ソフトバンクが1位宣言!イヒネ・イツアの圧倒的身体能力
愛知・誉高校の大型遊撃手、イヒネ・イツアをソフトバンクが1位指名宣言。ナイジェリア人の両親を持つ18歳の少年が秘めたポテンシャルとは
愛知県小牧市にある私立・誉(ほまれ)高校のグラウンドに、八頭身の18歳が立っていた。184㎝、82㎏という肉体のシルエットはとても美しく、とりわけ隆起した太ももはいかにも弾力と柔軟性があって、スプリンタータイプのアスリートであることがわかる。
彼の名はイヒネ・イツア。ナイジェリア人の両親を持つ、誉高校の3年生だ。甲子園出場の経験は一度もなく、この秋までよほどの高校野球ファンでなければ馴染みのない名前であった。
ところが10月20日のプロ野球ドラフト会議を前に、今宮健太(31)の将来的な後継者を探している福岡ソフトバンクホークスがこの無名遊撃手の1位指名を公表したことで、一躍、イヒネの株は急上昇した。
「そりゃあビックリしましたよ。プロ志望届は出したものの、さすがに1位はないだろうと思っていましたから」
愛知県名古屋市に、4人兄姉の末っ子として生まれたイヒネは、名古屋弁のアクセントでそう話した。初めて白球に触れたのは、小学3年生の時。先に少年野球チームに入っていた友達に誘われた。
「両親の国であるナイジェリアは、やっぱりサッカーですよね。自分もサッカーをやりたかったんですけど、一度、野球をやってみたらハマっちゃった。捕る、投げる、打つ。それまでに経験したことがないスポーツだったんで、新鮮だったんです。始めた頃はセンターを守っていました。だんだん上手くなって、小学5年生ぐらいの頃に、こんな楽しいスポーツを職業にできるならと、プロ野球選手を夢見るようになりました」
運動能力に長けた少年は、どんなスポーツに取り組んだとしても、活躍できたことだろう。
「サッカーもまあ、それなりに(笑)。跳躍系や走る系は、他の人よりも自信があります。あるとき、部員が不足していたバスケ部の練習にちょっとだけ参加し、そのまま試合に出ると、面白いようにゴールが決まって勝ったことがあった。翌週も試合だったんですけど、その日は野球と重なっちゃって行けなかったんです。するとチームは負けました。バスケも得意でしたけど、野球が一番好きだという気持ちがぶれることはなかったです」
中学時代は軟式野球のクラブチームである東山クラブに所属。今年、イヒネ同様にドラフト上位候補である内藤鵬(日本航空石川)とチームメイトだったが、下級生から試合に出場していた内藤とは違い、イヒネは3年生になっても補欠だった。
それでもプロ野球を夢見る少年は腐ることなく練習に明け暮れ、ついにはドラフトの目玉候補と呼ばれるまでの存在になった。憧れはソフトバンクの外野手、柳田悠岐(34)だ。
「(ソフトバンクの指名が決まった)今となっては後付けかと思われるかもしれませんが(笑)、ずっと前から柳田選手が好きでした。同じ左(打者)ですし、あの強いフルスイングは誰が見ても格好いい」
誉高校入学後、身長が4㎝伸び、体重は20㎏近く増えた。遊撃の守りに取り組んだのは2年の夏の大会前からだ。実質1年でドラ1評価を受ける遊撃手に成長した。
しなやかな身のこなしで難しいゴロも鋭い飛球も捌き、あらゆる捕球体勢からでもスローイングは正確だ。高校通算本塁打は15本。まだまだ持って生まれた身体能力だけで野球をやっている印象は拭いきれないものの、プロの環境でこの原石を磨けばどれほどの輝きを放つのか――その可能性にソフトバンクをはじめとする球団は賭けたいのだろう。
「今、取り組んでいる強化はやっぱりバッティングですね。プロに入って、トリプルスリーなど数字的な目標はまだ何も想像がつかない。1年目から活躍したい気持ちは誰もが持っていると思いますが、でも実際それができるかといったらきっと難しい。野球を長く続けたい? いや、長く続けるだけではダメだと思う。やっぱり、活躍したい。その結果、長く続けられたらいい」
話を聞いていると、こちらの目を見据えて言葉を選ぶイヒネの瞳に吸い込まれそうになる。汚れた(筆者のような)大人の目とは違って、純粋に将来に希望を抱いている綺麗な目をしている——イヒネに直接会って、何より抱いた印象をそのまま本人に伝えた。
「いやいやいや、汚れた目をした人なんていないですよ!」
一言で対話者の心を掴むスター性はすでに備わっている。



取材・文:柳川悠二写真:川柳まさ裕