<p>10月2日16時5分（現地時間）、バケツをひっくり返したような土砂降りの中、フランスのパリにあるロンシャン競馬場で世界的なビッグレースである凱旋門賞（GI、芝2400m）が行われた。</p>
<figure id="attachment_270222" aria-describedby="caption-attachment-270222" style="width: 8640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="345fe814"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_200185751.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270222" class="wp-caption-text">2022　凱旋門賞で日本馬は惨敗した（写真/アフロ）</figcaption></figure>
<p>近年、日本調教場はドバイ・ワールドカップなど世界各国の最高格付けのレースであるGIで大活躍をみせているが、いまだこの凱旋門賞は優勝できていない。</p>
<p>2022年は4頭の日本調教馬がチャレンジしたが、いずれも敗退。果敢に先行したタイトルホルダーは直線で失速して11着。春にサウジアラビアとドバイで芝の長距離重賞を勝っていたステイフーリッシュは14着、2年連続でチャレンジしたディープボンドは18着、本年のダービー馬であるドウデュースは19着に終わった。</p>
<p>日本調教馬がまだ制していない世界的なビッグレースは他にイギリスのダービー、アメリカのケンタッキーダービー、ブリーダーズカップクラシックなどがあるが、この凱旋門賞だけはとりわけ執着が強い。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>その理由は、凱旋門賞を制した馬こそが世界の古馬の芝のレースのトップであり、世界的な権威を持つと考えられているからだ。それゆえ、日本の関係者の中で誰が最初に凱旋門賞を制するのか!?と、競っているようにみえる。</p>
<p>実際、さまざまな陣営がそれぞれのエース級の馬でチャレンジしている。しかし、最高着順は2着。エルコンドルパサー(1999年)、ナカヤマフェスタ(2010年)、オルフェーヴル(2012年、2013年）の健闘は日本の競馬ファンの記憶には熱く焼き付いており、毎年凱旋門賞が行われる10月の第1日曜日の深夜に日本馬のチャレンジが叶わなかった度に、この3頭の偉大さを思い出しながら唇を噛みしめる。そして、&#8221;どのような馬なら凱旋門賞を勝てるのか？&#8221;という議論を繰り返すのが恒例行事となってしまった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<div data-friday-nextpage-lead="日本調教場が凱旋門賞で勝てない3つの理由"></div>
<p>この&#8221;凱旋門賞反省会&#8221;の中で必ず話題にのぼるのは、馬場適性だ。スピードに重きを置く日本競馬とタフさが要求される欧州競馬は異質なため、日本馬で実績のある馬でも適性がないのでは？と言われている。</p>
<p>ロンシャン競馬場の芝はペレニアルライグラスという品種の洋芝だ。日本で洋芝は寒冷地の札幌、函館で使われている。洋芝は地中に根を張り、地上に茎や葉が生えている。また、茎が地表でとぐろをまくように絡みついているため、地面が柔らかい。</p>
<p>一方、日本で主流の野芝はクローバーやイチゴのように地面と並行にほふく茎と呼ばれる茎が伸び、そこから地面に垂直方向に茎や葉が出ている。野芝のほふく茎は地中に張り巡らされるため、地面が硬い。</p>
<p>このように同じ芝でも生え方が全く違うため、その上を走る馬たちへもたらす影響は大きい。ロンシャン競馬場をはじめとした欧州の馬場はタフさが要求され、日本の馬場はスピードが要求されると言われる理由はここにある。</p>
<p>さらに、そこへ水分が加わると、体感はさらに異質なものになっていく。凱旋門賞の馬場状態はここ2年は連続して&#8221;重&#8221;と、含水率が高く、柔らかい馬場だった。では、その分パワーが要求されるようになったのか、といえば確かにそうなのだが、一口にそれだけでは片づけられないようでもある。</p>
<p>凱旋門賞のあとにロンシャン競馬場で行われたフォレ賞(GI)というレースがあるが、2年連続で日本調教馬のエントシャイデン(矢作厩舎)が出走してともに3着に健闘している。フォレ賞は芝1400m戦であり走ったコースの起伏は違うが、馬場状態は凱旋門賞とほぼ同じと見てよいだろう。エントシャイデンは父がディープインパクトで日本では重賞を勝ったことがなく、道悪競馬が得意ではない。しかし、2年とも&#8221;重&#8221;だったロンシャンの馬場では入着を果たすのだ。</p>
<p>ロンシャンと日本では、同じ芝でも明らかに異質である、と言ってよさそうだ。</p>
<p>芝の質だけではなく、傾斜も違う。凱旋門賞の芝コースのスタートから400mは平坦だが、向こう正面から高低差は10mの上り坂。3コーナー過ぎからは600mの下り坂に転じる。その後、&#8221;偽りの直線(フォルスストレート)&#8221;と呼ばれる最終直線の前のまっすぐなコースを250m走り、さらに最後の直線を533m走る。</p>
<p>凱旋門賞の高低差は数字上では日本でいちばん高低差が多い中山競馬場の5.3mのほぼ倍なのだが、構成される内容が違う。中山の場合は下り坂は1コーナー付近から約100m、次に2コーナー付近から約600m、ゴール手前400mから200m付近までに3つにわかれており中間にある直線部分も含めて1400mで構成されている。その後に残り180mから70m地点にかけて高低差2.2m、勾配2.24％の上り坂を走る。</p>
