<figure id="attachment_271989" aria-describedby="caption-attachment-271989" style="width: 802px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0f02bac9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/2022102401729.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-271989" class="wp-caption-text">10月15日、電動キックボードの飲酒運転急増を受け、ＪＲ渋谷駅周辺で実施された警視庁による電動キックボード利用者への飲酒検問（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>わずか10㎝程度の車止めにつまずいて……</h3>
<p>9月25日深夜、電動キックボード初の死亡事故が発生してしまった。港区在住の52歳男性が高さ10センチ程度の車止めにぶつかって転倒。地面で頭を強く打って病院に運ばれ、翌26日に死亡が確認された。報道によると男性は飲酒して酩酊状態だったという。事故現場を映した防犯カメラの映像では電動キックボードに乗った男性が道に迷ったのか、現場付近を行ったり来たりしている様子が記録されていた。</p>
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<p>死亡事故が発生したタワマンの駐車場は公共スペースに隣接し、立ち入り禁止などの掲示もなくマンション住民以外でも普通に通行できるエリアだった。事故現場から約130～140mほどの場所に電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」のポートがあり、死亡した男性はここで電動キックボードを借りた可能性が高い。</p>
<p>なお、警視庁は2022年5月25日に「LUUP」に対して、「夜間貸し出しの中止」を要請していた。都内でシェアリング事業を手掛ける3社のうち、深夜帯にも貸し出しを行っているのは「LUUP」だけだった。要請後、7月～8月の2か月間、繁華街の一部ポータルで夜間貸し出しを停止したものの、結果的に夜間に事故は起きてしまった。</p>
<p>警察庁交通局は今から10年前の2002年11月の時点で『いわゆる「電動キックボード」及び「電動スクーター」について』として、道路交通法（第2条第1項第10号）において、原動機付自転車として取扱う、とした。自転車と同じように手軽な乗り物に見られがちだが、自賠責保険（共済）の契約を締結し、地方税（市町村税）の納付義務、当該市町村から交付される標識（ナンバープレート）を取り付けることなども必須だ。</p>
<p>しかし実際は、人命を守る安全重視と逆行するような動きが水面下で行われていた。その典型的な例が「特例電動キックボード」で、今回、死亡事故につながった電動キックボードもそれに該当する。より多くの人が利用できるようにするために、「原付」扱いではなく、時速15 km/h以下で動く「小型特殊自動車」にすれば、ヘルメットの着用義務がなくなり、多くの人が乗りやすくなる。そのため、関係省庁が策定したこれらのルール（小型特殊自動車に位置付ける、最高速度15km/hとする、普通自転車専用通行帯を走行可など）を遵守することを条件に、経済産業省から認可を受けた企業が事業の一環として「実証実験」を行えるようになった。2021年4月以降、株式会社 Luupをはじめ、4事業者でスタートし、現在、14事業者にまで増えている。</p>
<p>さらに今年4月には、電動キックボードの新しいルールが衆院本会議で可決・成立した。時速20km/h以下であれば免許不要、ヘルメット不要で車道走行を可能とし、さらに時速6km/h以下の車体であれば自転車通行帯のある歩道のみ、歩道の走行も認められた。2024年4月頃に施行される見通しだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="シェア事業を認可する経済産業省の言い分"></div>
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<figure id="attachment_271991" aria-describedby="caption-attachment-271991" style="width: 523px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0a797440"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/45aaf91bab54da6d45b7748841d7c94b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-271991" class="wp-caption-text">今年2月のキャンプで電動キックボードに乗って動き回る新庄剛志監督。この手軽さが売りでもあるのだが……（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>電動キックボードの事故数は昨年を上回るハイペース</h3>
