米でアマゾンを抜きトップに…謎のECアパレル「シーイン」の正体 | FRIDAYデジタル

米でアマゾンを抜きトップに…謎のECアパレル「シーイン」の正体

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アパレル業界人もその存在に気付かなかった「SHEIN(シーイン)」

ここ10年、世界的に急成長したアパレル企業は生まれず、同じような顔ぶれで拡大競争が繰り広げられてきたわけですが、コロナ禍が始まった2020年から突如として急成長ブランドが現れ、注目を集め始めました。それが「SHEIN(シーイン)」です。

アメリカでは昨年5月に最もダウンロードされたECアプリとしてAmazonを抜きトップになり、日本国内でも2021年ごろから盛んに経済系メディアやアパレル業界メディアで報じられるようになりました。これは、自分が知る限りにおいては、中国メディアによって5兆円規模の巨額の資金調達があったことが報じられたのを受けてのことです。それまでは国内のアパレル業界人、業界メディア人でも自分も含めてその存在すら知りませんでした。

工事が進む大阪のユニクロ心斎橋旗艦店跡地にオープンする日本初のSHEINのポップアップストア
工事が進む大阪のユニクロ心斎橋旗艦店跡地にオープンする日本初のSHEINのポップアップストア

「SHEIN」とは…

この媒体は業界メディアでも経済メディアでもないので、SHEINなど聞いたこともないという読者もたくさんおられるでしょうから、SHEINというブランドについてかなり大雑把にまとめておきます。

SHEINは2008年に中国で設立されたとされるブランドで、実店舗を持たずインターネットのみで衣料品を販売しています。我が国も含めた世界中の国に向けて販売していますが中国国内には販売していないとされています。2008年に創業され、当初はウェディング事業など、現在とは異なる事業を手掛けていたとされます。しかし上手く行かず事業転換を重ねた後、SNS経由の「アパレル直販事業」にシフトし、2015年にSHEINを立ち上げ、現在の事業となったといわれています。

すべて伝聞調で書いているのは、SHEINという会社は何一つとして公表されているものがないためです。また創業者のインタビュー記事どころか顔写真すら出回っていない謎のブランドなのです。

10月11日には、クレディセゾンから「SHEIN」のオリジナル特典の付いたスマホ完結型のクレジットカード「SAISON CARD Digital」の発行もリリースされた(株式会社クレディセゾンのプレスリリースより)
10月11日には、クレディセゾンから「SHEIN」のオリジナル特典の付いたスマホ完結型のクレジットカード「SAISON CARD Digital」の発行もリリースされた(株式会社クレディセゾンのプレスリリースより)

リブランディングからわずか7年間で「ユニクロ超え」

そして、ついに2022年秋には世界売上高が2兆8000億円に達したともいわれており、ユニクロを展開するファーストリテイリングの22年8月期連結の売上高が2兆3011億円だったため、我が国のメディアは今秋こぞって「ユニクロ超え」という見出しで記事を掲載することとなりました。

ただ、この2兆8000億円という売上高も公式に発表されたものではありませんので、伝聞という形にならざるを得ないのですが、2015年のリブランディングからわずか7年間で到達したことが事実だとしたら驚異的な成長速度だと言わねばなりません。それゆえに国内の経済メディア、業界メディアからも注目が集まっているというわけです。

TikTokなど若者世代向けのSNSを中心にステルス的に急成長

SHEINの特徴は圧倒的な低価格にあります。それとトレンド商品を企画してから投入するまでの速さです。一口に低価格と言っても様々なレベルがあるのですが、ジーユーと同等か少し安いくらいでしょうか。さらに言うなら、値引き品は激安になります。価格はジーユー並みでトレンド商品の投入速度はZARA並みというのが最も一般の方々にもわかりやすい比喩なのではないかと思います。

一説には、デザイン作成から商品投入まで3日間しかかからないという報道もあります(これも事実かどうか不明)が、通常の洋服作りだと、デザインしてからパターン(型紙)作り、それに基づいたサンプル製作、サンプルの修正を経て量産に入るので、3日間で完了することは考えられません。しかし、他社ブランド製品のいくつかをそのまま盗用しているとしたら不可能ではないでしょう。圧倒的な規模成長が取りざたされるSHEINですが、著作権の違反で訴えられることも増えています。