<p>上り坂も厳しいが、一定のスピードを保って走る下り坂があるのが凱旋門賞の厳しさでもある。もともと競走馬は走るフォームからも下り坂は得意としない、と競走馬の研究機関も考察している。多くの日本のトレーニング施設は人工的に作られており、上り坂による負荷を考えて設計されている。つまり、日本では下り坂を一定スピードで走るトレーニングは想定されていない。しかし、欧州では広大な自然な傾斜を利用して調教が行われている。人工的に坂路やコースを作った中での調教と、ランダムな起伏のある調教場では結果的に鍛えられる部位に差が出ても不思議ではない。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>そして、血統にも差があるとみられている。馬の配合は選ばれた血を何度も掛け合わせた上で、需要があるものだけが残っていく。血を残す戦いも、実に過酷なゲームだ。主戦場に合わせた配合を繰り返せば、それぞれに個性が際立って当然だ。</p>
<p>凱旋門賞で2回の2着を記録したオルフェーヴルは父がステイゴールド。母の父がメジロマックイーンだ。メジロマックイーンは昭和の名門・メジロ牧場が執念でつくりあげた血統である。メジロアサマやメジロティターンなどに受け継がれた血で、3200mの天皇賞を獲るのを大目標に掲げており、その集大成がメジロマックイーンだったのだ。</p>
<p>メジロマックイーンの名は最近では人気ゲーム「ウマ娘　プリティーダービー」のキャラクターですっかりおなじみとなった。ゲームの中では薄い紫色の髪色の名家のお嬢様キャラ。自らを「わたくし」と呼ぶなど、普段はおしとやかな言葉遣いをたしなむが、レースとなると一変、「やぁぁぁぁ！」となりふり構わず叫びながら力強くゴールを目指す。</p>
<p>いまではメジロマックイーンといえば、そんな彼女の姿を思い出す方が多いだろう。しかし、昭和62年生まれの競走馬・メジロマックイーンは平成2年の菊花賞を制したクラシックホースであり、平成3年、4年に父と祖父と同じ3200mの天皇賞(春)を勝ち、父系3代天皇賞制覇という偉業を成した歴史的名馬なのだ。</p>
<p>そして、騎乗していた武豊騎手はメジロマックイーンを「スタミナが半端なかったし、道悪もいいし、スピードもある。レースにも注文があまりつかなかった」と高く評価しており、凱旋門賞に挑戦してみたかった過去の名馬の1頭にマックイーンの名もあげていたほどだ。</p>
<p>しかし、時代は流れ、日本では長距離よりスピード競馬に重きが置かれるようになり、メジロ牧場はオーナーの意向で閉場した。日本競馬全体の印象として、軽く速い血が残りやすくなっており、重くタフな血が要求される凱旋門賞の傾向とは離れているようにみえる。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<div data-friday-nextpage-lead="日本の競走馬の血統は劣っているわけではない"></div>
<p>ここまでを読んで、日本の血統は世界と比べて劣っていると考える人もいるかもしれないが、実際はそうではない。日本の血統は世界的にみても非常に優秀であり、続々と世界の名血を取り入れて改良を続けている。</p>
<p>また、歴史的にはトニービン、ラムタラ、エリシオ、バゴといった凱旋門賞をとった馬を輸入して種付けさせており、日本にいる馬の配合の中から、凱旋門賞馬が誕生する可能性は十分にある。</p>
<p>とはいえ、ここまで熱心に凱旋門賞を目指す必要もないのではないか、という考え方もある。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>確かに凱旋門賞は世界の最高峰レースのひとつだが、先述のとおり、改良を重ねてスピード重視で育成されている日本調教馬が伝統とタフさを重んじる凱旋門賞にチャレンジする必要もないのではないか。日本調教馬の適性をそのまま生かせるドバイや香港で勝てれば十分ではないか、というものだ。</p>
<p>筆者もこの意見に同意なのだが「日本の馬主で誰が最初に凱旋門賞を勝つのか」というゲームが止まるとは、とても思えない。競馬はいろんな楽しみ方があるが、地位も名誉もすでにお持ちの馬主の方々にとって「世界的権威を最初に手に入れるゲーム」が面白くないわけがないだろう。</p>
<p>JRAは凱旋門賞のチャレンジには一定の条件を満たしたJRA所属馬の馬主に500万から1000万円の海外遠征協力金を設定するというかたちで支援をしている。しかし、2022年の場合ならディープボンドとステイフーリッシュは対象外だ。それを承知で、特にディープボンドについては2年連続でチャレンジを続けていることからも、“日本調教馬初の凱旋門賞制覇”への強い想いが伺える。</p>
<p>すでに2023年の凱旋門賞制覇に向けてのゲームは始まっている。このようにあらゆる角度からそれぞれの目線で楽しめるからこそ、競馬は面白いのだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>


ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着した競馬評論家

花岡

10月2日16時5分（現地時間）、バケツをひっくり返したような土砂降りの中、フランスのパリにあるロンシャン競馬場で世界的なビッグレースである凱旋門賞（GI、芝2400m）が行われた。 2022　凱旋門

【凱旋門賞】日本馬勝利の鍵はウマ娘化した「昭和の名馬」にアリ？

あなたへのオススメ

関連記事