ハイテク機器で、作業時間は5分程…高級車窃盗「驚きの最新手口」

高級車のコンピュータシステムをハッキングするという新手の手法を使った窃盗犯が逮捕された。

埼玉県警捜査3課などの合同捜査班によって10月6日に逮捕されたのは、千葉県市原市に住む、自称・自営業の渡辺功二容疑者（38）と、無職の奈良部哲子容疑者（46）。2人は今年4月14日、千葉県習志野市内の月ぎめ駐車場でトヨタの350万円相当のレクサス1台を盗んだ疑いが持たれている。

「車は施錠されていましたが、窃盗犯は車の外部から特殊な電子機器を使って車のコンピュータシステムに侵入。システムを乗っ取り、鍵を開け、エンジンをかけて車を持ち去ったようです。渡辺容疑者は今年5月に、別の窃盗事件でも逮捕、起訴されています。他にも余罪が数十件あると見られており、県警は慎重に捜査を進めています」（全国紙社会部記者）

今回の犯行に用いられた電子機器というのは「CANインベーダー」と呼ばれるものだ。ここ数年、この最新機器を用いた犯罪が増加しているという。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏が解説する。

「少し前だと『リレーアタック』と呼ばれる手法が高級車窃盗の主流でした。近年の車のカギは、電波を出すことでドアに触れるだけでロックを解除できるものが増えていますが、その微弱な電波を増幅、さらには中継して、駐車場にある車を盗む手口です。しかしカギから出る電波を遮断すれば盗難は防げるので、金属ケースに入れるなど対策をするようになり『リレーアタック』は急速に通用しなくなっていったのです」

そこに登場したのが「CANインベーダー」だ。「リレーアタック」のようにカギから出る電波を利用するのではなく、バンパーを外すなどして車の外から配線に接続して、車の動作を制御するコンピュータシステムに侵入するハッキング電子機器だ。5分もあれば車を自在に動かせるようになるので、このツールがあると一日に何台もの車を盗むことが可能なのだという。加藤氏が続ける。

「CANインベーダーの存在が分かったのは4〜5年前です。『リレーアタック』対策をしていたのに盗られてしまったレクサスがあったのです。運よく発見されたその車をトヨタが1〜2か月預かって原因を調べたんですね。そうしたらこれまでにない手法で盗まれていたことが分かった。それが『CANインベーダー』です。この時メーカー関係者の間で『大変なことになった。新しいタイプのトヨタ車はこのやり方で全部盗られてしまう』と大騒ぎになったということなんですが、実際に盗難を防ぐのは今でもかなり困難です」

自動車の窃盗件数は、新型コロナの影響で海外との人的往来、物流が困難だったことが影響してか2020年〜2021年は減少していたが、今年に入ってから急増している。警察庁によると今年の1～8月の自動車盗難認知件数は3805件で、昨年1年間の3286件をすでに上回っているのである。さらに窃盗件数が増えていくことが予測される不安な事実がある。

「実は『CANインベーダー』は海外のサイトで誰でも購入することができるんです。私も取材のためにそのサイトに『日本に発送できますか？』と問い合わせたら『全然大丈夫ですよ。これまで何回も日本に送っているよ』と返信が来ました」（加藤氏）

実際に当該のサイトを見てみると、今回の事件で使われたものと同一タイプの「CANインベーダー」が90万円弱で販売されていた。さらに「トヨタ/レクサス: スマートキー 88、A8、A9、AA を備えたすべての新しい2015-2021 モデルがサポートされています」と記され、詳しい説明書まで同封されているという。

対策方法としては車のセキュリティーショップで販売している精度の高い防犯アラームを付けてもらうことが有効だ。またGPSやApple製の紛失防止タグ『エアタグ』を複数個、車に入れておくことも効果的である。

今年8月には「CANインベーダー」を使ったと思われる高級車の窃盗団5人が逮捕されているが、盗まれたとみられる高級車は約200台、金額的には10億円以上と大変な被害だ。本腰を入れた対応が待たれるところである。