平成最後の紅白は“フェス”だった? | FRIDAYデジタル

平成最後の紅白は“フェス”だった?

指南役のエンタメのミカタ 第7回

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今年の紅白ではYOSHIKIの出演も話題になった
今年の紅白ではYOSHIKIの出演も話題になった

平成最後の紅白が放送されてから、今日で一週間が経つ。

もう、各所で散々語られている通り、近年まれに見るお茶の間が熱狂した紅白だった。クライマックスは、オーラスに登場したサザンオールスターズの2曲目「勝手にシンドバッド」のところ。ステージ後方に出場歌手たちがズラリと並び、みんなノリノリ。桑田サンの「サブちゃん!」の呼びかけに北島三郎サンが応じて、2人で「今、何時?」「そうね、だいたいね」の掛け合いをしたり、aikoに背中を押されたユーミンが飛び出して、桑田サンにキス(!)したり――。そこから2大スターの奇跡のような豪華セッションと、それはそれは夢のようなひと時だった。

今回、夜9時からの2部の平均視聴率は、前年(2017年)を2.1ポイント上回り、41.5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。もっとも、紅白の視聴率は例年40%前後で推移しており、誤差の範囲内とも言える。それよりも特筆すべきは、SNSの盛り上がりと高評価だ。今回、番組が終わった直後のツイッターのタイムラインは、ほぼ絶賛一色だった。

思い返せば、一週間前の大晦日の朝、僕は「平成の紅白に足りないのは視聴率ではなく、熱狂である」と題したコラムを書いたが、まさにその願望が実現して、正直驚いている。一体、何が平成最後の紅白に熱狂をもたらしたのか。

僕が最初に「あれ? 今年の紅白はいつもと違うぞ」と思ったのは、2部の冒頭だった。DA PUMPの「U.S.A.」である。ここでも出場歌手たちがステージ後方に並び、全員で“いいねダンス”を踊った。紅組の松田聖子サンも笑顔で踊った。歌手別視聴率では、この時点で1部の全歌手を上回る42.0%。幸先良いスタートダッシュとなった。

次に目立ったのは、2部の9番目に登場した三山ひろしサンの「いごっそ魂~けん玉世界記録への道、再び~」である。歌唱中に124人が連続してけん玉の「大皿」を成功させるギネス記録に挑むというもの。前年の紅白では失敗しており、リベンジとなった今回――見事に成功。その瞬間、会場が拍手と歓声で一体となった。歌手別視聴率は42.3%。この時点で、なんとトップである。

そして13番目には、特別ゲストの北島三郎サンが巨大な兜のセットに乗って登場。お馴染みの「まつり」を熱唱すると、これまたサザンの桑田サンを始め、出場歌手たちが大挙して「祭」と書かれたうちわを持って盛り上がった。

2部も後半に入ると、19番目にいよいよ松田聖子サンが登場する。「SEIKO DREAM MEDLEY 2018」と題したメドレーナンバーは、嬉しいことに「風立ちぬ」、「ハートのイヤリング」、「天国のキッス」、「渚のバルコニー」と、全てアイドル時代の楽曲だった。キーをかなり下げて歌ったところに、彼女の生歌への強いこだわりが感じられた。ちゃんと上手い。

そしてここから、紅白はオーラスに向かって怒涛の盛り上がりを見せる。

21番目には、椎名林檎サンと宮本浩次サンによる異色男女ユニットが登場。椎名サン曰く、この日のために1年がかりで構想した「獣ゆく細道」を披露する。荒ぶる「動」の宮本サンに対し、どこまでも「静」の椎名サンと、その対比は芸術的ですらあった。ちなみに、彼らのパフォーマンスは紅白の審査対象外だ。

続く22番目がユーミンである。「私が好きなユーミンのうた~紅白スペシャル~」と題して、披露された1曲目がデビュー曲の「ひこうき雲」。彼女はどこかの教会で歌っている。そして歌い終えたユーミンが歩いて向かった先が――なんとNHKホールのステージ。先の教会はスタジオのセットだったという粋なサプライズだ。会場は割れんばかりの拍手で、司会者や審査員、他の歌手たちも驚いている。2曲目は「やさしさに包まれたなら」である。

