<figure id="attachment_270152" aria-describedby="caption-attachment-270152" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bad8db71"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/2018070901002.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270152" class="wp-caption-text">新型コロナウイルス感染拡大前のアメリカ・ニューヨークのマンハッタン南西部でアパートで配達員が仕分け作業中。一人で運び込む荷物が多いのは世界共通だ（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<p>欲しかったものが手に入るのは、誰でも嬉しいものだ。それが一晩や一日で届くとなれば、配達員から荷物を受け取るときの笑顔は一段と明るくなる。しかし、その喜びを届ける配達員の心と体はどうなのだろうーー。</p>
<p>３年近くアマゾンの配送を担う足立進さん（仮名、40代）は業務に携わる人の間でかわされるこんな言葉を教えてくれた。</p>
<p><span class="strongInContent">「（アマゾン業務は）ラストワンマイルが一番きつい」</span></p>
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<p>「ラストワンマイル」とは、クリックひとつで商品が注文されてからそれが届け先に到着するまでの最終区間、配送センターから配達されるまでという意味だ。</p>
<p>足立さんがアマゾンの荷物を配達するようになったのは2020年１月。コロナ感染の拡大で全国的に在宅勤務が推進されて以来、アマゾン・ドット・コムをはじめとする通販の利用が急増した。</p>
<p>前年に神奈川県横須賀市にアマゾンの配送センターが開設され、日本の輸送会社も参入した。もともと車の運転が好きで、若い頃には奨学金を受けながら新聞配達をやっていた経験があった足立さんは、土地感覚を把握して効率よく配達するノウハウを持っていた。知り合いが２次下請け会社を立ち上げたと聞き、さっそくアマゾン商品を配達する仕事を請け負った。</p>
<p>経験も適性もある足立さんには当初、「むしろ、もらいすぎるくらい」日当がよかったと言う。</p>
<p>ドライバーとしての契約は雇用ではなく、いわゆる個人事業主、フリーランスだ。配送用の車は１日1000円（月３万円）で会社からリース借用している。配達ルートを頭に叩き込み、もっとも効率のよい順番に荷物を配送する。経験がある足立さんは、荷物の単価が170円だった当初は、休憩も十分に確保した勤務時間内で平均100個、繁忙期には120個ほどをさばいていた。</p>
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<p>2020年７月、会社は日当を18000円とし、１日の配達勤務を13時間、週60時間と変更。それまでは１日の荷量は多少なりとも変動があったため、日当が固定されることで安定収入につながると喜んだ。</p>
<p>ところが１年後にアマゾンがAIを導入してから、状況は激変した。コロナ感染拡大の中で、13時間内で配達すべき荷物の個数が増加。気がつくと荷量は増えつづけ、ついには200を超した。荷物の単価は半減したことになる。</p>
<p>配送センターから午前便の荷物を運び入れては住宅に届け、午後３時までには一旦センターに戻って午後の分を積み込む。朝８時に出勤してから夜９時まで、昼休憩１時間を加味して配達時間として換算されているが、実際は昼食を取る暇もなければ一息つく余裕もなく、ドライバーはひたすらパッケージを届けては車に乗り、次へと移動することを続ける。</p>
<p>次の宅配場所まで移動して荷物をスキャンし、呼び鈴を鳴らして１個を届けるのに、単純計算してもおよそ４分ですべての作業を終了させなければならない。もちろん、届け先は隣接しているわけではなく、時にはエレベーターのないアパートの５階に重い荷物を運ばなければならないこともある。足立さんは切実さをこう訴える。</p>
<p><span class="strongInContent">「『13時間配達している』と聞くとわかりづらいかもしれませんが、実際は休みなしに車の乗り降りを続けているんです。あずかった荷物はなんとか時間内に終わらせようと思って必死にやっている」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="自らのスマホに記録していた足立さんの勤務実態"></div>
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<figure id="attachment_270153" aria-describedby="caption-attachment-270153" style="width: 2808px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="df94ac3d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/IMG-6099.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270153" class="wp-caption-text">足立さんが自らのエクセルに残していた勤務時間。１日13時間を下回る日はほとんどない</figcaption></figure>
<p>ドライバーの配達動向は秒単位で管理されるが、１件４分では到底終わらない。それでもその日の分の配達は、何時になっても終わらせなければという思いが強い。</p>
<p>それは、会社に対する忠誠心なのかーー。</p>
<p>足立さんは、むしろ<span class="strongInContent">「お客さんが待っていることに応えようとする気持ちからだ」</span>と言う。</p>
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<h3>実際の荷物の重さと重量表示が一致しないラベル</h3>
<p>とはいえ、毎日13時間、場合によってはそれ以上の時間を休憩なしに配達しつづけていれば、１日が終わる頃には心身ともに「ぐったりする」。笑顔が消えるだけでなく、配達員は配達最終時間と設定されている夜９時を回ってしまった訪問先には、頭を下げて許しを乞う。</p>
<p>配達ルートも、実車経験がないAIが計算して決めていた。一方通行や鉄道の踏切り、工事現場での迂回などは加味されない。最近は、ルートは人間が決めるようになったものの、配達時間は固定されたまま、人々の需要に応じて物量は増える一方だ。</p>
<p>時間調整する「のりしろ」といえば、車の速度をあげること。遅れを取り戻そうとするドライバーは、半ば脅迫観念に駆られて交通事故が頻発する。非常に危険な労働環境なのだ。イギリス映画界の巨匠ケン・ローチの作品『家族を想う時』は、まさにアマゾンの配送ドライバーの働き方そのままを反映している。</p>
<p>足立さんはこうした危険な労働のあり方を変えようと、６月、他10人の仲間たちとともに「アマゾン配達員組合横須賀支部」を結成。そのあと９月には労働相談活動などをきっかけに、長崎市でも15人のドライバーが立ち上がり、「長崎支部」ができた。</p>
