1976年、宮崎県生まれ。高校野球やオリンピックなど幅広く取材。著書に第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『永遠のPL学園』（小学館文庫）など

柳川 悠二

<h2>無名選手からドラ１候補に</h2>
<p>10月20日のドラフト会議を前に、12球団の中で真っ先に１位指名選手を公表したのは巨人だった。その選手は、高松商業（香川）の外野手、浅野翔吾――。</p>
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<h3>高松商業高・浅野翔吾　17［ 外野手 ］</h3>
<figure id="attachment_269267" aria-describedby="caption-attachment-269267" style="width: 2308px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="756d6d1a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/c74d9a91d7b9037674a75716fd57c2e6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269267" class="wp-caption-text">身長171㎝と上背はないが、パワーは超高校生級。スイッチヒッターの長距離打者としてプロの熱視線を集める</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「選ばれるのか、選ばれないのか、心配していましたので、今はちょっと安心感があります。ただ……ほんとに指名していただけるのでしょうか（笑）」</span></p>
<p>運命の日を間近に控えた浅野は、２年半を過ごしたグラウンドで、嬉々として話した。高校通算本塁打は68本。今夏の甲子園では近江（滋賀）の山田陽翔（はると）から特大の一発をバックスクリーンに運ぶなど、３本塁打を放った。171センチと上背はないが、走攻守がそろった原石だ。Ｕ-18野球Ｗ杯ではメキシコ戦で本塁打を記録し、木製バットも苦にしないところをアピールした。本来は右打者だが、公式戦では左打席に立ったこともある。</p>
<p><span class="strongInContent">「最初は身体のバランスを整えるために左でバットを振ってみただけなんですけど、試合で左打席に入ると打てたので、それなら（スイッチヒッターに）チャレンジしてみようと。まず右でしっかり打てるようになってからですが、プロでもいずれスイッチになってプレースタイルの幅を広げたい」</span></p>
<p>筋骨隆々の肉体で、ベンチプレスはＭＡＸで115㎏、スクワットでは200㎏のバーベルを担ぐという。そんな浅野がグローブに刺繡する文字は「獅子奮迅」だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「気持ちを奮い立たせて、グラウンドではライオンのように走り回る。プロでもそういう気持ちで臨みたいです」</span></p>
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<p>浅野と共に今ドラフトの目玉とされているのが、日本体育大の”二刀流”矢澤宏太だ。北海道日本ハムがいち早く指名を公にした。藤嶺（とうれい）藤沢高（神奈川）時代は甲子園の経験もなく無名選手で、プロ志望届も提出したが指名漏れ。しかし、大学進学直後から野手として注目を集め、３年生になると左の剛速球投手としてもプロのスカウトが熱視線を送るまでに成長した。ＭＡＸは152㎞。鋭い腕の振りで、スライダーにチェンジアップ、ツーシームと、ストライクゾーンを幅広く使って空振りを誘うのが出色（しゅっしょく）だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「（大学生が相手だと）ゾーンにある程度自分のボールを集められれば、簡単に抑えられる。今まで打者を圧倒して、三振を取るというスタイルでやって来ましたが、（プロを見据えて）ある程度、変化しなければいけないところもある」</span></p>
<p>今秋は背中の張りを訴え、登板を回避する試合もあったが、10月１日の首都大学野球・武蔵大戦では、全勝の首位を相手に好投して勝利を呼び込んだ。翌日は４番ＤＨで出場、４打数２安打と躍動した。</p>
<p><span class="strongInContent">「ピンチになるまではテンポ良く、ある程度打たせて野手に守ってもらって、攻撃にリズムをつなげることを考えて投げました。打つほうでは、すべての打席で内容が伴うように意識していますね」</span></p>
<p>ドラフト１位でプロへ――。そのための４年間だった。マウンドで使用するグローブは晴れやかなブルーの特注品だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「日体大カラーで、この秋だけ使っています。プロでも三振を狙う時にはしっかり取れるピッチャーを目指したい」</span></p>