結局、彼女が選んだ楽曲は、いずれも荒井由実時代のものだったが、そこにもサプライズが隠されていた。バックで演奏するのは、キーボード・松任谷正隆、ドラムス・林立夫、ベース・小原礼、ギター・鈴木茂――そう、デビュー当時のユーミンのレコーディングに参加していたレジェンドたちだ。オリジナルのキーに苦しみながらも、かつての仲間たちに囲まれて歌うユーミンは幸せそうだった。

そして、紅白は最大の佳境を迎える。24番目、常々「テレビに出ない」と広言していた米津玄師サンが故郷・徳島から中継で登場、2018年最大のヒット曲「Lemon」を歌い上げた。幻想的なキャンドルに彩られた美術館で“テレビ初披露”される生歌は素晴らしかった。歌い終えた米津サンに、総合司会の内村サンが「米津さんが喋ってる!」と喜び、それに照れ笑いで返す姿も印象的だった。

トリ前となる25番目に登場したのはMISIAである。自身3回目となる紅白は、初のNHKホールの出演。ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)の主題歌「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」を披露するが、歌終わりに、まさかのサプライズ。突如、彼女のハイトーンボイスが鳴り響いたのだ――そう、1998年のデビュー曲「つつみ込むように…」のイントロである。予定外の楽曲披露に、場内は大喜び。圧巻は、ラストの17秒のノンブレスで、歌い終わった瞬間、彼女は大喝采で包まれた――。

――いかがだろう。こうして振り返ると、今回の熱狂を生んだ要因がなんとなく見えてくる。

1つは「NHKホール」だろう。サザン、ユーミン、MISIAなど、普段なら中継出演になりがちな大御所たちがステージで歌ってくれた。ユーミン曰く「平成最後のお祭りですから」。NHKホールでアーティストたちが生歌を披露する――正直、これに勝る熱狂はない。MISIAのパフォーマンスが中継だったら、あそこまで僕らは心を動かされただろうか。

2つ目は、皮肉にも「昭和」である。ユーミンもサザンも聖子サンも、昭和の名曲を披露してくれた。平成最後の紅白に、昭和。一見、矛盾しているように見えるが、こうは考えられないだろうか。平成最後の紅白だからこそ、あえて昭和や平成といった概念を取り払ったと。もう、これからはクロスオーバーの時代と。

そして、熱狂を生んだ3つ目の要因、それは「紅白のクロスオーバー」である。今回、ユーミンと桑田サンのセッションや、林檎サンと宮本サンのユニットなど、むしろ紅白が融合する姿に、お茶の間は熱狂した。これも時代だろう。そもそも紅白の両司会も、対決を煽るというよりは、総合司会も含めて4人で1つのチームを形成している印象だった。

前回のコラムで、僕は紅白に熱狂を取り戻すには、「紅白をフェスにすべき」と提言した。アーティストたちが聖地であるNHKホールに集い、打ち解け合い、1つのステージでセッションを楽しむべきだと。

結果として、今回の紅白の2部で見られたアーティストたちのパフォーマンスこそ、まさにフェスの姿を彷彿させるものだった。時代をクロスオーバーした楽曲構成も、老若男女を相手にするフェスに相応しく、お茶の間のツイッターが好意的に盛り上がったのも、SNSと相性のいいフェスを連想させた。そう、平成最後の紅白は――文字通り“フェス”だった。

最後に1つ。今年の、新しい元号の最初の紅白――昔のように夜9時スタートに戻していいんじゃないですかね。正直、平成最後の紅白も、2部だけで十分だったとも。1部は全体的に盛り上がりに欠けたし、企画コーナーはEテレの番宣臭が強く、チコちゃんを始めとする賑やかしの演出もかなり部分で滑っていた(出演者の問題というより、演出の問題ですね)。

紅白の2部制が始まったのは平成元年。だったら、平成の終わりと共に、2部制も終わっていいんじゃないですかね、NHKサン。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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