日産が消滅する日 ゴーン前会長と西川社長がケンカしている合間に
「日産はいま経営的に危機に瀕しているわけですが、皮肉なことにそれはカルロス・ゴーン氏のようなカリスマ的トップが不在だからです。西川廣人(さいかわひろと)社長はゴーン氏に代わる経営者としては力不足であるのは否(いな)めません。日産はいま実質的には経営者がいない状態なのです」(自動車評論家の国沢光宏氏)
1月8日、特別背任容疑で再逮捕されていたゴーン氏は、勾留理由の開示を求めて東京地裁に出廷した。意見陳述では、「合法的に日産のために全力を尽くしてきた」と主張。
一方で、東京地検特捜部の捜査は難航しているとの見方も根強い。そして長引く捜査の混乱はゴーン氏を追い出した日産の経営に影を落としつつある。
「ゴーン氏は新車の開発といった1000億円規模のプロジェクトにもリスクを取って投資してきた。日産の現経営陣では、そんな大胆な決断はできない。新体制が固まらずズルズル行けば、日々技術が進歩する自動車の世界で、完全に取り残されてしまう」(前出・国沢氏)
今回の事件の背景には、日産の完全支配を狙うルノーと、それに抵抗したい日産サイドという”内紛劇”があったとされる。西川社長らは、ゴーン氏らの非を検察に告発して経営から締め出し、同時にルノーの支配から脱することを目指したというのだ。だが、捜査の難航でその目算は外れ、逆にルノーの圧力が強まる恐れも出てきた。経済ジャーナリストの町田徹氏がこう語る。
「乗っ取りを恐れた日産は、ルノーが要求する臨時株主総会を拒否しているが、6月には定時総会がある。そこで混乱の責任を問い、外国人投資家が持つ株と合わせて、過半数の賛同を得られれば、ルノーは西川氏らの首を挿げ替えられる。そうやって日産を完全に子会社化するシナリオが考えられます」
このままだと、西川社長の意図とは逆にルノーによる日産の「占領」もあり得る状況だ。さらに、業績にも陰りが見え始めた。世界最大の自動車市場アメリカで日産車が売れなくなっているのだ。’18年11月には、前年同月比マイナス18.7%となり、これは主要自動車メーカーの中で最悪の数字だった。
「日産としては、日本はもちろん、アメリカでも販売台数を伸ばしたい。しかし、アメリカでは日産はほとんど人気がありません。セダン離れが深刻で、大幅な値引きをしないと売れないのです。今回の事件のせいでさらにマイナスイメージが付く。今以上に業績が悪化するのは間違いない」(経済ジャーナリストの片山修氏)
このまま日産車が世界的な販売不振に陥ると、ルノーとしても傘下に持っておく価値が低下していく。そうなれば、シャープや東芝のように、部門ごとに切り売りされ、中国などの資本に売り飛ばされることも起こりかねない。ゴーン・ショックの最悪のシナリオが現実となれば、日産が”消滅”してしまうのである。
強力な独裁者を失った組織が、その後に四分五裂して消えていくのは、歴史的にも繰り返されてきた構図だ。日産の正念場は、まさにこれからだ。


撮影:蓮尾真司(ゴーン氏、西川氏)、結束武郎(日産本社)