'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

売春やチャットも…若い女性が「ビジネスホテルを転々」意外な理由

覚醒剤に暴力団…紅白歌手の娘が告白「性の玩具にされた壮絶半生」

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_271366" aria-describedby="caption-attachment-271366" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c9deb55f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/IMG_3870.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-271366" class="wp-caption-text">新宿・歌舞伎町周辺には家を出た若者がたむろしていることが多い</figcaption></figure>
<p>安価なビジネスホテルを転々としながら生きる若い女性。</p>
<p>なぜ彼女たちはアパートに比べれば割高で、リスクの高いビジネスホテルを住居にし、しかも漂流するように生きるのか。</p>
<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/271351">前編：若い女性が「ビジネスホテルを転々」意外な背景</a>】につづいて彼女たちの知られざる生態を見ていきたい。</p>
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<p>ビジネスホテルからビジネスホテルへと渡り歩く若い女性たちの中には、売春、特に個人売春で生計を立てている者が少なくない。</p>
<p>堀田卯月（仮名）の場合は、出会い系サイトの「Ｐ」や「Ｈ」を利用して客を見つけていたという。登録をすれば、一日に数十件の男性からメッセージが届く。その中から安全そうな人を選んで値段交渉して駅前などで会い、ラブホテルへ行くのだそうだ。</p>
<p>個人売春の相場は、20代の女性であれば、客１人あたりショートで１～２万円、泊りで３万円ほどだ。ビジネスホテルの料金が一泊4000円だと計算した場合、週５で働いたとして、日に客を１～２人取ればなんとか生活は成り立つ計算になる。</p>
<p>だが、個人売春は非常にリスクの高い商売だ。逮捕される危険もあれば、客といざこざが起きても自分で解決するしかない。なぜ彼女はコロナ禍が収まった後も、ソープランドにもどらず、個人売春をつづけたのか。</p>
<h2>「ソープが安全とわかっていてもできない」</h2>
<p>卯月は理由を次のように語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「昔から人と付き合うのがすごく苦手なんです。特にお店に勤めるとかがダメ。ソープで働いていた時もそうだったんですけど、何時に来て何時まで働いて、決まったことをするというのが無理なんです。何日かそれをつづけると、決まって鬱っぽくなってメンタルがやられちゃう。</span></p>
<p><span class="strongInContent">それに、店長とかからこれをしろって言われると、パニックになっちゃうんです。頭では自分１人でウリ（売春）をやるより、ソープやデリの方が安全だってわかってるんですけど、私の場合は体質的にできないんです」</span></p>
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<p>これは個人売春をしている女性の多くに通じることだが、彼女たちは枠に自分をはめて生きることが非常に苦手だ。</p>
<p>発達障害など何かしらの特性があったり、精神疾患などで気分の浮き沈みに波があったりするケースも少なくないが、シフトに従って、決められた手順で働き、店内で人間関係を維持して、給料を得るということが難しい。</p>
<p>だからこそ、彼女たちは気分が安定していて、働く必然性に駆られている時だけ、個人売春をすることを選ぶ。リスクは高いし、収入も安定していないが、そうやって生きることしかできないのだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="アパートの生活がストレスになる理由"></div>
<figure id="attachment_271359" aria-describedby="caption-attachment-271359" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a648aa8a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/IMG_3887.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-271359" class="wp-caption-text">繁華街でたたずむ若い女性（写真は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>実は同じことは、ビジネスホテル生活をする理由にも当てはまる。</p>
<p>彼女たちは１つのアパートで暮らして毎月決められた家賃を支払い、お金を計画的につかって、隣近所の人たちと付き合うことができない。また些細な音や臭いを極度に気にすることもある。</p>
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<p>こうした人たちにとって、アパートでの生活は大きなストレスだ。だからこそ、彼女たちは倍以上の家賃を払っても、高いリスクを負ってでも、ビジネスホテルを漂流する暮らしの方が楽だと考えるのだ。</p>
<p>それは卯月の次のような言葉からも当てはまる。</p>
<p><span class="strongInContent">「ビジネスホテルってアパートに比べると防音の設備がいいじゃないですか。私、音にすごく敏感で、ちょっと何かが聞こえるだけでも眠れなくなるんです。だから１度ホテル暮らしをしちゃうと出られなくなる。</span></p>
<p><span class="strongInContent">ただ、人と顔見知りになるのは嫌なんです。ロビーの人や清掃の人に顔を覚えられて、一々挨拶されるのとかすごくプレッシャー。彼らに見られるかもって考えると、部屋から出るのも嫌になる。だから、１週間くらいでホテルを転々とした方がいいんです」</span></p>
<p>卯月は病院で検査を受けたことがないが、発達障害の症状の１つである感覚過敏があれば、小さな音を極度に気にするということはあるし、対人恐怖があれば、人からの挨拶さえプレッシャーになるということもある。何かしらの特性を持っている可能性は高い。</p>