<p>投手としてだけでなく、プロ入り後も二刀流は貫く方針だ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="根尾昴らと過ごした大阪桐蔭時代"></div>
<h2>夢を語り合った夜</h2>
<p>ドラフト候補者の中で、華々しい実績を誇るのが立教大の二塁手で主将の山田健太。大阪桐蔭時代は藤原恭大（きょうた）（千葉ロッテ）や根尾昂（あきら）（中日）ら高校からプロに進んだ４人の仲間と共に甲子園春夏連覇（’18年）を達成した。筆者は当時、「大阪桐蔭のジャニーズ系」と山田のことを称していたが（定着することはなかった）、大学４年間を過ごしてより精悍さが増した印象だ。</p>
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<p><span class="strongInContent">「ついにここまで来たなという感じです。眠れないということはないし、緊張もない。今はリーグ戦に集中しています」</span></p>
<p>大学４年間で打率.302、９本塁打を記録し、大学日本代表にも選出された。だが本人は、「もう一皮、二皮むけて、プロに臨みたかったというのが本音」と話す。</p>
<p><span class="strongInContent">「とくにバッティングでうまくいかないことがたくさんあった。本塁打も欲を言えばもう少し打ちたかった。試行錯誤の連続でしたね。それはこれからも変わらないと思いますが……」</span></p>
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<p>藤原や根尾のほか、柿木蓮（れん）（北海道日本ハム）や横川凱（がい）（巨人）ら大阪桐蔭の同級生は一軍に定着できず苦闘が続く。一方、山田が出場した10月４日の東京六大学リーグ・法大戦には、山田の地元・愛知を本拠地とする中日の立浪和義監督が視察に訪れ、根尾と再び同じユニフォームを着る可能性も出てきた。</p>
<p><span class="strongInContent">「高校時代を一緒に過ごして、彼らの凄さは肌で感じていた。そんな彼らでもなかなか活躍できていないということで、改めてプロが厳しい世界であることを痛感します。お客さんに自分のプレーを見たいと思ってもらえるような、スケールのでかい選手になりたいです」</span></p>
<p>近年、数多の選手をプロに送り込んでいる山田の母校・大阪桐蔭では、今年も３人の選手がプロ志望届を出した。捕手の松尾汐恩、中堅手の海老根優大、エース右腕の川原嗣貴（しき）だ。</p>
<p>中でも上位で指名されそうなのが松尾。昨秋の神宮大会、今年の春夏甲子園、そして国体と、全ての大会で本塁打を記録した。もともと遊撃手として大阪桐蔭に進学したものの、捕手出身の西谷浩一監督が松尾の適性を見抜き、１年秋に転向。中学時代に日本代表歴のある先輩たちを控えに追いやり、扇の要（かなめ）として常勝軍団を支えた。</p>
<p>今夏の甲子園こそベスト８に終わったものの、国体を制して三冠に輝いた松尾は充足感にみなぎる表情をしていた。</p>
<p><span class="strongInContent">「最後まで笑顔で終われてホンマに良かったです。ようやくキャッチャーの面白さもわかってきたような気がします」</span></p>
<p>国体期間中、出場校の選手たちは同じホテルに宿泊した。夜には松尾や浅野、山田陽翔など世代を代表するドラフト候補たちが呉越同舟し、夢を語らいながら素振りに励んだという。</p>
<p><span class="strongInContent">「浅野って、僕のことが大好きで、よう近寄ってくるんですよ（笑）。一緒に練習することでみんなの良い所を盗みたかった。特に浅野のボールの飛ばし方ですよね。あいつは踏み込んだ時に軸がぶれず、自分のポイントでボールを捉えることができる。参考にさせてもらってます」</span></p>
<p>その素振り会場にはもうひとり”大物”がいた。九州学院（熊本）の村上慶太だ。今季56本塁打を放ったヤクルト・村上宗隆の弟である。同じ右投げ左打ちで、国体１回戦の聖光学院（福島）戦では全国の舞台で初めて本塁打を記録。兄の勇姿がダブる逆方向への一発だった。</p>
<p><span class="strongInContent">「全方向に長打が打てるのが自分の強み。自分は金属よりも木製のほうが飛ぶ。昨年12月にムネ兄に相談すると、『可能性があるなら挑戦しろ』と言われて、覚悟を決めました。小学生の頃からプロに行きたいと夢見ていた。育成では行かないです。支配下だけ」</span></p>
<p>兄と同じチームで戦いたい。つまりヤクルトが意中の球団であることも付け加えた。</p>
<p>村上同様、支配下のみの姿勢で運命の日を待つのが京大の水口（みなくち）創太だ。関西学生野球連盟の関西学院戦が行われた10月３日、終盤のマウンドに上がった水口の直球の球速が電光掲示板にはほとんど表示されなかった。194㎝という長身から投げ下ろすスピードボールには、球場のスピードガンが対応しきれないのかもしれない。</p>
<p><span class="strongInContent">「そうかもしれませんね（笑）。先発タイプではない自分にとっては、背丈とボールの角度が一番武器ですよね」</span></p>
