<figure id="attachment_268325" aria-describedby="caption-attachment-268325" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c1be95c6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/L1002607.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-268325" class="wp-caption-text">戦闘が続く交通の要衝・クピャンスクの中心地。橋の向こう側はいまだにロシア軍の支配下に置かれている</figcaption></figure>
<p>ロシア軍がドネツク州への補給の拠点としていたハルキウ州イジューム。９月10日にウクライナ軍の攻撃を受けて、街を占拠していたロシア軍は退却した。私はウクライナ軍の案内で解放直後のイジュームへ入った。州都ハルキウから車で南下し、イジュームの街に近づく。それにつれて道路の路肩には、もぬけの殻になったロシア軍の検問所、破壊され黒焦げになったロシア軍の戦車や装甲車が放置されているのが目につく。</p>
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<p>イジューム市議によると、ロシア軍に占領されていた約５ヵ月間で１０００人の住民が犠牲になったという。無惨に殺された遺体の埋葬地はイジュームの北に位置する森の中にあった。地面に掘られた塹壕や戦車壕、かつてのロシア軍陣地を横目に通り過ぎると、木立の中に無数に盛り土が並んでいた。白い防護服を身につけたウクライナ軍兵士や警察官たちが埋められた遺体の掘り起こし作業を行っている。</p>
<p>シャベルを使い、汗だくになり作業をする兵士。1.5ｍほど掘ると地中から靴を履(は)いた足が見えた。さらに掘り進めると布に包まれた遺体が現れる。慎重に布を解くと強烈な腐敗臭が鼻をつき、顔の判別のつかない着衣の男性の遺体が姿を見せた。マスク姿の検査官が写真を撮り、ＤＮＡ鑑定のために遺体からサンプルを採取する。隣には腐敗が進み、かろうじて人間の原形を留(とど)めているに過ぎない女性物の衣服を着た遺体が地面に置かれている。女性検査官が慣れた手つきでＤＮＡの採取を行っている。同じような遺体が次から次へと掘り出されていた。</p>
<p><span class="strongInContent">「遺体を一体一体、掘り起こして死亡理由を調べる必要があります。すでに虐待や拷問を受けたと思われる遺体も発見されています」</span></p>
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<p>戦争犯罪調査官はそう語った。</p>
<p>この日は445人の遺体が確認された。手首を結束バンドで縛られた状態のものや、子供の遺体までもが見つかった。</p>
<p>イジュームには複数の尋問・拷問施設があり、その一つには警察署が使われていた。当局に案内されて地下室に向かうと、そこには尋問に使われていた椅子があり、テーブルには木の棍棒やガスマスクが無造作に置いてある。ガスマスクは自白させる際に窒息寸前の状態にさせるために使われたという。イジュームにはロシア軍による住民への暴力の痕跡が至る所に残されていた。集団埋葬地、拷問部屋で見た凄惨な光景が私の脳裏に染み付き、いまだに忘れることができない。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="いつ被弾してもおかしくない生活"></div>
<h2>いつ被弾するかわからない</h2>
<p>私はロシア軍の占領から解放されたばかりのクピャンスクに、支援物資を届ける援助団体と共に入った。かつては賑(にぎ)わいを見せていたであろう街の通りには人の姿がない。迫撃砲の音が断続的に聞こえるのは、街から30㎞東にはロシア軍の陣地があり、今も激しい戦闘が続いているからだ。</p>
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<p>ハルキウ州の東部に位置するクピャンスクはロシア軍の兵站(へいたん)の生命線である鉄道２路線が交差する要所だ。ウクライナ軍がクピャンスクを奪還したことでハルキウ州の要所・イジュームへの補給路が断たれ、ハルキウ州のロシア軍が総崩れになった。たった数日間で６０００平方キロメートルという広大な占領地を奪還したのは戦史に残る反転攻勢だと言われている。</p>
<p>この日のクピャンスク訪問は援助団体による食料などの支援物資の配布、戦火を避けて親族などが住むハルキウへ避難する住民のサポートを行うのが目的だ。５階建てのアパートに住む母親と13歳の娘は砲撃音に怯えながら、持てるだけの荷物と飼い猫を連れてハルキウへ避難するという。</p>
<p><span class="strongInContent">「年老いた両親はこの街から離れたくないというのです。何とか一緒に連れて行きたかったのですが、子供を守るために避難を決めました」（母親）</span></p>
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<p>ロシア軍からの解放後は電気や水道は使えず、戦闘が継続されていることから食料などの物資の物流も止まっている。住民はいつ被弾してもおかしくない状況で厳しい生活を強いられている。</p>
<p>ハルキウ州からドネツク州までの広範囲からロシア軍が撤退したため、多くの元ロシア軍陣地を目にした。州境にある広大な耕作地の防風林の中には撤退の際にロシア兵が設置した地雷や仕掛け爆弾が残されている。それらに細心の注意を払い、前日の豪雨で泥濘(ぬかるみ)化した前哨基地に足を踏み入れる。ここには６日前までロシア軍が駐留していたとのことだが、食べかけのパンがカビていないことから逃げ出して間もないことがわかる。</p>