<h2>卯月の唯一の生きがい</h2>
<p>実際、彼女は仕事以外でよほどのことがない限り、部屋から外に出ることはないそうだ。日中はずっとスマートフォンで「＃コンパス」というゲームをしているか、コンビニで買った酎ハイを飲んでいるかしているだけで、人と接触することを極力避けてきたという。</p>
<p>それでも、彼女には自分の存在を認めてほしいという承認欲求はあるようだ。彼女がゲーム以外で唯一の生きがいとして挙げるのが、地下アイドルユニット「Ａ」の追っかけだ。</p>
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<p>Ａは週に１回くらいのペースで各地でライブを開催しており、会場では高額なグッズの販売や、１枚1500円のチェキによる撮影会を行っていた。卯月は個人売春で月に40万円ほどを稼いでいたが、生活費以外はそこに費やしていたという。同じグッズを何十個も買ったり、一回の撮影会でチェキを20～30枚（３万～４万5000円）撮ったりしていたそうだ。</p>
<p>彼女は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「私にとって〝推し〟って生きる上でなくてはならないものなんです。ＢＴＳみたいなメジャーなものには興味ないかな。無名の地下アイドルの方がずっといい。なぜって、なんか日常に入り込んでくれる感じがするからです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">〝推し〟にいっぱいお金かけて『ありがとう』って言われたら、生きてるなぁって感じがするじゃないですか。頭をなでなでされた時とか気絶しそうになったくらい。</span></p>
<p><span class="strongInContent">あ、でも、実際にプライベートで会うとかはダメです。絶対にアイドルとファンの線は超えちゃダメ。アイドルとファンの垣根があるからいいわけで、それがなくなったらただの男女じゃないですか。そしたら怖くなっちゃうから無理」</span></p>
<p>彼女の中には、人間対人間のリアルな関係を恐れる気持ちがあるのだろう。「ファンと地下アイドル」「風俗嬢と買春客」という、両者を分ける垣根がなければ、安心して人と向き合うことができないのだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="彼女が直面した厳しすぎる現実"></div>
<figure id="attachment_271365" aria-describedby="caption-attachment-271365" style="width: 3096px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b5d4f0d6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/20210310_123625.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-271365" class="wp-caption-text">若い女性向けのリーズナブルなホテルも多い（写真は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>しかし、こうした生き方には、未来に向けた建設的なものがまるでない。個人売春にせよ、ビジネスホテル生活にせよ、地下アイドルにせよ、すべてが今この時を満たすだけのものでしかないのだ。なぜそうした生活に不安を感じないのだろうか。</p>
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<p>卯月は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「子供の頃から長生きするって思っていないんです。未来なんて考えたことないし、自分が何年か先に生きているイメージも持ってない。だから、将来どうするのとか言われても、『別に』って感じなんです」</span></p>
<p>自己否定感が強い子に共通する感情だ。しかし、本人が将来をイメージできなくても、現実に時間は進んでいく。彼女がそれを思い知らされたのは22年になって間もなくだった。</p>
<p>ある日、彼女は不正出血をきっかけに自分が妊娠していることに気がついたのだ。彼女によれば、もともと生理不順だったことに加え、肥満体系だったこともあり、妊娠に気がつくのが遅れたそうだ。</p>
<h2>すでに3000グラムに成長</h2>
<p>だが、少し後で知るのだが、この時点で彼女はすでに臨月に入っていた。このことを踏まえれば、おそらく以前から体の異変に気がついていたものの、その現実から目をそらしていただけなのだろう。</p>
<p>彼女は妊娠という現実から逃れられないことを知り、ネットで見つけた妊婦支援のＮＰＯへ連絡した。貯金も妊娠の知識もなかったからだそうだ。ここで初めて病院にかかるのだが、胎児はすでに3000グラムにまで成長していた。</p>
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<p>彼女は医師から出産間近であることを告げられても、母親として子供を育てて生きていくイメージを持てなかった。そこで彼女は出産した子供を特別養子に出し、手放すことを決めたのである。</p>
<p>おそらく、彼女のこうした場当たり的な生き方がビジネスホテル生活の基盤になっているのだろう。彼女が抱えている特性と、今その場だけを見て行動する性格が、ビジネスホテル生活を継続させているのだ。</p>
<p>考えなければならないのは、こういう女性たちがビジネスホテルを転々としていることを、社会の側がほとんど認識していないことだ。今はビジネスホテルに住んでいるが、ほんの些細なことでホームレスにまで落ちていく。そういう不可視なホームレス予備軍がビジネスホテルには少なからずいることを、自治体など支援をする側はもっと危機感を持って考えるべきだろう。</p>
<p>【募集】</p>
<p>シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10～40代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮で暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。</p>
<p>石井光太（作家）</p>
<p>ツイッター　@kotaism</p>
<p>メール　postmaster@kotaism.com</p>


77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

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