われても、それは私の欲望ではないから……。ユニット作って売れたいって欲望でZOCを作ったわけじゃないから。欲望がないと続けられないからそこは有り難いけど、難しい。

小林 大森さんはいい意味で無自覚な子をチョイスするじゃないですか。非戦略的な子が何人も入ってて、それがいいなぁって思いますね。しょうもないピースしてる写真の子とか。

大森 うん、大好き。

小林 本音を言うと、応募してくれる人を待ってるだけじゃなく、街にいる人とかお店にいる人もどんどんスカウトしたいんですよ。ほんと声かけたいなぁって思うんです毎日。

大森 いるよねぇ。

小林 一日一人はいます。時には駅の一回の乗り換えだけで三人くらいいます……病気かもしれません。

大森 わかる。この前あまりに感動して小林さんに写真送ったことあった。電車で作業服着てたんですよ。ドアにもたれて、すごい無自覚な美人が。

小林 美人だけどむしろ申し訳なさそうで居場所のない感じがあって。

大森 いいよねぇ。

小林 そういう人は絶対自分でエントリーしないですから。だからスカウトキャラバンできないかなあと思うんですよね。できないかなあ。

■落とすのではなく、残すオーディション

――最後に、今年またミスiDがあると仮定して、受けようと考えている女の子にアドバイスをお願いします。 

吉田 書類を見る側から意見を言うと、最初の写真と自己PRの何行かが一番重要で。だから、せめて最初に目につく部分に引っかかりを作って欲しい。せめて写真はちゃんと撮ろう。主張することもちゃんとしよう。ってことですよね。最初の引っかかりががあったら下までスクロールするけど、それがなかったら読み飛ばされちゃうんですよ。

大森 昔、自分がオーディションに履歴書を送ってた時のことを思い出すと、本当の自分を書かないといけない、詐欺しちゃダメ、平均点の証明写真を送らないといけない、と思い込んでいたんですけど、全然それはそんなことなくて。別に嘘でもいいからベストの写真を送った方がいい。ハッとさせてほしい。

小林 書類は会うまでの期待の持続感をどう作るか、なので、ある程度の嘘はついてもOKだと思います。でも会ってがっかりだとそれで終わりなので、そこは自分でどういう自分を作れるかですね。

吉田 悲しいのはツイッターに飛ぶと鍵垢だったりする確率が多いことです。

大森 私、ブロックされてました(笑)

吉田 ボクもされてました(笑)。

小林 受けるオーディションの選考委員をブロックするなんて、すごい度胸ですよ。

吉田 あと、今までに何度も出ているような名前を名乗るのはやめたほうがいいです。平仮名で、よくある名字だけとか。

小林 カメラテストでも面接でもなるべく紙に書いた文を読むのもやめたほうがいいかなと。感情がどうしても乗りにくいので、生感が消えちゃう。死んでしまいます。

吉田 あとはカメラテストで何かを食べるのも毎回全員失敗してます。

小林 時間が持たないからと言うんですが、まずよっぽど面白くなければふつうに喋ってくれたほうがいいですね。あと、フリップ芸でおもしろくなる確率は異常に低いのでよく考えてから。

大森 水野しず以外おもしろかった記憶ないかも。

吉田 下読みの段階からしっかり見ないといけないおそろしいオーディションじゃないですか。応募総数がかなりあって、それを審査員も全部見るのは本当に大変で。ふつうなら審査員が見る前の段階で、まず駄目そうな人を大幅に振り落とすものなんですけど、それがないオーディションはまずないし、それだけ多くの人間がチェックしても書類を見落とす子がいるわけですよ。

小林 たしかにそうなんですよね。

吉田 結局、会わないとわからない魅力がある人がいるんですよ。あと、カメラテストでも最終面接でも「こんなに時間とって、ちゃんと話を聞いてくれたのははじめてだ」と驚く子が毎回いるんですが、ふつうのオーディションがどれだけ時間が短くて、どれだけチェック漏れしてるんだってことですよね。

大森 一人一人違うから違う感覚を出して見るのですごく疲れるけど。

吉田 疲れますよ。その上で「文句のある人は会いに来てください」まで通用してしまうオーディションは他にないです。

小林 今回から選考委員をお願いした音楽ジャーナリストの鹿野淳さんが、面接終わったトイレで「いろんなオーディションやってきたけど、オーディションって落とすものだって思ってたのね。それがミスiDは、選ぶ側が全員でいいところを引き出そうとしてるのに、最初びっくりして。落とすんじゃなく、残そうとしてるのかって。カルチャーショックでしたよ」と言ってくれたんですが、逆にそうなのか、と思って。考えてみればへんなオーディションなんだなと。