<p>狭い陣地に掘られた塹壕は、切り倒した木で屋根を補強してあるものの、榴弾砲ならば簡単に破壊されるようなものだ。ロシア兵たちは狭い塹壕の中で身を寄せ合いながらウクライナ軍の砲撃に耐えていたのだろう。周囲には缶詰の空き缶が散乱しており、新鮮な肉や野菜のゴミは見当たらないことから、補給が滞りいかに兵士の食料事情が悪いかを物語っている。こんな劣悪な環境では兵士の士気が下がるのは当然だろう。</p>
<p>プーチン大統領は予備役の部分的動員を発令し、ロシア国内では抗議デモや国外へ逃げる若者が相次いで、大混乱が起きている。ロシアが４州の併合宣言をした直後にウクライナ軍はドネツク州の要所・リマンを奪還し、更なる領土回復を目指して前進している。満足な装備も支給されず、簡単な軍事訓練を受けただけの召集兵たちが、最新の武器を装備し、士気の高いウクライナ軍を相手に再び占領地を奪還できるとは到底考えられない。</p>
<figure id="attachment_268322" aria-describedby="caption-attachment-268322" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e2220d6d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC0493.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-268322" class="wp-caption-text">虐殺遺体が埋められているイジュームの埋葬地。戦争犯罪調査官らによる拷問の確認作業が行われていた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_268327" aria-describedby="caption-attachment-268327" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="78a1f121"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/L1003001.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-268327" class="wp-caption-text">腐食が進み原形を留めていない遺体からDNAを採取する検査官。ブチャを超える数の虐殺遺体が見つかった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_268323" aria-describedby="caption-attachment-268323" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="aa644181"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC0617.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-268323" class="wp-caption-text">掘り起こした穴から靴を履いたままの遺体の足の部分がのぞいていた。すべての遺体は衣服を着て靴を履いた状態だった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_268326" aria-describedby="caption-attachment-268326" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="fa732c03"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/L1002637.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-268326" class="wp-caption-text">クピャンスクに住む、13歳の少女。ロシア軍の占領から解放されるも、いまだに砲撃に怯えて暮らしていた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_268324" aria-describedby="caption-attachment-268324" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="01107baf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC1567.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-268324" class="wp-caption-text">ウクライナ軍の機甲部隊。ハルキウ州からロシア軍を駆逐し、ドネツク州の更なる解放に向けて進軍している</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2022年10月21日号より</p>


横田 徹（報道カメラマン）

ウクライナ軍がロシア軍から奪還したハルキウ州イジューム。解放されたその土地では１０００人の犠牲者が見つかり、中には拷問の末に殺された遺体も…。今もすぐ近くで砲弾が鳴り響く中、現状をリポートした――。

“奪還された街”イジューム集団埋葬地の「400体超腐敗遺体」

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