<p>水口が学ぶ医学部では主にリハビリなどを専攻とし、「ケガへの対処や、普段の筋トレでもその知識が役立つ」と話す。水口のアップシューズには大きな穴が空いていた。コンディションの管理だけでなく、モノを大事にする人柄が表れている気がしてならなかった。</p>
<p>歩みは十人十色でも、同じ志を持った彼らの運命の日はもう間もなくだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="ドラフト候補たちの秘蔵ショット"></div>
<h3>日体大・矢澤宏太　22［ 投手 ］</h3>
<p>投手だけでなく野手としても評価が高い。日ハムが指名を宣言しており、大谷以来の”二刀流”が期待される。</p>
<figure id="attachment_269269" aria-describedby="caption-attachment-269269" style="width: 1808px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="74e93221"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/230c2d4e42723734819b9584b0575f3e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269269" class="wp-caption-text">日体大・矢澤宏太　22［ 投手 ］</figcaption></figure>
<h3>立教大・山田健太　22［ 内野手 ］</h3>
<p>大阪桐蔭時代には春夏連覇を経験。精悍なルックスから「貴公子」とも称されるが、性格はいたって謙虚だ。</p>
<figure id="attachment_269270" aria-describedby="caption-attachment-269270" style="width: 2304px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c75d31e1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/a4eb5c16855806cef9dc2ec5d76c9aee.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269270" class="wp-caption-text">立教大・山田健太　22［ 内野手 ］</figcaption></figure>
<h3>京都大・水口創太　23［ 投手 ］</h3>
<p>一浪して京大医学部に進学した秀才。身長194㎝から繰り出される剛速球で、京大野球部の躍進を牽引した。</p>
<figure id="attachment_269266" aria-describedby="caption-attachment-269266" style="width: 1869px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1cadb73b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/3efeee0bac07d83c64a8cc3196f00bd1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269266" class="wp-caption-text">京都大・水口創太　23［ 投手 ］</figcaption></figure>
<h3>大阪桐蔭高・松尾汐恩　18［ 捕手 ］</h3>
<p>今夏の甲子園で活躍し、プロ注目の選手に。「強打の捕手」へと育つ伸び代は十分にあり、上位指名もありうる。</p>
<figure id="attachment_269268" aria-describedby="caption-attachment-269268" style="width: 1833px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9597c066"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/1bd03ecd584033e737670e98ba71e084.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269268" class="wp-caption-text">大阪桐蔭高・松尾汐恩　18［ 捕手 ］</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2022年10月28日・11月4日号より</p>


柳川悠二

加藤 慶（浅野、水口）濱﨑慎治（矢澤、山田）

10月20日に迫る今年のプロ野球ドラフト会議。今夏の甲子園で活躍した球児や、大谷以来の”二刀流”が期待される選手まで…。候補生たちの中でも、プロも納得の注目選手たちをご紹介！

浅野、矢澤、松尾…「10・20」ドラフト１位候補を連続直撃！

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