吉田 受かれば即何者かになれるってオーディションでもないので、自力でなにかを見つけて育つ、そのきっかけ作りの場でもあると思います。

小林 雑誌の専属モデルになりたいとか、どこかに事務所に入りたいって人は、ミスiDなんか受けずまっすぐにそっちを受けた方がいいです。時間の無駄なので。

吉田 寺嶋由芙(ミスiD2014)さんが「ミスiDはシェルターだ」という言い方をしてたんですけど、何かあった人とかが人生を変えるきっかけにはしやすい場所だと思います。まず逃げ込むでもいい。だからたとえばアイドルグループを辞めた人は受けるのにピッタリで。近くにいるよくわからない大人を頼るしかない状況は一番危険だったりするので、そこから一歩踏み出すきっかけにしてもらえれば。

大森 それはあるよね。広い世界を見るのって意外と難しいから。

小林 ゆうこす(菅本裕子・ミスiD2016準グランプリ)みたいに、才能はあってもどこに向かえばいいかわからないようなグツグツとしたマグマが蠢いてる人も、ぜひ。

吉田 スキャンダル・ロンダリングにももってこいの場ですよね。とりあえずリセットされるので。オーディションでなかったことにできるなんて普通あり得ないので。

大森 とにかくどこにも自分の居場所がないなと思ってる人。居場所は必ずどこかにあるので、あきらめないで。

小林 どんなにヘンと言われてても大丈夫。可能性が少しでもある人はできればみんな拾いたいんです。

大森 まあ実行委委員長が一番頭おかしいから、ほんとに誰でも大丈夫(笑)。

 

  • プロインタビュアー吉田豪

    東京生まれのプロインタビュアー。以前、寺嶋由芙さんが「ミスiDはシェルターみたいなもの」と言ってたんですけど、ボクも「ミスiDは、アイドルとしてはグループ活動などですでに人気があったり、ちゃんと事務所に入っていて売りだされていたりで、放っておいても成功しそうな人より、いろいろと鬱屈したものを抱えていたり、いろいろあってグループを辞めた元アイドルであったりとか、ここでしか評価されなさそうな人のほうが有利なオーディションであって欲しい」と思っていて、そんなモットーで審査してます。ミスiD2014・2015・2016・2017・2018選考委員

  • 超歌手大森靖子

    新少女世代言葉の魔術師。超歌手。弾切れも気にせず畳み掛けるように言葉を撃ちまくるジェットコースターみたいな弾き語りや、時にギターすら持たないアカペラによる空間制圧型ライブの評判が広がりメジャーデビュー。ARABAKI ROCK FES2014からはじまりTOKYO IDOL FESTIVAL、フジロック、ロックインジャパンなど垣根なく出演、音楽の中ならどこへでも行ける通行切符を持つ唯一のアーティストとなり、本来の実力と演奏により着実に動員を増やしていく。メジャーデビュー直後2014年11月26日、道重さゆみさんモーニング娘。卒業、2017年道重再生するやいなや大森靖子自身体調も気分もお人柄もよく大絶賛音楽活動中。斬新と不思議と諦念とワガママと創造と焦燥に生きるかわいい女の子とおっさんLOVE。一方、アイドルを中心に多くの楽曲提供やエッセイ本『超歌手』(毎日新聞出版)の刊行等、多方面に渡り才能を発揮。7/11にはアルバム「クソカワPARTY」が発売と、10月~超歌手 大森靖子「クソカワPARTY」 TOURを全国13箇所行脚。最終公演では2019年47都市ツアー開催を発表した。ミスiD2015・2016・2017・2018選考委員

  • ミスiD実行委員長小林司

    講談社編集者/ミスiD実行委員長。女性誌、男性誌の編集を経て、「妄撮®」シリーズから、『水原希子フォトブック KIKO』『二階堂ふみフォトブック 進級できるかな。』『玉城ティナフォトブック Tina』など、女の子モノ企画を幅広く手がけ、2012年「ミスiD」を立ち上げる。現在、フライデーデジタルチーム所属。ミスiD2013・2014・2015・2016・2017・2018選考委員

  • 取材・文成馬零一写真飯田えりか

Photo Gallary7

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