<p>電動キックボードの実証実験で「ノーヘルでの安全性」を示そうとする動きと逆行するように、電動キックボードによる事故は急増している。警視庁の調べによると、東京都内では2021年の1年間で電動キックボードによる人身事故や物損事故が68件、2022年は8月末時点ですでに80件と昨年を大きく上回るペースだ。</p>
<p>さらに飲酒運転も急増している。警視庁によると、都内では2022年5月8日までに10－30歳代の男女13人が酒気帯び運転で摘発されており、うち12人がLUUP社の「特例電動キックボード」を利用していた。9月に発生した死亡事故を受けて、テレビ朝日が「グッド！モーニング」がLUUPのポートで張り込んだ結果、わずか3時間で10名中4名が飲酒状態だったことがわかっている。</p>
<p>実証実験中に死亡事故が起きてしまったことをLUUPはどう考えているのか。</p>
<p><span class="strongInContent">「実証実験は、電動キックボードが安全・便利に利用できるような交通ルールの検討のために、関係省庁が内容を策定（小型特殊自動車に位置付ける、最高速度15km/hとする、普通自転車専用通行帯を走行可とする等）したものに事業者が参加する形となっています。</span></p>
<p><span class="strongInContent">改正道路交通法の施行まで、引き続き関係省庁とともに安全性と利便性の検証を実施し、電動マイクロモビリティが正しく社会に根付くための取り組みを続けていきます」</span></p>
<p>この「交通ルールを検討する」利点として考えられるのは経済面での活性化である。今回起きてしまったノーヘルでの死亡事故から見ても、「交通安全」の視点は抜け落ちていると言わざるを得ない。</p>
<p>このヘルメット無しで運転できる電動キックボードのシェア事業を認可しているのは経産省だ。今回の死亡事故を受けて、まずは安全面を重視し、ヘルメット着用を徹底する施策に移行すると思われたが、死亡事故が起きたわずか4日後の9月30日にH社、10月7日にY社に対し、実証実験の延長を認めたことが判明した。つまり、死亡事故が起きたにもかかわらず、水面下では電動キックボードの「ノーヘル運転」を推進していこうとする動きが相変わらず行われている、と受け取られても仕方ないだろう。</p>
<p>経産省製造産業局生活製品課は以下のように回答した。</p>
<p><span class="strongInContent">「実証実験を中止にする場合は、事業者からの要請があった場合か、事業者の活動の中に法令違反などがあった場合に限ります。申請に対して許可を与えている以上、実験の期間内に死亡事故が発生したというだけでこちらから中止を要請することはありません。基本的には2024年4月まで実証実験を続ける予定です」</span></p>
<p>経産省の回答の中で出てくる2024年4月とは、免許不要となる特定小型原動機付自転車に関する改正道交法が施行されるとみられる時期。同省のコメントを額面通り解釈すれば、今後、どれだけ死者が出ても事業者に法令違反がない限り、「電動キックボードのノーヘル運転実施へのトライアル」は続く。9月26日に死亡が確認された男性は飲酒運転だったとはいえ、10センチ程度の車止めにつまずき、頭を強打したことで命を奪われた。手軽さにおぼれて命を奪われたあまりにもあっけない死を、どうして重く見ることができないのだろうか。</p>
<figure id="attachment_272230" aria-describedby="caption-attachment-272230" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dfb93e10"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/8b555ac8fe73058c3a17c3b72c0ac93e-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272230" class="wp-caption-text">9月25日深夜、亡くなっていた人が乗っていた電動キックボードと同型のもの（撮影：加藤博人）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_272228" aria-describedby="caption-attachment-272228" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dd6538bb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/d001d2daa95fb5154e0f86ab67a5cbd8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272228" class="wp-caption-text">わずか10センチほどの縁石（右）と電動キックボードのタイヤ。9月25日深夜に起きた死亡事故もそうだだったが、乗車中にこの高さの縁石につまずき、頭を強打すれば、死に至る可能性があるのだ（撮影：加藤博人）</figcaption></figure>


加藤久美子

9月末、都内で電動キックボードを飲酒運転していた男性が亡くなった。ノーヘル運転実現をめざして実証実験が行われている最中に起きた。しかし国は簡単に「ノーヘル厳禁」に舵を切らない。その理由を追った。

命より経済重視？電動キックボード死亡事故後に見えた「国の思惑」

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