SHEINが2020年まであまり注目されないままに急速にブランド規模を拡大できたことはこれまでのファッションブランドと異なり、ほとんどの販促・告知をTikTokやインスタグラムをはじめとする若者世代が好むSNSのみに集中していたことが理由だと考えられています。例えば、オジサン・オバサン世代が愛用しているフェイスブックにはSHEINの告知や広告はほとんど登場しません。またこれまでの国内衣料品ブランドと異なり、ファッション雑誌にも掲載されませんでしたし、テレビコマーシャルもほとんど流れていませんでした。このため、ステルス的に主に国内外の若者の間に広がっていったのです。SHEINの急成長の源泉は日本国内での売れ行きよりもアメリカでの売れ行きが主でしょう。

筆者はこれまで断続的に8年間ファッション専門学校で非常勤講師をしてきましたが、昨年あたりからSHEINで買っている学生が増えてきました。ただ、学生たちの認識としてはSHEINというブランドを買っているというよりは、SHEINというネット通販モールでノーブランドの低価格衣料品を買っているという認識の方が強い感じです。言ってみれば、ZOZOや楽天というモールで、そこにネット出店している低価格ノーブランド衣料品を買うというイメージに近いといえます。

パリで行われたSHEINのプロモーション用写真の撮影風景。2021年の春夏コレクションでは、パリ出身の女性ラッパーWejdeneが起用された。TikTokを中心に人気の18歳だ(写真:アフロ)
パリで行われたSHEINのプロモーション用写真の撮影風景。2021年の春夏コレクションでは、パリ出身の女性ラッパーWejdeneが起用された。TikTokを中心に人気の18歳だ(写真:アフロ)

日本でもポップアップストアをオープン

そんなSHEINですが、今年10月22日から大阪のユニクロ心斎橋旗艦店跡地に3ヵ月くらいのポップアップストア(期間限定店)をオープンすることが明らかとなりました。すでに心斎橋旗艦店跡地にはその告知が貼り付けられています。ユニクロ心斎橋旗艦店は昨年8月に閉店したままずっと放置されていた物件ですが、初めて活用されます。建物は地下1階から地上4階までの5層構造ですが、SHEINは地上1階のみを使用するとのことです。

SHEINはすでに大阪に先駆けてアメリカでも期間限定店をオープンしており、ネット通販のみの売り方から実店舗の取り組みも模索し始めています。ネット通販大手が実店舗を開始することは、Amazonがアメリカで常設実店舗を開設していることからも明らかなように相乗効果が見込めます。またZARAも実店舗こそが最大の広告価値があるとしています。

目指しているのはAmazonのような総合小売りサイトか

SHEINがユニクロ跡地に期間限定店を出店という内容だけを見ると何やらメディアの「ユニクロ超え」報道に拍車がかかりそうですが、SHEINとユニクロは商品企画からビジネスモデル、目標などすべてが異なるため、日本国内でユニクロの客が大幅に奪われるということは考えにくい状態です。

SHEINは先ほど書いたようにトレンド商品を高速で投入することに対して、ユニクロは比較的ベーシックなデザインの商品を扱い、デザイン開始から店頭投入までおよそ1年間~半年かかるのが特徴です。またネット通販がほとんどのSHEINに対して、ネット通販もありますが実店舗販売が大半以上のユニクロとでは、客層も客数も大きく異なります。SHEINと競合が激しくなるのはユニクロではなくトレンド商品を高速投入するZARAではないでしょうか。

ユニクロを展開するファーストリテイリングの売上高が世界3位であることに対して、ZARAのインディテックス社は世界1位の売上高を誇りますから、SHEINがわざわざ世界3位打倒を目標とすることは考えづらく、世界1位を目標として設定するでしょう。さらにいえば、衣料品と靴、バッグ類くらいまでしか取扱い品目を拡大していないZARA、ユニクロに対してSHEINはコスメにも手を広げ始めたため、ゆくゆくはAmazonのような総合小売りサイトを目指すのではないかと指摘する識者もいます。

SHEINの今後の動向と、果たして現在報道されている内容が事実なのかどうか、注目する必要があるでしょう。

  • 取材・文南充浩(みなみみつひろ)

    1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。

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