北朝鮮”狡猾な金正恩”が強行する「実戦的核ミサイル部隊訓練」 | FRIDAYデジタル

北朝鮮”狡猾な金正恩”が強行する「実戦的核ミサイル部隊訓練」

「世襲独裁者・正恩の狡猾すぎるやり口」〜軍事ジャーナリスト・黒井文太郎緊急レポート

<ウクライナ動乱に乗じて核戦力強化に邁進する金正恩の狡猾さが際立ってきた。10日に北朝鮮国営メディアで発表された写真は、世界の軍事アナリスト、ジャーナリストを驚愕させた。黒井文太郎氏が緊急レポートする。>

金正恩は「優秀すぎる」。相次ぐ北朝鮮のミサイル発射は、すべて彼の狡猾な作戦によるのだ… 写真提供:Korean Central News Agency/Korea News Service/AP/アフロ
金正恩は「優秀すぎる」。相次ぐ北朝鮮のミサイル発射は、すべて彼の狡猾な作戦によるのだ… 写真提供:Korean Central News Agency/Korea News Service/AP/アフロ

北朝鮮は9月から10月にかけて、集中的にミサイル発射を行った。これまで一連の発射の詳細について北朝鮮からの発表はなかったのだが、10月10日、国営メディア「労働新聞」「朝鮮中央通信」が、これらの発射について公式な声明を報じ、同時に大量の写真を掲載した。

その内容は、実に驚くべきものだった。以下にその概要を列記する。

水中からミサイルを発射

①ダム貯水池から水中発射核ミサイル

9月25日の短距離ミサイルは、なんとダム貯水池からの発射訓練だった。発射されたのは、低高度を跳躍・滑空して飛行する短距離弾道ミサイル「KN-23」水中発射型。短距離なので標的は韓国に限られるが、低高度を変則軌道で飛ぶことにより、ミサイル防衛を回避することを狙ったものだ。

また、水中に潜むことで、有事に米韓軍からの攻撃から生き残ることを狙っているものとみられる。なお、このミサイルは2021年10月にすでに潜水艦からの発射実験を行っており、新型ミサイルというわけではない。

日本上空を飛び越えたミサイル

②日本を飛び越えたのは新型ミサイルだった

10月4日に日本を飛び越えた中距離ミサイルについて「新型地対地中・長距離弾道ミサイル」と発表。これまで撃ったことのない新型ということだった。写真をみると、すでに何度も発射して実戦配備を宣言していた中距離弾道ミサイル「火星12」と大きさはほぼ同じだが、ロケット噴射部分の制御の仕組みが異なっており、さらに弾頭の形状も違っていた。何らかの改良を施したものと推測される。

③短距離ミサイルは核ミサイル部隊の実戦的訓練

上記2回を含め、9月25日から10月9日までの7回のミサイル発射を「戦術核運用部隊の発射訓練」と明記し、一連の発射を対米の核抑止力強化と位置づけている。つまり、対韓国用の短距離ミサイルを運用する部隊も核部隊とし、しかも実戦を想定して訓練する段階に達しているというのだ。

ただし、全7回のうち上記2回を引いた計5回の短距離ミサイル発射訓練のなかで「核ミサイル運用訓練」と明記したのは1回のみ、他の4回については核とは明記されていない。そのため、一連の全部隊を核ミサイル部隊としながらも、現時点ではおそらく核爆弾の重量から、一部の短距離ミサイルのみが実用的な核ミサイルと位置付けられている可能性が高い。

核爆弾の小型化成功か

もっとも、北朝鮮は2022年4月、新型の小型短距離弾道ミサイルを発射しており、その際に核搭載用だと発表している。つまり、核爆弾の小型化にある程度の目途が立っている可能性がある。

これらの情報のうち、軍事的な脅威として注目されるのは、やはり核戦力だ。

北朝鮮の中・長距離弾道ミサイルは対米抑止の戦力として、もとより核搭載を前提として開発されてきたが、韓国を射程に収める短距離ミサイルは比較的小型なものが多かった。しかし、それらの短距離ミサイルを運用する部隊も核運用部隊としている。核爆弾の小型化をさらに進め、多種類の短距離ミサイルを核ミサイルとしても使えるようにしていく計画と思われる。

こうした金正恩のやり方をみると、やはり核爆弾の小型化を実証する核実験までがセットのようにみえる。小型化することで戦術核運用部隊の戦力は大幅に強化されるからだ。

金正恩は2021年1月に国防5カ年計画を発表し、野心的な核戦力の強化を宣言しているが、そこで最重要なのが、やはり核実験だ。金正恩は2022年1月、しばらく凍結していた核・ICBM実験の再開を事実上、宣言している。

また、翌2月にロシアがウクライナに侵攻し、ロシアと米国が明確に敵対関係に入ると、その直後から豊渓里核実験場の3番坑道の復旧工事を加速し、6月頃までに完了。続いて4番坑道の復旧にも着手した。すでにいつでも核実験が可能とみられる。

正恩は「わかっている」

今回の10月10日の北朝鮮の声明では、米韓日の軍事演習を非難している。とくに米国を批判し、その米国の脅威に対するために自分たちも核抑止力を上げる必要があると自己正当化しているのだ。

しかし、前述した2021年1月の5カ年計画、2020年1月の核・ICBM実験再開宣言など、金正恩の言動を振り返ると、おそらく米韓日の軍事演習などは口実にすぎず、仮にそれがなくても北朝鮮は今回のようなミサイル発射訓練を行っただろう。核ミサイル部隊の実戦的な訓練は、金正恩が掲げた対米核戦力強化で通過する当然のステップだからだ。

しかも、前述したように現在はウクライナの状況から、北朝鮮にとっては米国の圧力をかわす都合のいい状況が生まれている。

こうしてみると、金正恩はべつに嘘をついているわけではなく、自分の言葉で宣言したことを着々と進めている。そして、国際情勢の動向につけ込んで、独裁政権生き残りを賭けた核ミサイルの実戦的な戦力化に急速に成功し続けている。

同じ独裁者でも、たとえばロシアのプ―チン大統領は、現在、自分のある種の「強い思い」を優先して判断を誤り、ロシアを苦境に立たせているが、それに比べると世襲で独裁者になった金正恩のほうが、自己保身のためにきわめて悪い意味で「合理的」で、狡猾である。

  • 取材・文黒井文太郎
  • 写真提供Korean Central News Agency/Korea News Service/AP/アフロ

黒井 文太郎

軍事ジャーナリスト

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