<p>組合はさっそく２次下請け会社と団体交渉を要請。配達用アプリ「ラビット」を通じて、アマゾンからの直接的な業務指示を受け、労務管理がされていることから、偽装請負の可能性を指摘すると同時に、配送量の適正化による長時間労働の是正などを要求した。</p>
<p>こうした労働組合の追及により、別の新たな衝撃実態が判明した。一人当たり週の労働時間が60時間を超過する場合、会社が他人のコードを使用するよう指示していたことが明らかになったのだ。</p>
<p>個人コードは、出退勤の時間管理や位置情報、業務の進捗状況などを把握するために、会社が各配達員に付与している。ところが60時間を超えたドライバーに関しては、退職者など他人のコードを利用するよう指示していたという。</p>
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<p>さらに、別の労働災害にも発展するような問題も浮上している。組合員によると、実際の荷物の重さと重量表示が一致しないラベルが確認されているという。</p>
<p>中には、「0.0キログラム」と印字のあるラベルが箱に貼付されているケースや、「team lifting（チームリフティング）」の混入も見られるため、組合では説明を求めている。「チームリフティング」を必要とする25キロ以上の荷物に関しては重量がかさむことから、文字通り複数人で作業するよう指示書きがあるはずだが、配達員は常に単独業務だ。</p>
<p>また、輸送トラックには積載量の上限が決められているため、重量ラベルが適正に記載されないことによる過積載は、ブレーキやハンドリングにも影響し交通事故も誘発しかねない。</p>
<p>長時間の車の運転を強いられる配達員の多くは、腰痛や関節痛、頚椎の歪みなどが深刻で、歩行が困難になるほど腰痛が重症化することもあるという。加えて、トラックの荷台から箱をつかんで出すという繰り返しの中で、手の指の腱鞘炎にも悩む。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="１日の荷量は200個から250個へ増加か"></div>
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<figure id="attachment_270155" aria-describedby="caption-attachment-270155" style="width: 802px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e4937ea9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/2022061308565.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270155" class="wp-caption-text">６月、アマゾンジャパン本社を訪問後、気勢をあげる「東京ユニオン・アマゾン配達員組合横須賀支部」の組合員ら（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<p>足立さんたちが組織する労働組合は、２次下請け会社と業務委託契約を結ぶ「アマゾンジャパン合同会社」に対してもこれらの要求について団体交渉を申し入れているが、<span class="strongInContent">会社は「配達員とは直接的な雇用関係にない」と回答</span>し、交渉には応じていない。</p>
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<h3>アマゾンジャパンの言い分</h3>
<p>アマゾンジャパンは、さらなる荷量の増加を予定しており、１日の配達を、現在の200個から250個へ変更することを検討しているとの話も聞こえてくるが、配達員の荷量は今よりもさらに増えてしまうのか。アマゾンジャパンに質問状を送ると「具体的な質問に対してはコメントを控えさせていただきます」と明言を避けた。</p>
<p>さらに<span class="strongInContent">「お客様のご要望に沿えるようAmazonの商品を配送してくださるドライバーの方々に、Amazonは深く感謝しております。ドライバーの方々は、Amazonの委託先配送業者であるデリバリー・サービス・パートナー（以下DSP）のもとで配送業務を行っており、Amazonの従業員ではありません」</span>と直接雇用している社員ではないことを訴えた上で、こう続けた。</p>
<p><span class="strongInContent">「AmazonではすべてのDSPと協力し、DSPやドライバーが業務に対して過度のプレッシャーを感じないよう配慮するとともに、DSPに対して安全な働く環境を整えること、関連法規やAmazonの基準を遵守することを求めています。Amazonの基準などを遵守していないことが確認された場合は、適切に対処いたします」</span></p>
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<p>業務に対して過度のプレッシャーを感じないように配慮していれば、ノルマを達成するため遅れを取り戻そうとするドライバーが、半ば脅迫観念に駆られたことによって発生する交通事故は減らせると思うのだが……。</p>
<p>複数の労働問題が早期に是正されることを願いつつ働く足立さんは、アマゾン利用者に向けて「ラストワンマイル」に意識を向けてほしいと訴える。</p>
<p><span class="strongInContent">「自分が欲しいものの裏で何が起こっているか、それがどうやって届くのかーー。いろんな人の命や生活がかかっているということを考えてもらえたら嬉しい」</span></p>
<figure id="attachment_270209" aria-describedby="caption-attachment-270209" style="width: 527px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cd734ef6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/d4da8a896d797d62bd76f37b5d1715bf.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270209" class="wp-caption-text">労働組合への取材に基づき作成したアマゾンの商品配送を巡る下請け構造（画像：共同通信）</figcaption></figure>


ジャーナリスト。人権や労働など社会的正義に関する問題を主に取材する。共著に『マスコミ・セクハラ白書』（文藝春秋）、『マンガでわかるブラック企業』（合同出版）など、共同翻訳には『ストする中国』（彩流社）があり、２０２１年１月に共同翻訳『世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』（明石書店）を出版

松元ちえ

欲しいものがクリックひとつで欲しい日時に届くのは嬉しい。その喜びを届ける配達員は、お客さんの期待に応えようとする思いと会社からの見えない重圧で心と体のバランスが崩れた。配達員の切実な思いを届ける。

組合を結成した配達員がアマゾンに向けて訴える「悲痛な現実」

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