柿澤勇人・舞台の貴公子の想い「死ぬ気でやってきたから今がある」

「スポーツ推薦で高校に入り、全国大会に向けて朝から晩までサッカーをしていました。芸能界にはまったく興味がありませんでしたね。転機となったのは、課外授業で観た劇団四季の『ライオンキング』。人間の声や身体の動きが作り出す空間に、こんなにも魅了されるのかと衝撃でした。あの課外授業がなかったら、僕は役者になっていなかった」

『鎌倉殿の13人』で源実朝(みなもとのさねとも)役を熱演。脚本を担当する三谷幸喜（61）から「思い描いた実朝がここにいます」と絶賛された俳優の柿澤勇人（35）。

曽祖父と祖父が浄瑠璃と三味線の人間国宝という芸能一家に生まれ、『春のめざめ』や『ライオンキング』など代表的な舞台作品に出演。その美麗な風貌と演技から「舞台の貴公子」と呼ばれている柿澤が、俳優を志したのは19歳の時だった。

「大学１年の夏休みに、劇団四季の養成所に飛び込みました。研究生は90人くらいいましたが、歌唱や踊りのテストをパスして、１年後に残ったのは半分でした。同期は音大卒とか、バレエコンクールの入賞者の強者ばかり。ずぶの素人だった僕は、みんなが寝ている間に必死で練習するしか生き残る方法がなかった。そんな姿が目に入ったのか、四季の会長だった浅利慶太さんが『お前、あの役を練習しておけよ、明日やってもらうから』と声をかけてくださることがあったんです。突然の指名でも必死に食らいつきました。浅利さんは『最後は根性だ』と毎日のように言っておられた。あの方に関われたのは本当に幸運でした。19歳から死に物狂いで仕事と向き合ってきたことが今の自分を作っていると思います」

’16年、主演舞台の一幕序盤でアキレス腱を断裂。誰もが休演を覚悟したが、柿澤は残る３公演をやり切った。

「バチーンって筋が切れる感覚があって、『あ、これはやってしまったな』と思いました。足首がペロンペロンで力が入らない。普通は絶対休演なんですが、座長に土下座して、残り２日の東京公演だけはケンケンでやり切らせていただきました。次に予定されていた大阪公演にも出るつもりで演出の岸谷五朗さんに泣きながら『やらせてください』と電話したら、『ここで無理したら足が使い物にならなくなって、役者人生終わるぞ』と説得されて……『俺はここで終わってもいいんだ！』くらいの気持ちでしたが、演出家や共演者からしてみたら迷惑な話ですよね。人間追い詰められたらなんでもできるんだと思いました（笑）」

今秋、ミュージカル『東京ラブストーリー』で主演の永尾完治役をつとめる。

「僕自身、恋愛では振り回されることが多いので、カンチ役には入りやすいです（笑）。あの『東京ラブストーリー』がどうミュージカルになるのか未知数ですが、海外でも上演されるような和製ミュージカルの代表作にしていきたいですね」

恋愛作品であっても、柿澤はやはりストイックに向き合うのだろう。

『FRIDAY』2022年10月28日・11月4日号より