士気低下の兵が自傷、銃は旧ソ連製…ロシア「窮状打開」戦慄の一手
無傷のまま放置された戦車、無造作に置かれた砲弾や医薬品……。
ウクライナの東部戦線では、ロシア軍の窮状がうかがえる。手つかずの武器弾薬が、あちこちに散乱。兵士たちが、戦わずして逃げたことがわかるという。
「英国の国防相によると、ロシア軍の規律は相当低いようです。特に9月に発令された『予備役の部分的動員(動員令)』により招集された、兵士30万人の士気が下がっています。もともとウクライナとの紛争参加に積極的でないどころか、あからさまに反発し見せしめのため前線に送られた人もいるのですから。
ウクライナに投入された兵士の多くは、20歳前後の若者です。中には上官の指示で演習のために戦地に赴いたものの、戦争の悲惨な現実を目の当たりにし精神面に異常をきたす兵士もいるとか。銃で自分の足を撃ち、祖国の病院への送還を望む兵も後を絶ちません」(全国紙国際部記者)
使用している武器も年代物のようだ。中には20年以上前に製造された古い銃や旧ソ連製のミサイルも。ウクライナ当局によると、学校や病院など国内の民間施設が攻撃を受けるのはロシアのミサイルの精度があまりに低いからだという。
会話は無線でなく携帯電話
ロシア情勢に詳しい、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が話す。
「ロシア軍の致命的な弱点は、通信能力の低さです。旧型の無線が機能しないため、兵士たちは自分のスマートフォンや携帯電話を使用。GPSの位置情報を傍受され、ウクライナ軍からピンポイントの攻撃を受けています」
一方のウクライナ軍が今年の7月から使用しているのが、米国から提供された高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」だ。射程が長く照準精度も高いため、ロシア軍の拠点を次々と破壊。東部戦線の要衝奪回の一因となっている。
「ロシアのプーチン大統領にとって衝撃だったのは、10月8日のクリミア大橋の爆破でしょう。クリミア半島とロシアを結ぶ重要な補給ルートで、18年5月の開通式にはプーチン大統領みずから大型トラックを運転して渡っています。橋が破壊されたことで、クリミア半島の実効支配が揺るぎかねないのです」(前出・記者)
クリミア半島は、14年3月に併合を宣言したロシアにとっては自分たちの領土だ。自国が攻撃されるとなれば、プーチン大統領も手段を選んではいられない。戦慄の一手に踏み切る可能性が高い。
「核兵器の使用です。ロシア国内では、最近の劣勢に強硬派からの批判が高まっています。プーチン大統領の忠実な協力者である、ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長さえ10月1日にこう発言しています。『なぜ核兵器を使わないんだ。思い切った措置を講じる必要があるだろう』と。
ロシア軍の劣勢は決定的です。プーチン大統領には、もう打つ手はほとんど残っていません。強硬派からの圧力に押され、窮状打開のために核のボタンを押す瞬間は刻一刻と迫っています」(同前)
追い込まれたプーチン大統領がどんな判断をするのか、世界が注目している。
写真:ロイター/アフロ