ドラッグに暴力…作者が明かす異色漫画『地元最高！』誕生秘話

2022年10月31日

「北野武監督の暴力的な世界を女の子キャラだけで描きました。」

これまで、Ｔｗｉｔｔｅｒ上でアングラ界隈をテーマとしたイラストを発表してきたｕｓａｇｉ氏が『地元最高！』というアカウントを作成したのは’21年のこと。

そこで登場人物は全員かわいい女の子ながら「薬物」「貧困」「暴力」エピソードに溢れたマンガを投稿するや、アウトローな内容と小学生が描いたような絵のギャップが「クセになる」とたちまち話題沸騰。単行本出版に至った。

性別も年齢も非公開のこの作者は、なぜ急に異色マンガをアップし始めたのか。

「学生時代に友人とマンガを描いて出版社に持ち込んだことがあったんですけど、全然ダメだった。それ以降はイラストを描いていましたが、ふとまたマンガを描いてみようかなと思い立ったのです。

タイトルの『地元』は地方都市からも離れた田舎。車がなかったら生活できなくて、田んぼもちょくちょくある。服を買う場所は近所のイオンしかない――。そんな場所をイメージしています。

アニメ『けいおん！』では、暇を持て余した女の子たちがバンドを組みますよね。でも、実際に田舎で女の子が集まって起きるのは、明るいことだけじゃない。地元から出たことがないし、出られない彼女たちの環境を『地元最高！』というタイトルで表現しました」

日常系マンガによく見られる楽しい内容ではなく、閉塞感のある日々に着目した作品だが、作中で生々しい隠語や不穏な言葉を発する女の子たちの多くは身近な人物がモデルなのだとか。

「主人公の紗音琉(しゃねる)ちゃんのモデルとなっているのは実は男性なんです。象徴的なキャラクターにするために、見た目は全身ピンクで、髪型は金髪のツインテール。妹の名前は可子(ここ)ちゃんにしました。

紗音琉ちゃんたちを束ねる姉貴分の紅麗亞(くれあ)さんは見た目も中身も私の知人の恋人がモデルですね。知人が恋人とステーキを食べに行った際、普通に会話をしていたら彼女が急にキレて、フォークを彼の手にぶっ刺したという話を聞いて、暴力で人を支配する紅麗亞さんというキャラクターが誕生しました」

アウトローマンガでは、まずお目にかかれないデフォルメされた可愛らしいイラスト。そこにはより恐怖を引きたてるための工夫があると言う。

「鳥山明作品が好きで、昔、私が描いていたマンガの絵柄はそちらに寄っていました。しかし、今回は暴力や薬物などがベースのテーマになっているので、その対極にある絵柄がいいだろうと、子供が描く絵を画像検索して、それっぽく描く練習をしました（笑）。あえて１コマだけ繊細に描くこともありますが、それは先人から学びました。藤子不二雄Ａ先生や赤塚不二夫先生はそうやって恐怖や笑いを引き出していたんです。その技法を参考にしました」

ノンフィクション作品を多く手掛けてきた担当編集と取材に赴くこともある。

「『そのクスリは遊べるけど、大事なものたくさん落としちゃうから気をつけてね』というセリフがあるんですけど、これは実際に取材の際、自分が聞いた言葉です。拾ったものや盗品を路上で販売している売り手の男性に言われました。印象に残っている発言はそのまま使用しています。そうすることで作品に生々しさが生まれますよね」

取材と実体験の比は約７：３。暴力描写は世界に誇る巨匠の影響を受けている。

「北野武監督の暴力的な世界を、女の子キャラだけで描いている感覚ですかね。たけしさんってテレビではお笑い芸人としてふざけているのに、映画作品ではバイオレンスな内容を描いているのがすごく怖い。

私は北野映画の中でも特に『ソナチネ』が好きなんですよ。笑顔なのに次の瞬間には相手に銃口を向けているあの感じ。いつ殺し合いが起きてもおかしくない、死の香りがずっと漂っている緊張感が最高です。突発的な暴力描写や、静かなアクション……。

自分の作品にもあの空気感を出せたらと。紅麗亞さんと敵対するキャラがぶつかるシーンでもハデに殴り飛ばすのではなく、鈍い音のする頭突きを入れるなど地味でも現実的な描写を意識しています」

世間はコンプライアンスにうるさいが、『地元最高！』は、今後「ますます作品の治安が悪化する」という。

「まだ、この作品は半グレのような女の子しか登場していません。今後は、ヤクザも登場させたいですね。それこそ’80年代頃の、フライデー襲撃事件の時のカミソリのような怖さがあったたけしさんみたいな女の子がいいかもしれません」

居心地が良い反面、地元から抜け出せない彼女たちは今日も「地元最高！」と言いながら、裏社会へ沈んでゆく。ｕｓａｇｉ氏のネタが尽きることはない。