独占直撃! 地面師事件・カミンスカス操 「フィリピン収監生活」

取材・文/ノンフィクションライター・水谷竹秀

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手錠を掛けられ、入管職員に連行されるカミンスカス操容疑者(日刊まにら新聞)

檻の向こうの中庭に突っ立っていたその男は、白い野球帽をかぶり、サングラスを掛けていた。服装は光沢系の青いノースリーブシャツに短パン、サンダル履きだ。他にたむろしている外国人たちはざっと50人ほど。たとえて言うならば、動物園の広い檻の中に、多数の人間が閉じ込められているような感じだ。じっとりとした蒸し暑さの中、家族と面会する者、椅子に座って仲間と話をする者、奥のビリヤードテーブルで遊びに興じている者もいる。

私が中庭に入り、別の収監者と話をしていると、その男はどういうわけか目の前までふらっと歩いてきた。私は思わず声を掛けた。

「カミンスカスさんですか?」

男は瞬時に表情を曇らせた。

「誰だ? 何なの?」

ここはフィリピンの首都・マニラの南部にある、入国管理局の外国人収監施設。積水ハウスが約63億円をだまし取られた巨額詐欺事件、いわゆる「地面師事件」の主犯格・カミンスカス操容疑者(59)が収監されている場所だ。収監者は現在、男女合わせて約280人。国籍別では中国人、韓国人などが多く、日本人はカミンカス容疑者を含めて男性12人が収監されている。

偽造有印私文書行使などの疑いで警視庁から国際手配されていたカミンスカス容疑者は、’18年10月にフィリピンに入国した。潜伏場所については、歓楽街があるルソン島パンパンガ州アンヘレス市のホテルとの情報があるが、はっきりしていない。12月19日にマニラで逮捕されて以降は、日本への強制送還に向けた手続きが完了するまで、この施設で一時的に収監されている。

年の瀬も押し迫った12月27日、私はカミンスカス容疑者とは別の収監者への取材のため、この入管施設を訪れていた。面会場所で目当ての収監者との接見を行っていると、カミンスカス容疑者が様子をうかがいにきたのだ。

私は収監者との接見を中断し、カミンスカス容疑者に対して身元を明らかにした。「記者」という肩書を聞いた途端、彼は怪訝な表情を浮かべ、こうまくしたてた。

「俺は取材を一切受けない。何もしゃべらない。写真なんか取るなよ。このやり取りを記事にしたら訴えるからな!」

そう言ってカミンスカス容疑者は私を指さした。歳の割には声が若く、シャープな顎をしている。肌ツヤも良く、収監による疲れはまったく感じられない。

私は「日本ではあなたが主犯格として報道されている。言いたいことがあるのでは?」と水を向けてみたが、カミンスカス容疑者は頑なだった。

「しかるべきところで主張するから(お前には)関係ない。だいたい、別の収監者を通じて俺に近づこうとしたんだろ! 汚い方法を使いやがって」

それでも食い下がろうとすると、堪忍袋の緒が切れたのか、こう返してきた。

「入管の職員にいまから言いつけるぞ。勝手に取材で入って来たって。分かったな?」

カミンスカス容疑者は周囲を見回し、対応してくれそうな入管職員を探し始めた。面倒なことになりそうだったので引き下がると、カミンスカス容疑者は私に背を向け、その場を立ち去った。

逮捕されたカミンスカス操容疑者は終始、険しい表情だった(日刊まにら新聞)

はたしてカミンスカス容疑者はいま、施設でどのような暮らしをしているのか。容疑者と共にこの入管施設に収容されている男性収監者に話を聞くと、彼の“豪華すぎる生活”を明かしてくれた。

「いつもあんな感じで人に食ってかかるんですよ。カミンスカスさんは2〜3日で送還っていう約束で大使館(在フィリピン日本大使館)に出頭したそうなんですけど、実現しなかった。このままだと年を越しちゃうので『約束が違う!』と大使館に怒りまくっています。『年内に(日本の)公判に出廷したかった』『俺は無罪だ! (積水からだまし取った)カネには触っていない』と、周りの収監者にもまくしたてていますよ」

この男性収監者によると、カミンスカス容疑者はカネの力によって施設内で特別待遇を受けているという。フィリピンの刑務所や収監施設などでは、権力者や富豪が収監されると、職員への賄賂と引き替えに「VIP待遇」を受けられる腐敗体質が続いてきた。2年半前にドゥテルテ政権が発足して以来、この体質は改善されたと言われるが、内実はあまり変わっていないようだ。男性収監者が続ける。

「私はおカネがないから床で寝ていますが、カミンスカスさんの場合は、最初からベッドが用意されていました。カネが動いているのがわかるでしょ? 施設で出される質素な食事は一切食べず、カネで外部から調達しています。この収監施設に到着した日は、入管職員たちにマクドナルドのバーガーセットを振る舞っていました」

積水ハウスがだまし取られた63億円の行方は、これまでのところわかっていない。報道によると、カミンスカス容疑者はフィリピン入国時に少なくとも500ユーロ札100枚(約640万円)を持ち込んだとされるが、拘束時の所持金は日本円換算で360万円だったという。男性収監者は言葉を継ぎ、不敵な笑みを浮かべた。

「カミンスカスさん、実は施設内でもっとすごいことやっているんですよ。詳しくは彼が送還されたら教えてあげます。ヒントはカネと女が関係していますね」

カミンスカス容疑者は19年1月に日本に移送される予定。事件の全容解明にはまだ時間がかかりそうだ。

カミンスカス操容疑者が収監されている入管施設のゲート
  • 取材・文水谷竹秀

    ノンフィクションライター。1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。近著に『だから、居場所が欲しかった。』(集英社)

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